episode42
主要都市には入場の際に身分証の提示が求められる
「リジェットにようこそ」
「こんにちわぁ〜、まだ少し冷えますね?あ、これ身分証です」
できるだけフレンドリーに接しつつ自然に偽造した身分証を手渡す
Bランクの冒険者でガチガチに固めた商人の馬車なんて高級品を運んでいるか偽装かの二択しかない、わかりやすい情報は残したくないためだ
なので僕が提出したのはCランクの冒険者証と商会ギルドで発行される商人御用達の通行書、もちろん両方僕の手作りだ
「商人か…、滞在理由は?」
「主に食料の補給ですね、主人の意向で昼にはすぐに出ます」
僕は馬車の中を親指で指して偽造がバレないか緊張しているレオに視線を集める
そしてさっさと偽造がバレないように身分証をポケットの中に戻す
「疑っているわけじゃないが規則だから検閲をさせてもらうぞ、すまないな」
「おっと、色々隠しておかないといけないかも、ちょっと待ってくれますか?」
「はは、よかったじゃないか、夜もこの都市で飯が食えるぞ」
軽口を言い合いながら検閲が終えるのを待つ
もうすでにバレたらいけない部分は終えているため気が楽だ
「そういえば、…最近野党が多いと聞いたんですけどどうなんですかね?たとえば貴族が襲われたとか…」
こういう主要都市なら港街よりも情報が回っているはずだ、特に犯罪者を中に入れない役目である守衛はそういった情報や実行犯などの特徴、どこら辺に野党がいるかなどの情報を持っている可能性が高い
「確か…、そうだな、そういえば西の帝国の…銀翼魔術師団がここらへんに来ているらしい、あいつらは何を考えているかわからんが実力だけは確かだ…、お前さんもいちゃもんつけられんように気をつけた方がいいぞ」
(ビンゴッ!!)
僕らの目的地は西の列強国の一つロービア王国だ、そしてロービア王国と国境が接しているもう一つの列強国の帝国、レオは詳しい事情を話してくれないがおそらくこいつらだろう
ポケットから 1万リリーほどを取り出して守衛に手渡す
「助かりますよ、銀翼魔術師団なんて関わっても良いことなんてないですもの」
「はは、お前さんも気前がいいな、おかげで美味い酒が飲めるよ」
互いに笑顔で握手する
そして検閲がちょうど終わったらしく挨拶をしてから馬車の中に戻って一息つく
「はぁ〜、疲れたよ」
「お疲れさん、どうだった?怪しまれたか?」
「全然、警戒体制じゃないと小さな馬車なんていちいちチェックしないよ、それより…」
僕はミリーだけに得た情報を共有する
敵は帝国最強の魔術師集団の可能性がある、と
ミリーも当然嫌そうな顔をする、まるで腐った酸っぱい匂いを嗅いだ猫みたいな顔だ
「……どうしたの?」
僕がミリーの真似をして変顔をしているとレオがじっと見つめていたため尋ねる
「いや、先の守衛との会話…、何を話していたのかわからんかったがよくまぁ抜け抜けと偽造した身分証を…」
「フレンドリーな方が相手も“あ、こいつは良いやつだな”って思って無意識に優しく接してくれるんだよ、それに商人の場合身分証よりも禁制品の持ち込みの方に注視するからね」
馬車と馬を門の入り口付近に預けてから昼に集合と言ってから、レオを護衛する班と食糧調達の班に分かれて行動した
馬車の中で昼用に買ったパンを齧りながら魔術師対策の道具作っていく
ミリーも同じようなことをしている、剣士にとって魔術師対策の一つは準備が大切だからだ
「アンズ、そこを右の道に行ってくれ」
「右!?なんでよ?」
「なんでもだ」
ミリーが御者台のアンズに指示を出す、昼ごはんを口に咥えながらの運転になっているのでできるだけ早く交代制にできるように御者の練習をしようと思う
しかしとりあえず目の前のことを片付けようと刀を持つ
「街を出てしばらくしてからずっとついてきてるね、それに道を変えてから速度を上げた」
「人数と魔術師の有無は?」
魔眼に魔力を込めて少し後ろをついてきている馬車を見る
魔術師とその他の魔力には大きな差ができる、どう言語化したら良いのか全くわからないが魔術師の魔力は模様のようになっている、それに時々動物のようなものが見える時もある、多分模様は本人の魔力操作の癖でできたのだろう、後者は知らん
「7人…、1人魔術師がいるね、まぁ行ってくるよ」
「おう」
走っている馬車の中からルカだけが飛び出す、ミリーも他のメンツも全く戦う気がない
そんな異様な様子にレオは戸惑う
「…お前らは戦わないのか?それに勘違いだったらどうするんだ…?」
「ん?勘違いだった場合あっちが悪い、こちらが道を変えたら速度を上げるような行動はアウトだ」
レオは知らないが付かず離れずの距離を維持して後追いする行動でも治安の非常に悪い場所だと魔術を打ち込まれても文句を言えないような行動だ、挨拶をするなり、敵意がないことを示さないといけない
「多分野盗だ、道を変えたら速度を上げた、おそらくまっすぐの道に仲間が待ち伏せしてたんだろう、それにルカは馬車の中で一気に仕留めるつもりだろうから俺らは邪魔になる、俺らの仕事はお前の護衛、以上」
「…本当に大丈夫なのか?魔術師もいるんだろ?」
ミリーはここでようやく気づく
ミリーとルカ、二人とも同じBランクの名札持ちの剣士、けれど筋骨隆々の自分と違って冒険者と比べれば少しスラっとしているルカ、年もまだ若い
つまり自分とルカを比べて自分の方が強く見られているのだということだ
少しミリーの気分が良くなる
「ふひっ、まぁ俺が行ったほうがよかったかもな?俺の方が実際強いし」
「リーダー…、竜討伐戦の時脳震盪で良いところ全部ルカに持ってかれたじゃないですか…、説得力ないですよ…」
「あれは運だ、運が悪かった、それに対魔物なら俺の方が上だ」
ミリーが言い切ると同時に馬車が大きく揺れる
全員が警戒体制に一瞬で入る、そしてその直後ミリーが首と肩を何かに抑えられる
「––ひぇっ!?……なんだルカか、お前力強くて一瞬本気でビビったわ…」
「ただの野盗だった、僕がアクセサリーを少し売り捌いてたのを見て目星をつけたとさ」
ルカはそう言ってどっしりとした重みを感じさせる皮袋を床に置いた
「戦利品、宝石とかも混ざってるから大体40万リリーくらい入ってると思う」
「おぉ!いいな野盗、いつも引き渡して盗品は被害者に返却だから実入が少なかったがギルド依頼を通さなければこんだけ儲かるのか〜!」
そんな感じで二人で盛り上がるミリーとルカ
しかしレオの心臓は今でもやけに早く鼓動していた




