戦闘、始めました
こんな森の中になぜ女の子が⁉
考えても仕方がないが、今、俺が巨竜に襲われてる理由ならはっきりしてるだろう。
食事の邪魔をした闖入者。
おそらく、あの子を食べようとしていたところに、ちょうど俺が上から落ちてきたのだろう。
よほど痛かったか腹が空いていたか。
俺を潰そうと叩きつけてきた前脚は、戯れではなく本気の殺意がこもっている。
あまりの大きさと速さに、避けることも逃げることも出来ず、咄嗟に腕で受け止めてしまったが、こんな体でよかった。
人間の体だったら、今の一撃で簡単に潰されていただろう。
しかし、どうしたものか。
「グルルルァア!!」
向こうは俺がすぐに潰れなかったとみるや、前脚を何度も叩きつけてくる。
まるで上から次々とトラックが降ってきてるような感覚だ。
俺は動くことが出来ず、攻撃を受け止め続けることしか出来ない。
先ほど、洞窟から抜け出した時に使った力なら、この巨竜を吹き飛ばせそうな気がするが、そうなると向こうでうずくまっている少女を巻き込みそうなんだよな。
とはいえ、反撃しないでいると、このまま杭のように打ち込まれて、地面にめり込んでいきそうな勢いだ。
「仕方ない、やるだけやってみるか」
覚悟を決めて、俺は左腕で巨竜の前脚を受け止める。
先ほどから受けていて、片腕でもなんとかなりそうと思っていたが、感覚通りだ。
「せーの」
右拳を脚の裏へ叩きつける。
バゴォオ‼ と派手な音を響かせ、巨竜の前脚が一部えぐれ、残った部分が宙を泳ぐ。
前脚を退かせればいいくらいのつもりだったが、予想以上の威力だった。
そして、俺はさらに追撃を行うべく、巨竜の顔に向かって跳んだ。
思わぬ反撃に驚いているのか、見開かれた瞳がこちらを凝視してるいるのがわかる。
ようやくこの巨竜を全体俯瞰から見られたが、なんか竜とかドラゴンというには違和感がある風貌だ。
全体的に金属鎧を纏っているかのような、硬質で光沢のある体をしている。
頑丈そうだし、先ほどよりもっと強く殴らないと逃げていかなそうな見た目だ。
「邪魔して悪かったが、人が食べられるのを見るのは勘弁願いたいんでね」
跳んだ勢いのまま、巨竜の横顔を右拳で思いきりぶん殴る。
数十メートルはありそうな巨体が、殴られた勢いに引き摺られ、横転。
ここまでうまくいくとは思わなかったが、少女から巨竜を引き離すことには成功した。
だが、こちらが殴ったダメージでは逃げそうもなく、巨竜はまだこちらを凝視している。
「仕方ない。殺るしかないか」
少女を逃がすには、このまま巨竜を仕留めなければダメなようだ。
生き物を殺すことに多少思うことはあるが、必要な状況と割り切る。
地面に降り立つと俺は、全力で巨竜との距離を詰めていく。
そして、相手の腹を狙い、先ほど洞窟の壁を撃ち抜いた感覚を思い起こしながら、拳を全力で打ち込んだ。
『マキシマイズ・アビリティ:No.1 起動』
『No.1 ブラッド・アーツ······エンプティ』
「え?」
プシュー、と何かが抜けていく感覚が襲い、右拳がぽすん、と巨竜の腹を叩いた。
まったく力の入っていない、軽いパンチ。
エンプティ······つまりは空っぽ。
何を?かはわからないが、おそらく必要なエネルギーが切れたとか不足しているとかなんだろう。
当然、その隙が見逃されるはずがなく。
起き上がりながら奮われた前脚に俺は吹き飛ばされる。
さらに追撃、とばかりに尾が奮われ、まともに食らった俺の体は何度も地面を跳ねながらすっ飛ばされた。
「倒せる、と思ったけど······そんな甘くいくわけないか······」
痛みを感じないが、それでも受けた衝撃の重さに、幻痛のような感覚を味わう。
バラバラにされたかと思った。
受けた衝撃の影響が残っていたからか、体がうまく動かせず、のろのろとした動作で立ち上がる。
相手を見据えると、巨竜は地についた四脚を強張らせ、こちらへ背を見せつけるように構えていた。
よく見れば、背中が巨大な砲郭のような形状をしている。
さっき殴った時には気づかなかった。
体についている、というより背中の一部が変化したような形状。
とても、嫌な予感がする。
その予感は的中していたようで、砲口が輝いたのとほぼ同時に、俺の体を巨大な火の玉が焼いた。