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龍と魔法がありふれたこの地にて  作者: クラムボンのおにぃちゃぁん
少年期 里編
12/36

episode12

準禁域の哨戒、狩り、剣術稽古、母の実家の知人との文通、魔術の軽い勉強、それらを繰り返して大体二年、僕はちょっとだけ出世した。自警団は団のトップに団長のレオン、その補佐に副団長の僕の父であるクドが入っている、そして基本的に30人の団員を五人程度の班に分けて、仕事をこなしている、たとえば団長レオンの班であればレオン班という名前で、主に彼らは大型遠征時の指揮などを担当している

そして今の僕の役職名はルカ班班長、主に準禁域の比較的浅瀬のところで人里に影響が出そうな魔物を狩る担当の班の班長を務めている


「足跡から見て…、鹿の親子っすね、もしかしたら罠にかかってるかもですので少し見て回った方がいいかもです」

「なら、そうしよう」


班長、と言っても将来性込みでの出世なのでまだまだ学ぶことばかりの若輩者だ、だから経験豊富な部下から色々学ばせてもらう


「ところでどうやって見分けたの?」

「ん〜、鹿の足って蹄とその後ろに小さい副蹄っていう蹄があるんですよ、でこれは若干細長いでしょ?そして蹄しか足跡が残ってない、んで鹿の副蹄は足の形的に地面につかない、だからこれは鹿のモノなんです、でも逆に猪は副蹄が残りますね」


正直こういう知識は本では学べないので非常に勉強になる、足跡だとか糞の状態だとか、この季節になる食用の木の実だとか、人生で役に立つ知識は大体本では知れない物なのだ


「ん、やっぱり鹿の子供が罠にかかってる」


罠を解除してそのまま解放してあげる、親子の鹿は何があっても決して狩猟してはいけない、自警団のルールだ、もし破ったら重い罰が課せられる、もし班員が破ったのなら班長である僕も連帯責任だ、平と違って責任が求められるようになったのだ。

そして今日も異常がなかったため里に戻る


「父さん、珍しいですね––ッ!?」


家に戻ると父が庭で鳥を眺めていた、家にいることと、鳥を眺めて情緒と感性を育てていることの両方に対して珍しいと言う、するとなぜだか徒手格闘の構えを取り、その流れで蹴りを放ってきた、突然のことだったため完全には避けられず顎を掠める


「……何?」

「コミュニケーションだよ、親子のスキンシップだよ、道場に行くぞ」


ちょっと自分の機嫌が悪くなったことを感じつつ道場に向かう、先に入った父から木刀を受け取って構える


「「『刻円の術理』」」


ほとんど同時の抜き打ち、けれどクドの方が速く、強かった。ルカは接触時に力負けして弾かれた木刀をすぐさま構え直して切り結ぶ、二度三度切り結びまたルカの木刀が大きく弾かれる


(……うざいな、本当に)


夢想刻円流はカウンターが主流、しかし同じ流派でも戦い方に性格が出る、自分から探りを入れて相手の動きに対して後の先をとるルカとは違い父であるクドは完全に待ちの剣を使う、そのためルカの探りに対して時々鋭い返しが返ってき、いなし切れずに体勢崩されることが多い


「どうした?踏み込んでこないのか?」


父のニヤケ顔がカンに触る、けれどいちいちこのウザいのにかまっていたらキリがないので心を落ち着かせる


(落ち着け、仕掛けるタイミングはこっちが主導だ、それにカウンターをいなせれば十分に勝機はある)


しかし困ったことに普段はおちゃらけた父だが剣の腕は別格だ、一度団長との試合を見たことがある、微動だにせず剣圧を放ち続ける父と父の間合いに対して円を描くように仕掛けるタイミングを探し続けるレオン団長、何度も仕掛けようと踏み込んで、躊躇って、子供の僕の目から見てもどっちが上かなんてわかるほどだった、準禁域浅瀬を管理する里の自警団団長相手にだ、それほどの力量差があったのだ


