想定内?
俺はユイちゃんの面接を終わろうとしていた時、家出少女の一人が施設内から脱走するという明らかに大問題かと思われる事象に遭遇していた。
そのことにカンザキは慌てるどころかむしろ冷静で電話でも淡々と事の状況を説明していた。「なぜ、冷静でいられるんだ…もしものことがあったらどうするんだ。」
混乱していると先ほど面接を終えようとしていたユイちゃんがこう言った。
「あ、あの……探しに行かなくて大丈夫なんですか?もしものことがあったら管理人さんが責任をとらされるんじゃ……。」
その通りだった。勝手に脱走されて俺が責任をとらされるなんて冗談じゃない……。何かある前に探しに行かなくては…!
そう思って面接室から出ようとした、その時…。
聞き覚えのあるサイレンのようなものが施設内に鳴り響き、それと同時に俺は出入り口へ急いで向かった。
出入り口へ着くとそこにいたのは…カンザキと脱走したと思われる家出少女だった。
俺が出入り口を開けるとカンザキはこう言い放った。「脱走者1名を確保した、面接を続けてくれ」
正直責任をとらされると内心ビクビクしていたがカンザキはそれ以上何も言わなかった。
出入り口から去っていくカンザキを俺は追いかけ、こう聞いた。「な、なぜこんなに冷静なんだ?脱走なんて大問題じゃないのか?!…それに電話から確保までの時間があまりにも早すぎる。」
そうなのです。電話が終わり確保され施設内に戻って来るまでにかかった時間はたったの5分だった…。あまりにも早すぎる確保に俺は余計に混乱していた。
その様子を見ていたカンザキはこう言い放った。
「想定内、とだけ言っておく」そう言ってカンザキは足早に去っていった。想定内……?
俺は混乱のあまりすぐには理解が追いつかなかった。
カンザキが去ったあと俺は脱走した家出少女の面接を始めることにした。
「ではこれから面接を始めます。まず初めに名前と年齢を……と言いたいところだけどその前に……なぜ脱走したのか聞かせてくれるかな?話せる範囲で大丈夫だから」
脱走した家出少女はそう聞かれるとすぐには口を開こうとせず、だまり続けていた。
無理矢理行こうとしても意味がないと思った俺は家出少女が話すまで少し待ってみることにした。
5分…10分…20分……。そして30分が経過しようとした時だった。家出少女がゆっくりと口を開き話し始めた。
「な、名前はアンドウ レナ、年齢は17歳…高校2年生になる……。」
そう言いそのままこう続けた。「脱走したのは家出したのになんで?って思うかもしれないけど、か、家族と会いたかったの……。
ちゃんとお別れも言えずにそのまま縁を切られてここに連れてこられて……」
レナちゃんはそこまで話すとまた黙り込んでしまった。今の話を聞いていた俺はこう思っていた。
(家出したのに脱走してまで家族にお別れが言いたい…?そもそもお別れが言えないから家出したんじゃないのか?)
そう思った俺は口聞いた。「もしかして…何か理由があったけど寂しくなって家に戻ろうとしたの?もしくはなんとなく家出したかった、とか?」
核心を突かれたかのようにレナちゃんは目を泳がせた。そしてこう話した。「さすが…管理人だね…。そう……、理由があるけど寂しくなっちゃって……家出した時なんてそんなこと思ってもいなかったのに……。」
そう言ってさらにこう続ける。「うちには2つ離れた兄がいてね……その兄と学校の成績とかで毎日ように比べられて…兄は成績優秀でこのまま行けば首席で卒業できるかも、なんて言われてて……それに比べて私は全く勉強ができなくて、強いて誇れるものって言ったら運動神経くらい…かな…なんてね。」
そう話すレナちゃんはどこか寂しそうで見ていられなかった。比べられることで自分はなぜ兄のようになれないのか…、自分とは何なのか、と自問自答の日々を送っていたらしい。
そのようなことが積み重なり家出に至ったのだろう。
そう話し終えたレナちゃんに対し俺は、「最後に質問はあるかい?」と聞いてみた。すると今まで話したこととは全く関係のない質問が投げかけられた。
「質問かぁ……。じゃあ……管理人さんってそこそこイケメンだよねっ、彼女さんとか、いたりする?」俺はそう聞かれて笑ってしまった。まさか自分のことを聞かれるなんて思ってもいなかったのだ。
そう聞かれて俺は、「彼女なんていないよ、もしいるならこんな仕事してないでしょ。」と笑い混じりに話した。
それを聞いたレナちゃんはなぜが嬉しそうにしていた。
面接を終えた俺はレナちゃんを部屋へ案内し、脱走はだめね、と念を押してその場を離れた。そして3人目の家出少女の面接を準備していた。
まさか、その家出少女がレナ、ユイのような子たちとは全く違うとはこの時の俺はまだ知る由もない。
次回、3人目の家出少女が登場…。そしてその子を取り巻く闇の世界が明らかに?!