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教室で寝ていた。
突っ伏して、頭の中は羊だらけの大牧場。
6限目の途中から記憶がないので、おそらく、そこだ。
窓際の席なので、夕陽が眩しく暑い。頭の中の羊さんもこのままではジンギスカンだ。
だから、それから避けようと、突っ伏していた顔を上げようとしたら、そこで声が聞こえてきて、つい顔を上げるタイミングを逃してしまう。
「そういや、お前ん家って結構お金持ちだったよな? モンクエ4とか余裕で買えんじゃね?」
『モンスタークエスト』略して『モンクエ』
ゲームに興味のない私でも知ってるゲームの人気タイトルだ。
しかし、私が気にしたのはそんなありきたりな会話じゃなかった。
「いやいや。ウチはそういうんじゃないから。親が金持ってるだけだから……」
アイツの声だった。
いつもみたいにウザったいミンミンゼミみたいな声じゃなくて、今日のアイツはひぐらしだった。
「なんだそれ。親が金持ってたらもうそれは家として金持ちなんじゃねぇの?」
友人Bが、私が聞きたいことをそのまま代弁してくれた。ありがとう友人B。同じクラスなのに名前は思い浮かばないけど感謝はするぞ。
「それほど、簡単な話じゃないんだよ。裕福な家庭にもそれなりの悩みはあるんだよ」
明るい声で彼は返した。
でも、その言葉の節々からなんとなく、棘と冷たさを感じた。冷たい棘で氷柱なんて表現はありきたりすぎるので、ここでは控えておく。
「ヘぇ。お前も大変なのな」
友人Bは、そう濁し、そのまま話をすり替える。それを待っていたかのように、彼はそちらの足場に乗り移った。
何もなかったように、そこが無色透明であるかのように。
私が起きて立ち上がったのは、彼らが教室を出て行ってからだった。