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第0段「プロローグ」

初投稿です。

よろしくお願いいたします。

 



『おまえは誰にも可愛がられないのだから、早く死ねばいい』

(太宰治『女生徒』より)




 ◆




(自分)『アバター装備の期限切れちゃった(泣)』


ふらん『プークスクス』


(自分)『(怒)』


ふらん『アバターくらい今度おれちゃんがおごっちゃる!』


(自分)『金ないくせに無理すんな』


ふらん『ごめん、あいつに呼ばれたからちょっと離席するねノシ』



 ……………………

 ……………………

 ……………………



「……これが最後の会話か」


 dispeakのトーク画面を見つめていた僕は、苛立ち混じりにつぶやいた。


 糞、また"あいつ"だ。

 本当に、相変わらず、奴とは毎回毎回どうしようもなく嫌な所で出くわすな……!


 奴の存在を意識するだけで、腹の奥で煮えたぎる溶岩が噴き上がってくるようだ。

 その水面でごぼごぼと泡が浮かんでは爆裂し、そこらじゅうを焼きつくす。


 いや、やめよう、と僕は吐き捨てるようにため息をついた。

 奴なんぞに囚われても、いいことなんて一つもない。

 というか、もうすべて終わった話だ。


 ひとまず、作業に集中しよう。


 急がなければ。

 追手が、警察が来る前に。


 プチ。

 プチ。

 プチ。


 耐熱テープで目張りにされた風呂場にて。

 僕こと最癌淘太もがん とうたは、シートから錠剤を押し出していた。


 やれやれ、と思いながら僕はまたため息を吐く。


 こんなことをしていると、我ながらメンヘラのキモオタなんぞ地獄すぎるな、なんて思う。

 それも恋わずらいが原因なのだから、本当に地獄である。


 まあ、アレだ。

 だれが言ったか、もてなくて金のない青年は気が狂うしかない、ってやつなのだろうと思う。

 頭のいい人間は上手いことを言うものだ。


 それにしても、人間、か。


「僕はゴキブリに等しい……」


 だから僕はもてないのだ。

 そんな風に現実逃避してみても、結局僕が人間であるという、厳然たる事実は変わらない。

 人間だからこそ、僕は人を好きになってしまったのだ。


 まあ、そんなことはどうだっていい。


「楽しかったな……」


 恋をしてみて、本当に楽しかった。

 本当に。

 身に余る日々だった。


 しかし、いまや彼女──ふらんは既婚者である。


 おたがい美男美女、夢みたいなカップル。

 とても幸せそうだった。

 クズニートの僕が彼女とつながりたいなど、どれだけ分不相応なことかを、語らずして思い知らされる。


 これで最期だ。

 僕は用意しておいたアイマスクと、それからイヤホンを装着しバイノーラル音声を再生する。

 現実の喧騒から切り離され、彼女の優しい声音が聴覚を満たした。

 あっという間に準備完了。


 じゃあ、そういうわけで。


「お元気で、ふらんさん」


 僕はひとつまた一段と深くため息をつくと、錠剤をイッキ飲みした。


 ぐらり、と。

 たちまちのうちに身体の支えが糸が切れたように失われ、僕はタイルに寝そべった。

 あっという間に意識が遠のいていくのを感じ、自然と僕は口角を釣り上げる。



 好きになってしまって本当に申し訳ない。



 ……………………

 ……………………

 ……………………



 かんぜんに意識を手放す直前。

 僕が脳裏に思い浮かべたのは、あの日のショックだった。


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