episode4
道場で木刀を振っていると誰かが入ってくる気配がした
(父さんと……誰だ?)
そもそも父が道場に顔を出すなんて珍しい、自警団の仕事は主に二つ、食料確保のための狩りと里の安全を確保するための魔物の狩りだ、準禁域一歩手前に位置している“林檎の里”はその性質上魔物が多く存在している、そのため基本的に里に常駐している自警団員は4、5名、それ以外の団員は休みだったり里の外に出たりしているのだ。そして自警団副団長という肩書きを持つ父はかなり忙しいのだ
「……え〜と、確かシャルロットだっけ?」
「こ、こんにちわ…」
振り向くとそこには昨日見た顔があった、しかし昨日とは違ってなぜかうちの道場着を着て父の隣に立っている
「ルカ、シャルロット嬢に軽く剣術を教えてやれ、いつもお前がやっている稽古を教えてやるんだ」
「……なんで?……いや護身用ってことか」
一人で言って一人で納得する、しかも父は“けど“、“いや“と悶々とする自分に「教えることでお前の上達につながる」と任せて仕事に向かってしまった、どうやら仕事の直前に連れてきていたらしい、相変わらずの計画性のなさだ
「はぁ、まぁいいよ、一旦休憩にしよう」
「う、うん」
正直自分はこの子について何も知らない、名前がシャルロットということと一人称が“ボク”、それくらいだ、相手に自己紹介した覚えもないから多分僕の名前も半信半疑だろう、なら一応ブレイクタイムが必要だろう
「緑陽茶しかないよ」
「う、うん」
お茶とお菓子を出して縁側に座り込む、しかしさっきからうんしか言わないな、こういう時同世代との会話経験がない僕との時間はさぞ気まずかろう
「改めて名乗るか、僕の名前はルカ・アンサンブルクス、林檎の里自警団副団長クドの息子と言ったらわかりやすいだろう」
「えっと、ボクはシャルロット、お父さんは馬車に乗ってよく外としょうだん…?みたいなのをしてるよ」
(……外としょうだん…?商談か!)
こんな閉鎖的な里だが外との交易がないと生きていけない、里で取れた魔物の素材に特産品の蜂蜜と高級林檎を買取り、そして塩や胡椒などの調味料、絨毯や衣類、そして何より酒を持ってきてくれる里の生命線、商人ロンの娘だったということに驚く、なにせあいつら里長のところの悪ガキどもは里のアキレス腱をずっと蹴っていたのだ。
「ひぇ〜……無知って怖ぇ……」
ロンさんも里の特産品などはかなり重要な商品だ、しかし彼のアキレス腱ではない、せいぜい髪の毛程度だ、僕が昨日あの場所を通らなかったら僕が大人になった頃には里は困窮していたかもしれない
(いやまぁこの子がなんであれ助けたんだけども…)
「……?どうしたの?」
「いや、特に」
ピュアな目で見られていて罪悪感が生まれた、特に何も悪いことをしていないしなんなら良いことをしたのだけどもなぜか罪悪感が生まれた
「……なんでイジメられてたの?別に嫌なら話さなくて良いけど」
「あぁ〜、えっとね、ボク将来…魔術師に……なりたいんだ」
少し迷った様子を見せながらも恐る恐るといった感じでそういった、魔術師になりたいと、しかしなぜそれがイジメにつながるのだろうか
「それで魔術の練習をしていたらそれをレノたちに見つかって、魔女だ魔女だって……それで……」
「あぁ〜…なんともガキ臭い奴らだ」
やっぱり母さんが言っていた通り穏便に済ませるべきではなかった、本当に一度顎を砕いて土を食わせるべきだった。僕も去年か一昨年くらいに魔術の勉強をした、薪割りの仕事を簡略化できないかと頑張って風初級魔術を勉強し、いざ発動したのだが制御が難しくて薪ではなくおが屑とズタボロの角材を作り上げ、何度も何度も練習してようやくかろうじて薪の原型を保てた頃には普通にやった方が早いと挫折したのだ
「ルカも……魔術師なんてって思う…?」
「そんな阿呆な…結構昔、まだ魔術師の絶対数が少なかった時代があったんだ……」
ルカは昔読んだ史実の戦争の話を持ち出して話し始めた
“ある時両軍が対決した、
片方の軍は総勢500、もう片方は200、当然500の軍は負けるはずないと思った
しかし500の軍は前進している最中に大穴に阻まれた
前夜の斥候の報告にはこんな大穴なかった、一晩で現れた大穴、斥候に文句を言おうが実際に目の前にあるのだ、当然大幅の迂回を求められた
そして迂回している最中、彼らは突然の砂嵐に襲われた、鎧の隙間から入ってくる砂と馬がまっすぐ進めないほどの視界不良、兵と馬はかなりの疲弊を強いられることとなった
そしてようやく敵との正面衝突、しかし疲弊していようが二倍以上の数、200の軍は押し込まれる形となった
500の軍は思った、これなら勝てると、疲弊と地形的に不利を強いられているからと言ってあっちはすでに重症の戦えぬ兵が多数、しかしこちらはまだ半数は残っていると
しかし次の日彼らは昨日斬った重傷のはずの敵兵を見ることとなった“
「て話で、これのオチは200の軍の方には平凡な魔術師が三人いたんだ、たった三人の魔術師のおかげで戦略の幅が増え、相手を疲弊させられこちらは長く戦えた、三人の魔術師っていうお話」
今勝手に命名した“三人の魔術師“という名前、自分で言うのもなんだがなかなか僕は物語を話すのが上手いんじゃないだろうか、実際目の前の少女は目を輝かして聴いてくれてなんなら拍手している
「ウチの里の自警団に魔術師はいない、けど僕が自警団に入った時には魔術師が仲間に欲しいと思うよ」
実際魔術師がいると戦略性が一気に上がる、小狗竜とかを狩る時とかもっと簡単に狩れそうだし遠征時も清潔な水と簡単に火を起こせるってだけで重宝される、魔術師は確実にいた方がいい、それなのにあのクソガキどもは貴重な魔術師の爆誕という可能性を潰しかけていたのだ
「まぁ魔術師でも自衛はできたほうがいいと思うな、……そろそろ始めよっか」
「うん!」
この日から父親に友達がいないと心配されていた少年の隣には人の影ができ始めたのだった




