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8月9日に君を待つ



 玄関で母親に見送られ「行ってきます」と返した。ドアを開けると、曲がり角で白馬の王子様とぶつかったりしない、いつも通りの夏の朝日が私を照らす


 今日は何か変わる気がする。


 「あれ、、遅いなあ、」いつも乗っているバスが大幅に遅れていた。スマホの時間を見ると8時9分。いつもならバスの車内からイヤホンで音楽を聴きながら外を眺めている時間だった。仕方がないのでバスは諦めて歩いて学校へ向かうことにした

 バスが来る前提の家を出る時間なので、朝礼の遅刻は確定している。そして今から1時間目に間に合うには裏道を使わないといけないのだが、その道沿いにある踏切には”血まみれの幽霊”が出るというウワサがあり、怖がりの私はどうしても通りたくなかったのだが、遅刻するよりはマシだと自分に言い聞かせてその道に歩みを進めることにした

 裏道を抜けると線路と並行に緑のフェンスが設置されているウワサの踏切が見えてきた。このまま少し進めばもうすぐ学校に着くので薄目をして乗り切ろうとしたのだが、私は数秒もしないうちに目を見開いた。なんと緑のフェンスに制服を着た女の子が線路側を向いて座っているのが見えたのだ。そしてその後私は異変に気づいた。その女の子の幽霊が電車が来るタイミングで、線路に飛び降りたことに。警笛が鳴り響き、電車とその子の距離が近づいてくる。私は突然の出来事で声を出すことすらできなかった。


 そして想像もできないような鈍い音が聞こえた


 気づくと私はバス停にいて、まるで”何百年も”過ぎたように感じた。猛烈な吐き気と共に脱力してしまい、立つ気力も無くなって座り込んだ。目の前で人が弾け飛んだのを見てしまったから。

 まずは情報を整理してみる。まずさっきの制服を着た女の子(おそらく自分と同じくらいの年齢)が何故飛び降りてしまったのか。事故なのでは、と考えたが焦ってもいなかったしむしろ嬉々としていたように感じられた。では自殺、、、なら理由とかを考えるのは野暮なのかな。と、思考に終止符を打つ。だがまだ分からないことがある。1番不思議なこと。それは私がなぜ”今”バス停にいるのかということ。いつの間にか気を失って、誰かに運ばれた。とか。でもじゃあ何でさっき私は立っていたんだろう。徐にスマホを見た。すると、もう一つ謎が増えた。今の時間が”8時9分”ということだ。信じれない事柄に何度も何度も時間を確認するが、時間が1分進んだだけ。これだけはどう考えても説明がつかない。が、もし本当に時間が戻っているとするならあの子の自殺を止められるかもしれない。そう考えると竦んだ足を奮い立たせて女の子の元へと向かう。

 肩で息をしながら走って、やっと踏切に着いた。すると本当にさっきの女の子がまだ緑のフェンスで足を揺らして私にはまだ遠くに見える電車を待ち焦がれている。私は今この子をどうにかして止めなければならない、、、けれど今になって話しかける言葉がないことに気づいてしまった。まずい、どう話しかけよう、、周りを見ても誰もいない。私しかこの子を止められない。なんてことない話題、、、私は勢いよくその子の手を掴み

「犬と猫どっちが好き?」

咄嗟に出た言葉がこれだった。自分でも恥ずかしい。相手が困っている中私は、そりゃ困惑するよなという顔をしている。

 私もフェンスに登って腰掛けた。最初はバランスが取りづらかったが慣れれば意外と楽だったりする。相手からは勿論話し出さないので私から最近気になってる先輩がいるとか友達がいっぱいいて学校が楽しいという話をしたのだが、全然盛り上がらなかった。頭の中はなんでこんなとこに居るの。とか、なんで自殺なんてしようとしてるの。とかのデリカシーの欠けらも無い質問ばっかりに邪魔されて上手く考えがまとまらない。実際、私からすればこの子が自殺しようとしてたことなんて分からないわけだし、、、そうだタイムリープしたことある?っていう話をしようかな。なんて考えていると相手から初めて話し出してくれた

「もういいよ。ユズちゃん。ありがとう無理に話してくれて」


あれ、私名前教えたっけ


「え、無理になんかじゃないよ、」

相手の言葉を受け止めきれず、なんとか取り戻そうとしたのだが上手く言葉が出なかった、平穏な時も束の間だった


 「私の事ずっと覚えていてね」


 警報灯が光る。警笛が鳴る。まるで全て決まっていたように君は私とは別の方向にフェンスを降りた。遮断機は、もう降りていた。

 止めようとしても無駄だった。私より電車の方が君に近かったみたい



 聞き覚えのある、想像を絶する鈍い音が聞こえた



 初めて目の前で親友が死んで、そして血飛沫が顔に掛かった事を思い出した。”親友”として大好きだったユイちゃんとの楽しかった毎日、思い出もぜんぶ、全部。



 君は来ない。いつまで待っても戻ってこない



 思い返してみればそうだった。私は自分のことばっかりで、そのクセ私は無責任に止めようと必死で、君のことをちゃんと知ろうとしなかった。”死んでほしくない”それはただの私のエゴでしかなかった

 君は遮断機が上がることを待っていたんだね。私がずっと通っちゃってたせいで、君は進めなかった。ごめんね。私はいつまでも

”永久に君を待つ”から。







 私たちの学校の近くには心霊スポットがある

 そこには夏の煌びやかなある日、物憂げに何かを待つように血まみれの女の子が現れるという。







 sans fin.




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