episode30 三者会合
港街アセトで活動している冒険者の最高ランクはBランク、そして三つのBランクパーティーが存在している、そしてその三つのパーティーのリーダーが一堂に会すという噂が立った
トップの冒険者が集まると言うのだ、当然何かあるのだろうかと気になって野次馬ができる
「お、おいあれって…」
酒場に二人の男が入る、一人は大剣を背負った赤髪の男、もう片方は銀とも取れないこともない薄墨色の髪で右目を隠した若い男
二人は少し店の中を見回した後に待ち合わせ相手を見つけてそのテーブルに行く
「久しぶりね、ルカ、ミリー」
「相変わらずだな、アリン」
「予定が合わなかったから本当に久しぶりだね」
小さく“おぉ“という声が上がる、冒険者はプライドが高い人間が多い、そのため上位のランクであればあるほど付き合いが拗れる可能性がある、トップの冒険者同士の仲が悪くないと言うのは気持ちよくその場所で活動するために必須である、つまり周囲の冒険者は三人の仲が悪くなさそうなのを見て安堵したのだ
「『ネイツ』の瀑布アリンだ、持ち前の圧倒的な物量で押し切るアセト最強の魔術師だ、ぜひ俺のことを踏んでほしい!」
「それに『一握りの砂宝石』の竜剣アリーだ、あの大剣で大型の竜の首を切り落としたらしいぜ?面倒見もいいし頼りになるよな!」
(ふふっ、次は僕か)
周囲の人間が格好良く二人の解説をしている、なら次は僕かと期待して耳を澄ませる、けれどさっきの二人のようなキレのある解説が聞こえてこない
「あ、あぁ〜、えっと…、『流星闊歩アヴァンギャルド』の…顔は知ってるけど……なんだっけ?黒緋の…そっちは厨二病の子の二つ名か、、う〜ん、強いのは知ってるんだけど……」
「あれだろ?あの問題児をまとめてる…、えっと、顔は覚えてるんだけど…あぁ〜…」
少し気取っていたのが恥ずかしくなってきた、僕の二つ名どころか名前すら出てこない人間が多すぎる
「くぅ…!なんでだよ…!」
「お前のとこは悪目立ちするやつがいるからな、それに戦い方も印象に残りにくいしな」
僕を慰めながら酒と肉を頼むミリー、僕も同じものを頼む
「で、今回は何も交流会じゃないんだろ?僕らを呼んだ理由は?」
アリンに尋ねる、交流会ならパーティーメンバーを呼んで店を貸切にすればいい、なのに僕ら二人だけを呼んだと言うことは何か理由があるのだろう
「アヴァンギャルドと砂宝石に高位の竜の共同討伐を提案する、報酬は三分配だ」
「……竜か、いいぞ、受けよう」
アリンの誘いにほぼノータイムで頷いたミリー、けれどルカは少し悩むそぶりを見せる
「戦闘場所と対象の名前は?」
「おいおい、慎重になりすぎだぞルカ?俺たちが力を合わせれば竜くらいなら楽勝だ」
「お前こそその自信はどこから来るんだよ…」
まだ討伐対象の種類すらわかっていないのにどうしてそんなに簡単に頷けるのかと呆れるルカ
「何言ってんだよ、冒険者なんて自信が一番大事だろうが」
自信が一番大事、まぁ確かにわからないこともない、自信がある人間は緊張によるパフォーマンスの低下が少ない、常に100%、120%の実力を出せるだろう、しかしだ
「自信というのは酒と一緒だ、適量なら問題はない、むしろ心地良い、だが身の丈にあった量じゃないと…身を滅ぼすことになるよ」
ルカの言葉にミリーははいはいと言った感じで返す
「まぁ慢心はイケねぇよな、だってよアリン」
「わかってるわよ、…討伐対象は玉炎竜、現在は隣の子爵領との間にある森で冬眠中、炎竜ということもあってこの時期だと脅威も落ちるはずよ、討伐難易度はA上位、達成報酬は800万リリー、素材も全部売れば三等分しても1000万リリーは堅いわよ」
ルカは少し考える、高位の竜に少しトラウマがある、しかしこのメンバーなら作戦さえしっかりと立てればこの時期の玉炎竜に負ける通りはないはずだ、それに克服するにはちょうど良い機会だ
「う〜ん…、まぁ受けるよ」
「やり〜!…で、そういえばルカさん、確か先日白銀熊を狩ってましたよね?」
「うげぇ」
耳聡いやつだ、ギルドには持ち込んでいないはずなのにどこで聞いたのか、そしてその話を聞いてアリンも目を輝かせる
「高く売れたんじゃないの?胆嚢」
「…はぁ、いいよ、奢ってあげるよ」
「「ゴチになりま〜す!!」」
待ってましたよ言わんばかりに料理を注文し始める二人、なんでいくつになっても、どれだけ稼ぐようになっても結局人の奢りで食う飯がうまいんだ、そして運が悪いとこうやって集られる
僕も腹を括って追加の料理を頼んだのだった
ーー
先行して竜の寝床を確認しに行ったミスチーから合図がくる
「うちの盗賊から合図だ、ぐっすりらしい」
「よし、魔術師ども!寝起きにキツイのをかましてやれ!」
ミリーが全体に指示を出す、それを受けた三パーティー合同の魔術師たちが瀑布アリン、黒緋の魔術師ロララを中心に水、土の上級魔術を各々で叩き込む
地面を揺らす音と共に鳴り響く怒号が開戦の合図になった




