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「やっぱり、何かあったんじゃ……」
それから乙女祭当日までの一週間、一度もカイルに会えなかった。
『まあ、時間も含めてあとで連絡するけど』
と言っていたのにその連絡すらない。心配になって何度か教室を覗いても姿が見えず、シュゼットと一緒にいるところすら見かけなくなった。
その代わり、ここ一週間ずっと視線を感じていて……不気味。また何か仕掛けてきたのか? と思ったんだけど現時点で真偽は分からず。
謎の視線も気になるけどカイルに会えないことの方が気がかりだったので、一度それとなく殿下に聞いてみたら視線を逸らしたまま物凄く言葉を濁された。
「あ、ああ……心配いらないよ。ちょっと多忙なだけで乙女祭には間に合うと思うから」
これ、セシリアの前でやったら間違いなく浮気を疑われると思う。
そんな訳でカイルとコンタクトが取れないまま当日を迎えてしまった。
控室代わりの教室内には煌びやかなドレスに身を包んだ女子生徒と正装した男子生徒がで賑わっている。
かくゆう私もエメラルドグリーンのドレスに慣れないヒールを履いているんだけど、ちょっと身の置き場がなくてそわそわしていた。
だって前世ではこんなドレスを着るような機会ないじゃない! 嬉しいやら気恥ずかしいやら。
ちなみにパートナーが決まっている男女は胸に白い花を、逆にパートナーがいない男女は一目で分かるように黄色の花を挿している。
私の胸にも白い花。だけどパートナーの気配はなし。
え、私これ待ち合わせ場所に行っても大丈夫なやつ? カイルに限って約束を破ったりはしないだろうけど……
「カイルのことだからきっと大丈夫よ」
「そうだよ。あいつ、約束をすっぽかすような奴じゃないでしょ」
私の不安を肯定で返してくれるセシリアとレイチェル。
セシリアは淡いブルーのドレス、レイチェルはグレイ地で総レースのドレスが超似合っている。それぞれパートナーの色を取り入れているんだよね、素敵!!
そして彼女たちの胸にも白い花が。
「セシリア、待たせたね」
「迎えに来たよ、レイチェル」
そこに殿下とジュラルドがやって来て……って、ヤバい。もう眩し過ぎて見えない位輝いてる! 流石メイン攻略キャラクター、イケメン具合がハイレベル。
ん? 何かアイスランがチラチラとこっちを見ている……ちょっと怖いんですけど。
「ほら、二人とも早く」
「でもユウナが」
「開場までまだ時間があるし、私達ももう少し付き合うよ」
気遣ってくれるのは嬉しいけど、私のせいで殿下とジュラルドまで足止めする訳にはいかない。
「ありがとう。でも私なら大丈夫」
「「でも」」
「大丈夫だって。とりあえず中庭まで行ってみるよ」
「「本当に平気?」」
「平気平気! カイルと合流したらすぐ会場に向かうから、ね」
「「……分かった」」
何とか納得して貰えて良かった。それにしても、相槌が二人同時でとても可愛い。萌える。
「それじゃあ、また会場でね」
「また後で、ユウナ」
「うん!」
セシリア達に別れを告げ、私はカイルとの待ち合わせ場所へと向かった。
*****
教室から階段を降りて渡り廊下を抜けると大広間が見えてくる。
開場まで時間があるせいかホール前の人はまばら。黄色い花をつけた生徒率が高い。あ、ここでパートナー探しをするからかな。
そこを通り抜けて階段を駆け上がり、私は中庭へと続く長い廊下にさしかかっていた。
時間が分からないから適当に来ちゃったけど……いるかなカイル。
ちょっと緊張——……あ、ヒールで走ったから靴擦れしたかも。
階段を登ったところで立ち止まって足を休めていると、視界にチラッと何かが入ってきた。
廊下のど真ん中で行く手を阻むように立っている。影になっててよく見えないけど、あれは……
「どこに行くんですか? ユウナ様」
「メインズさん……」
腕を組んで仁王立ち! といった状態のシュゼット。小柄なキャラだから威圧感と言うよりはちょこんとしてて可愛い。淡いピンクのドレスと靴が良く似合っている。
「これからカイル様と待ち合わせなんですよね」
「!? どうしてそれを」
笑顔で組んでいた腕を下ろすシュゼット。その胸には白い花が飾られていた。
「残念ながらカイル様は来ません。彼は私のパートナーなんです」
「え?」
「おかしいと思いませんでしたか? いつも私がべったりくっ付いているのにどうしてカイル様がユウナ様のところに来られたのか」
確かにそれは思ったけど。
「あなたの態度が気に障ったのであの日一回だけ見逃してあげたんですよ。どうせなら幸せの絶頂まで上り詰めてからの方が底辺まで落ちた時の絶望感も増すでしょう?」
「それって」
カイルがシュゼットと結託して私を騙したって言いたいの?
「カイルがそんなことする筈ないと思うけど」
「ユウナ様はカイル様のこと全然分かってないんですね」
そう言いながらシュゼットが愛しそうに胸の花に触れる。
「今のカイル様は私に夢中なんです。かわいそうなユウナ様」
私に夢中……!? あまりに恥ずかしい台詞に一瞬フリーズしてしまった。
「ゲームキャラクターのあなたにこんなことを言っても分からないと思いますけど、私この世界のヒロインなんです。私が望めば何でも思い通りになるんですよ」
あー……そんな事を思っていた時期が、ワタシニモアリマシタ。
ちょっと同調しそうになっていると、シュゼットが下を向いて震え出したと思ったらいきなり自分の世界に入り始めた。
「まさかカイルが実在する世界にヒロインとして転生出来るなんて……!! 前作からずっとカイル一筋だった! 続編だって正規ルートを何度も周回したし、裏ルートも含めてスチルも全部集めて追加ファンディスクだって3タイプ全部手に入れたし、中の人のイベントだって全国ついて回って制覇したのよ!!」
カイルへの愛を垂れ流すシュゼット。この口調前にも聞いたな……普段はヒロイン補正がかかってるけど感情が高ぶると素が出るらしい。
私が本当にゲームキャラクターだったら話の内容は一つも入ってこないだろうけど、あいにく私は転生者。このオタク全開の話も全部理解出来る。
そして理解した上で、私はこんなことを思っていた。
いいなぁ、私も続編プレイしたかった。っていうか、ファンディスク? 裏ルートって何!? 羨まし過ぎるんですけど!!
「出会いイベントが起こった時キター! と思ったら前作ヒロイン風情がしゃしゃり出て……何なの? 今は私のターンなんだから邪魔しないでよモブの癖に。でも最後に勝つのはやっぱり私、ざまあみろユウナ!」
それにしても素のシュゼットって口悪いな、ヒロイン補正の反動かな。あ、こっちの世界に戻ってきた。
本日の更新です。
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