第0段「プロローグ」
初投稿です。
よろしくお願いいたします。
『おまえは誰にも可愛がられないのだから、早く死ねばいい』
(太宰治『女生徒』より)
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(自分)『アバター装備の期限切れちゃった(泣)』
ふらん『プークスクス』
(自分)『(怒)』
ふらん『アバターくらい今度おれちゃんがおごっちゃる!』
(自分)『金ないくせに無理すんな』
ふらん『ごめん、あいつに呼ばれたからちょっと離席するねノシ』
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「……これが最後の会話か」
dispeakのトーク画面を見つめていた僕は、苛立ち混じりにつぶやいた。
糞、また"あいつ"だ。
本当に、相変わらず、奴とは毎回毎回どうしようもなく嫌な所で出くわすな……!
奴の存在を意識するだけで、腹の奥で煮えたぎる溶岩が噴き上がってくるようだ。
その水面でごぼごぼと泡が浮かんでは爆裂し、そこらじゅうを焼きつくす。
いや、やめよう、と僕は吐き捨てるようにため息をついた。
奴なんぞに囚われても、いいことなんて一つもない。
というか、もうすべて終わった話だ。
ひとまず、作業に集中しよう。
急がなければ。
追手が、警察が来る前に。
プチ。
プチ。
プチ。
耐熱テープで目張りにされた風呂場にて。
僕こと最癌淘太は、シートから錠剤を押し出していた。
やれやれ、と思いながら僕はまたため息を吐く。
こんなことをしていると、我ながらメンヘラのキモオタなんぞ地獄すぎるな、なんて思う。
それも恋わずらいが原因なのだから、本当に地獄である。
まあ、アレだ。
だれが言ったか、もてなくて金のない青年は気が狂うしかない、ってやつなのだろうと思う。
頭のいい人間は上手いことを言うものだ。
それにしても、人間、か。
「僕はゴキブリに等しい……」
だから僕はもてないのだ。
そんな風に現実逃避してみても、結局僕が人間であるという、厳然たる事実は変わらない。
人間だからこそ、僕は人を好きになってしまったのだ。
まあ、そんなことはどうだっていい。
「楽しかったな……」
恋をしてみて、本当に楽しかった。
本当に。
身に余る日々だった。
しかし、いまや彼女──ふらんは既婚者である。
おたがい美男美女、夢みたいなカップル。
とても幸せそうだった。
クズニートの僕が彼女とつながりたいなど、どれだけ分不相応なことかを、語らずして思い知らされる。
これで最期だ。
僕は用意しておいたアイマスクと、それからイヤホンを装着しバイノーラル音声を再生する。
現実の喧騒から切り離され、彼女の優しい声音が聴覚を満たした。
あっという間に準備完了。
じゃあ、そういうわけで。
「お元気で、ふらんさん」
僕はひとつまた一段と深くため息をつくと、錠剤をイッキ飲みした。
ぐらり、と。
たちまちのうちに身体の支えが糸が切れたように失われ、僕はタイルに寝そべった。
あっという間に意識が遠のいていくのを感じ、自然と僕は口角を釣り上げる。
好きになってしまって本当に申し訳ない。
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かんぜんに意識を手放す直前。
僕が脳裏に思い浮かべたのは、あの日のショックだった。