「けどまぁ僕も考えなしってわけじゃないんだよな」

「来るか?来るのか?」


速さで負け、力で負け、経験でも劣っている、けど僕はこれまで父の剣を近くでずっと見てきた、ありとあらゆる生物には癖というものが存在する、そして一つの癖を消してもがまた新しい癖ができる、無意識にだ、癖とはそう言うものだ、習慣ともいう、朝に水を一杯飲むとか、りんごを食べるときは毎回半分に切ってから食べるとかだ


(父の癖は僕が重心を後ろに倒して消極的な姿勢を見た時に必ずと言っていいほどにくりだしてくる突きだ)


僕の攻めないという選択肢を咎める為の踏み込みからの突き技、父の返し技がどれだけ素早かろうが返し技の内容がわかっていればいなすのは可能だ、そして僕が踵を地面に着けると案の定繰り出してきた


(獲った!!)


ルカが体を捻って突き技を躱して下段からの振り上げを放つ。確実に決まったと思ったが木刀は加速し切る前に止まりした方向に腕が引っ張られた、そしてそのままクドの突きからの薙ぎ払いが当たって鈍痛が脇腹に走り負けを自覚する


「痛ゥ〜!けど甘い!!」

「うッ!やば…」


(頭おかしいだろ…!)


最後完全に決まったと思った、けど父は木刀が加速して自分の顎を砕く前に無理やり一歩踏み出して木刀を踏んで止めたのだ、そしてそのまま無理な体勢から攻撃に転じて来たのだ


「ちょっとヒヤっとしたけど咄嗟に体が動いてよかったわぁ〜」


まだまだ現役だとつぶやくクド、ルカは何が悪かったのか思案する


(下段に構えてたからか…?確かにさっきのは足以外咄嗟に動かせないだろうし…、いや足でも咄嗟に動かせる方がおかしいのか?)


色々と考えるルカにクドは少し言い淀んでから告げる


「え〜と、お前は綺麗に勝とうとしすぎだぜ?」

「……綺麗に?どういう意味ですか?」


クドはさっきの状況を再現する、クドの突きを体を捻ってギリギリ避けたルカ時点での状況、そしてそのまま木刀を横に振る


「この距離から剣を振ったって多少痛い程度だろ?真剣でも俺が剣を引かない限り致命傷にすらならない、ていうか引いても薄皮一枚切れる程度だ、俺が踏んだ木刀をお前が動かせば無理な体勢だった俺は当然コケるだろうしなんならお前は殴りかかってきてもよかった、……お前そんなんじゃ俺に一生勝てないぜ?」

「あぁ〜…」


言われてみたらそうである、確かにあの状況だったら 僕の方が早く攻撃に転じれる、けど僕は試合として一本入ったからと言って勝手に反撃の選択肢を取らなかった、僕は無意識のうちに綺麗な勝ちにこだわってしまっていたのかもしれない


「う〜ん…けどなぁ〜」


若干納得のいっていないルカ、ルカは試合からそんな苦し紛れの一手に頼り続けていたらちゃんとした技術や駆け引きの強さは育たないのではという考えを持っている

けれどそれはクドも理解している、しかし理解している上で自分の方が正しいとも思っている



(俺なんかより才能はあるはずなんだけどな…)


才能自体はやっぱりある、体の使い方も上手いし何より動体視力、返し技をしっかり視れている、だから決めきれない場面が多い、けど何よりも闘争心が足りない、負けん気がないわけではない、けどプライドが高いのか綺麗な勝ちにこだわっている、多少卑怯でも絶対勝つ、不意打ちしても目潰ししても勝ちは勝ちみたいな闘争心が欠如しているのだ、魔術がどうのと言う割には試合で使ったこともない、自分の若い頃とは全く違う性格の息子に剣を教える難しさをしみじみ感じるのであった

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