表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

 細かい文字列に不可解な暗号。

 分厚い魔導書とにらめっこしていた私はそろそろ限界を迎えていた。


「もう無理……続きは帰ってからにしよう」


 王城内に設置された専門書に特化した巨大図書館。山積みの本に埋もれていた私は、その中からこれならまだ理解出来るかも、という一冊を厳選し立ち上がった。受付カウンターで貸し出し処理をして貰う。


 貸出禁止のレーベルじゃなくて良かった、ていうか課題の指南書がこんなに難しいとかあり得ないんですけど。


 ファンタジー映画に出てきそうな扉をくぐり、赤い絨毯が敷かれた廊下に出る。歩いていると頻繁に声をかけられた。


『ユウナ様、今日は図書館においでですか?』

『本日のお召し物も素敵ですわ、ユウナ様』

『今度是非、我が伯爵家のお茶会にいらしていただけませんか』

『よろしければ次回の夜会ではウチの息子と――』

『(何か言ってる×多数)』


 途中から曖昧な返事と愛想笑いを繰り返しながら長い廊下を抜け、ようやく出口にたどり着いた。大きく伸びをすると丸まっていた背中が一気に解放される。


「あー、生き返る!」


 大きく伸びをすると、さっきまでの疲れが一気に飛んでいくような気がした。


 私はこの世界では聖なる乙女、ユウナと呼ばれていた。人気乙女ゲーム「かの君は黄昏に密恋を囁く」の世界にヒロインとして転生したことが分かった時、


『これはひょっとして……勝ち確では!?』


 と、私は完全勝利を確信した。


 だってヒロインってことは主人公でしょ? 黙っていても攻略対象は入れ食い状態! ということは、シナリオを進めて分岐になったら「じゃあ、君に決めた!」と、望みのまま相手を選ぶだけ。


 なんて楽勝な人生なんでしょう!


 そんな訳で意気揚々と途中まではハーレムルート、分岐の段階でメインキャラクター人気NO1の大本命、第一王子アイスラン・ジークハルトを選択した。

 

 これだけであとは全て思い通りにいくと思っていたんだけど……


 同じく転生者だった悪役令嬢セシリア・フォンクラインと、セシリアを溺愛するアイスランの前にあえなく敗北……ハッピーエンドどころかざまあを食らう始末。


 ていうか、アイスランはセシリアとは政略結婚で、彼女に対して愛情なんてミリも抱いていないんじゃなかったっけ?? という突っ込みはまあ置いておいて。


 本来なら王族に不敬を働いた罪で処罰される筈だったんだけど(イージーモードからあっという間に転落の人生)セシリア(正しくはアイスランの執念)のお陰で、何と不敬行為そのものがなかったことにされて無罪放免!


 今まで通り王城への出入りを許され、その上学生として在籍している魔法学園の籍もそのままだ。


 うーん……私が言うのもなんだけど、二人ともちょっと寛容すぎじゃない? 仮にも婚約者を蹴落として王妃の座を狙った相手に対して。


「まあ魅了はもう封印されてるし、今更何かしようとも思ってないけど」


 シナリオ通りに進めていたので私の周囲からの好感度はバツグンだった(ハーレムルートだったしね)

 分岐でアイスランを選択してからの展開は結構暗めで、徐々に彼のパーソナルな部分が明かされていく。内に秘めた孤独と闇、王子としての重責、婚約者との冷え切った関係など……


 個別シナリオではそんな愛を知らない氷の王子アイスランとの距離が縮まり、やがてユウナが彼にとって唯一のかけがえのない存在になっていく……筈だったんだけど。


 殿下の反応がなんかいまいちだったので、ステータスを上げるだけじゃ駄目なのか? と、裏スキル「魅了」で手っ取り早く攻略しようと思ったら……ざまあされてしまった。


「ていうか、シナリオを書き換えるってありなの?」


 どうやら私のかけた魅了にかかり切らなかったアイスランがシナリオとは全く別の動きを始めてキャラの軸がブレたためその後の展開がざまあにシフト、そこに前世の記憶を持つセシリアが加わることで更なる変化をもたらした。

 

 途中からざまあ展開になったので、それまでのシナリオはそのまま――つまり、私が分岐に入るまで散々アイスランにアピールしまくった実績はまるっと残っている。


 そのため、私は勝手に殿下に入れあげて叶わぬ恋を拗らせた結果、両思いのアイスランとセシリアの間に割り込んで返り討ちにあった恥さらし……もとい、可哀想な異世界人という肩書きで着地した。


 今の私はキラキラヒロインから脱落した、すねに傷を持つただの聖なる乙女。


「あーあ、短いヒロイン期だったなぁ」


 空に向かって手をかざすと目の前にステータス画面が現れる。これは聖なる乙女だけの特殊な力でここから聖なる力の振り分けが可能なんだけど、魅力の下にある裏スキル「魅了」には鍵がかかっている。

 

 私は本当ならざまあの流れで力そのものを封印される筈だった。やらかした結果は消えても事実は残る……なので、せめてもの罪滅ぼしとしてステータス上で「魅了」をOFF(鍵付)にした。パスワードも破棄したし復元も出来ないので二度と裏スキルが解放されることはない。


「でも私あの時、魅了に全振りしてたんだよね」


 腐っても聖なる乙女。魔力量も含めそのポテンシャルは物凄く高い。その私の力を魅了に全振りするとどうなるか……


 ステータスで言うと、「学力」「運動」「芸術」「運動」「気配り」等の基本数値は全部【2】なのに「魅力」だけ【1000】。他はポンコツ、でも超可愛い! 顔だけで世の中を渡っていけるある意味無双状態。


 そんなメガトン級の魅了攻撃をセシリアへの愛だけで吹っ飛ばしてしまったアイスランにはどうやっても勝てる気がしない。ううん、むしろ勝ちたくない。


「愛が重すぎて引く……胸焼けを通り越してもはやホラー」


 と、命の恩人に対して失礼なことを呟いていると後ろから硬い何かで頭を叩かれた。


「建物の入り口で何やってんだよ」

「痛っ! て、カイル!?」


 そこにはセシリアの幼なじみ、カーライル・シュタイナーがいた。

明日も2本更新予定です。



もしよろしければ、ページ下部の☆☆☆☆☆クリック評価を★★★★★に、ブックマーク追加で応援いただけるととっても励みになります!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