詩小説へのはるかな道 第27話 欠けている人
原詩: 欠けるとは
探してはいけない
欠けたものを
ないものを
ただ 月が満ちずに
ただ 音が途切れて
ただ 手が空を掴む
それを「欠けた」と呼ぶとき
人は名をつけ 形を与え でっちあげる
「あったはずの何か」を失ったと
欠けるとは 満ちていた証ではなく
なくなるとは 在った記憶ではない
それは
ただの変化
ただの流れ
ただの「今」
だから
探すな
祈るな
でっちあげるな
欠けることを
なくなることを
そのまま 見つめていればいい
そして…
今から満たせばよい
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詩小説:欠けている人
目を覚ましたとき、彼は自分の中に「何かが欠けている」と感じた。
それが何かはわからない。ただ、胸の奥にぽっかりとした空洞があるような気がした。
彼は探し始めた。
好きだった音楽、読みかけの本、失くした鍵、別れた恋人、忘れた夢。
どれも違った。どれも「それ」ではなかった。
「何かが欠けているんです」と彼は医者に言った。
「どこが痛みますか?」と医者は訊いた。
「痛くはないんです。ただ、ないんです」
医者は首をかしげ、検査を勧めた。だが、どこにも異常はなかった。
彼は次に、哲学書を読み漁った。
「存在とは何か」「無とは何か」「自己とは何か」
どれも彼の空洞を埋めてはくれなかった。
ある日、彼はふと、月を見上げた。
その夜の月は、半分だけ光っていた。
「欠けている」と人は言う。
だが、月は欠けてなどいない。
ただ、光が届いていないだけだ。
そこに、ちゃんとある。
彼は立ち尽くした。
そして、気づいた。
「欠けたもの」など、最初からなかったのだと。
「ない」と感じたのは、ただの変化。
ただの流れ。
ただの「今」。
彼は深く息を吸い、空を見上げた。
そして、何かを探すのをやめた。
代わりに、今ここにあるものを、ひとつずつ、満たしていくことにした。
それは、コーヒーの香りだったり、誰かの笑い声だったり、風に揺れるカーテンだったり。
彼の中の空洞は、いつのまにか、
「欠けている」ではなく、「空いている」になっていた。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:欠けている人
目を覚めて
胸にぽっかり
空洞あり
探すものみな
「それ」ではなくて
医者に言う
「痛みはなくて
ただ、ないんです」
首をかしげて
異常は見えず
哲学書
読み漁れども
埋まらざる
存在と無の
言葉は流れ
半月を
「欠けている」と
人は言う
そこにあるもの
光届かず
探すこと
やめて満たすは
今ここに
香りと笑い
揺れるカーテン
空洞は
「欠けている」から
「空いている」へ
変化を抱きて
息を深くす
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




