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翌日から、彼は変だった。
でも、変だと感じているのは私だけで、すごく気持ちが悪かった。自分だけ異世界に飛ばされたような感覚だった。
意味のないところで意味なく笑い、文脈もなく私に話しかける。
いや、これだけ見れば結構いつも通りなのだけれど、何処か可笑しい。
笑い方だろうか。乾き切った社交辞令のような笑い……でもない。なんと表現したものか。
温度を捨て切った、冷たい笑い……それもまだ違う。
表現が思いつかないので、何かに喩えよう。なんてったって私はポエマー(笑)じゃないか。
そうだな。
例えるなら、散り際の桜の花。四季が移り、死期が近づくそのときに、その苦しさや怖さを隠して、美しさを一面に映し出すそれ。
例えるなら、夏終わりのひぐらし。もう仲間は誰一人としていないのに、ただ使命に駆られて鳴き続けるそれ。
例えるなら、十五夜の月。また欠けていく自分に、寂しさを感じながら、それを必死に隠すそれ。
例えるなら、降る雪。すぐ消えていきそうな……それ。
書いてはみたけどわからない。私に詩人の才能は無いらしい。
でも、書いてるうちになんとなく、彼の笑い方に対して当てはまる言葉が2つ見つかった。『気丈』と『空虚』。今の彼はそれらでできている気がした。