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序章:石像目醒め、異世界に立つ

永く深く眠るように喪失した意識。

はっきりと覚えている、自分がこれから死ぬという感覚。

永遠に続くと思っていた空虚な感覚から、意識が戻り目を開ける。


「······ここは?」


俺の眼前には、岩肌で出来た通路があった。

鍾乳洞を思わせる作りだが、一面が白く輝いている。

水晶のような透明感がありながら、乳白色にも見える、とても綺麗で神々しい幻想的な光景だ。

こんな洞窟のようなところが、あの世なのだろうか。

それとも入口のようなところなのか。


······俺、死んだんだよな?。

意識が喪失した時に、確かに死の実感があったことを覚えている。

なら、目の前にある通路を進んでいけば、あの世というところに行けるのだろうか。


そう思って立ち上がろうとした。

体感的に、座っている感覚だったからだ。

だが、動けなかった。

体に感覚はあるのに手も足も動かず、首すらも動かせない。

かろうじて動かせたのは目だけだった。

自分の手がある位置を見て、動かせなかった理由を察する。

岩肌と材質が同じ物だろう石質で、手がしっかりと塗り固められていたのだ。

動けないのは、体が同じ物で塗り固められているからか。

アニメや漫画で見たことがある、壁一面に埋められて顔だけがある絵図を思い浮かべ、俺は怖くなる。


「だ、誰かいませんか!?」


もしかしたら、ゲラゲラとホラー作品のような笑い声が響くかも、と思うも、自分の状況を確かめたく思いきって声をあげてみた。

口も動くし、声も出る。

だが呼びかけに応える声はなく、虚しく俺の声が洞窟内で反響しただけ。

どうやら、ここには俺しかいないようだ。


もしかして、俺の魂的なモノが裁判待ちとかそういう状況なのでは?

天使とかが来て連れて行かれるまで、ここから動けないのかもしれない。


生前がオタクだったからか、色々な可能性を考えてしまう。

1人でいるからか、時間がやたらと長く感じる。

時計もなく、鍾乳洞の景色を見るしか過ごせる手段がないため、時間間隔がわからず、どれくらい待っていたのだろうか。

だが、待てど暮らせど、誰も来る気配はなかった。


自分がなぜこんな状況に置かれているのか。

他に考えられるとしたら、封印、とかだろうか。

あいにく、封印される覚えは微塵もないが。

いくら考えたところで、答えがわかるはずもなく、教えてくれる存在も皆無。


しかし、暇だ。


暇を持て余した俺は、塗り固められた状態からワンチャン抜けられることを期待し、思いっきり力を入れて立ち上がってみることにした。

物は試しというやつだ。

幽霊みたいな状態だろうし、封印とかじゃなければ透過できるんじゃないかってな。


「ぐぎぎぎ······」


力を込めてみるが、抜け出せない。

魂なのに、力を込められる、というのは不思議だ。

やはり、封印かなにかなんだろうか。

だとすると、無駄なことをしているのかもしれない。

それでも、他にやれることもないので、抜け出せないか何度も挑戦した。

すると、ピシピシとひび割れるような音が聞こえてきた。

このままいけば、封印的なものが割れるのでは。

期待が膨らみ、立ち上がる力を込め続ける。


「うおりゃあ!」


バゴギャ!と砕ける音が聞こえ、ついに体が立ち上がった。


「うぉっしゃあ!」


動けた喜びで、思わずガッツポーズをとる。

そして、手を見た俺はそのまま固まってしまう。


「······石のまんまじゃん」


封印と思っていた石が、脱け殻のようにパラパラと落ち、その下から、見た目は変わっているものの、同じ材質としか思えない石で出来た腕が見えた。

体を見回してみる。

全身が石で出来た鎧のような形に覆われていた。

西洋の甲冑やアニメのスーパーロボットを想起させるようなデザインだ。

周囲の岩肌と同じで、水晶のように透明感があり乳白色にも見える不思議な色をしている。

何度か、腕を動かしてみる。

大きな手甲を填めてるかのようだ。

見た目の重厚さに対して重くはない、むしろ重さを感じない。

石で出来てるとは思えない柔らかさで、関節部分が動いている。

拳を握って開く。

ロボットのようなデザインの指が、やはり石とは思えないなめらかさで動く。

足も大きい。足甲のようだがブーツもしくはロボットのパーツのようにも見える。

足を動かし、前に歩いてみる。

やはり重さを感じず、地面を踏みしめる感覚。


「まさかこれ·······俺の体なのか?」


いやいやいや、ウソか冗談だろう?

これが体だとしたら、ゴーレムとかロボットじゃないか。


ワンチャン、これが鎧じゃないかと考え脱ごうとしてみるが、ビクともしない。

手甲も足甲もだ。


「か、顔はどうなってるんだ?」


触ってみた感触から、兜や仮面を被っているよう形と思われる。

目覚めた時からの感覚のままに動く体。

つまり、転生、なんだろうか。

この、石像みたいな体に。

後ろを振り向く。

そこには、岩肌をくり抜き彫ったのだろう、玉座を思わせるような彫刻の椅子があり。その椅子は、人一人が座っていたのだろう形に肘掛けや背もたれなどが凹んでいた。

椅子の周囲は、遺跡の中にある祭壇や墓標を思わせる意匠で彫刻が施されている。

試しに椅子へ座ってみた。

ぴったりと凹みにフィットする。

それはもう、ジャストフィットだ。


「ふぅ〜〜〜」


自分の身に起きた予想外が過ぎる事態に、疲れたようなため息が漏れてしまう。


これって、たぶん祀られていたとか、封印されていたとか、そういうアレだよな。

砕けてそこら中に散っている石がその証左なのでは?

彫刻状態から抜け出したとするには、体の線が全体的になめらかで綺麗すぎるし。


自分が置かれている状況がまったくわからないし、ここがどこかもわからない。

転生しているのは間違いがない気がするが、事前の説明がまるでないとは。


「異世界······なんだよな? たぶん」

俺の住んでいた世界に、生きて動く石像なんてフィクションの産物だ。

今いるここから、通路を行ってないからわからないが、異世界なのは間違いがないと思う。

問題なのはこの体。

睡眠、食事などなど生きるのに何が必要で、何が出来るのかまるでわからない。


「こんな体でどうしろって言うんだよー!!」


転生させた存在に向かって、俺は怨嗟の嘆きを全力で叫んだのだった。

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