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〇〇をぶっ壊そう作戦

 

  ***


「言われたとおり集まったけど……なんの用?」時田くんは訝しむ。


 食堂には、わたしとヒガシ、時田くんと、見知らぬ男子学生が一人いた。おそらく、なんで集められたのかと、彼が一番訊ねたいはずだ。明らかに、色々と物言いたげな表情をしている。


「暇そうだから、連れてきた」


 時田くんは、その男子の肩を引っ張る。体幹が弱いのか、彼はあっけなく揺さぶられる。


「バカか。僕に暇な時間などない。すべてが有意義だ。お前には分からんだろうが」

「すべてが有意義なら、これも有意義だ」


「べ、別に参加しなくても」当事者であるわたしは、負い目を感じる。


「いいって」時田くんは勝手に遮る。彼と友だちなのか、違うのか。「こいつ、家に引きこもってるだけだから」

「違う。準備期間だ」

「飯塚っていうんだ。まあ、適当によろしくやってくれ」


 飯塚と呼ばれた彼は、露骨に不機嫌だ。顔も上半身も背け、わたしたちと向かい合わないようにしている。


「もういい?」


 ヒガシが強めに言う。


「あ、ごめん。どうぞ」

「昨日、鈴奈の家まで、ストーカーの牧雄氏がやってきました」


 時田くんは絶句する。飯塚くんは、出てきた単語が思いもよらないものだったからだろう。背けていた顔を、少しだけ戻した。不機嫌さは変わってないけど。


 わたしは昨日のことを説明する。心配かけたくないように、大したことはないと話す。実際、姿を見ただけで、被害はなかった。


「どうやって特定したんだろうな」時田くんは苦悶の表情で悩む。


「大学は知ってるんだろ」


 声を発したのは、意外にも飯塚くんだった。


「だったら、影に隠れてその、彼女が出てくるまで待って尾行すればいい。難しくない」


 飯塚くんはしっかりとした発言をした。もしかしたら、早く解放されたいからかもしれない。わたしを哀れんで協力的になってくれた、というようには見えない。


「え、経験ある?」時田くんは言いながら引いている。

「バカ、誰だって考えつくだろ!」

「そういえば、どうやって大学を知ったんだ?」


 その疑問には、ヒガシが回答した。


「高校の頃に聞いたんじゃない。鈴奈、どこの大学に行くとか、普通に友だちとかに話したでしょ」


 気のせいか、友だちという単語に対して、飯塚くんは眉間の皺を深めた。


「ここまでとは思ってなかったし……」

「じゃ、簡単に分かっちゃうね」

「ところで、牧雄はいつから日野のストーキングを?」

「高三の、夏か秋くらい」

「受験とかあるだろ……なにしてんだソイツ……」


「ストーカーだなんて、非生産的だな。いつまでも過去の人間関係などにしがみついて、バカらしい。さっさと未来に目を向けるべきだ」


 飯塚くんはわざとらしいため息を吐く。


「世の中には、そう割り切れない人もいるってことだ」

「ふん」


「で、わたしが考えた、VS牧雄の作戦なんだけど」


 軍師ヒガシは、机を叩く。まるで机上に戦場の地図を広げているかのようだった。


「作戦って?」

「時田くんが、鈴奈と一緒に帰るの」


 わたしと時田くんは、同時に苦笑いを浮かべる。


「なんだ、そんなこと?」

「家まで送るってことだろ? まあ、それなら帰り道は安全だ」

「違う」

「へ?」


 大仰な、と軽口を叩く私たちを、ヒガシはぴしゃりと黙らせた。


「鈴奈の家に、時田くんが泊まるの」

「はあっ!?」


 思わず声が裏返る。喉を痛めたかもしれない。いや、どうでもいい。今、なんて言った?


「お泊まりだね」

「いやいや、言い方の問題じゃなくて」時田くんが目を白黒させている。


「僕、帰っていいか?」飯塚くんは、当然だが、天を仰いで嘆いていた。「どうして、こんなくだらない話を聞かされなくちゃいけないんだ? わざわざ僕を連れてきて、嫌がらせか?」


「えーっと、飯塚くん、だよね」


 ヒガシは、彼に冷たい、ように見えてしまう視線を向ける。


「う」


 立ち上がって帰ろうとしていた飯塚くんは、その目に動きを封じられてしまった。


「あなたがここに来たのは、もちろん想定外なんだけど、でもこの作戦には、もう一人手伝いが必要なの。お願いしてもいい?」

「はあ?」

「飯塚くんには、一緒に帰る二人の後を、尾行してほしい」

「はあああ?」


 怒りとも困惑とも取れる声が、食堂中に響き渡った。遠くの方で談笑していた別のグループが、驚いてこちらを見る。


「正確には、鈴奈たちをストーキングするはずの、牧雄を尾行するの」

「ストーカーを尾行だと?」


「鈴奈の作戦では、時田くんと鈴奈が一緒にいる頻度を増やして、それを牧雄に目撃させることでストーキングをやめさせるっていう筋書きだった。ただ、わたしはそれだけじゃ確実性がないと思った」


 確かに。それはわたしも感じていた。


「牧雄が鈴奈の家を知ってるっていうなら、それを利用する。鈴奈の家まで一緒に帰る、二人の姿を目撃させるの。飯塚くん、もしあなたが牧雄なら、どう? 二人が夜になって、一緒の家に帰る姿を見て」


「……普通に、付き合ってる、と思うんじゃないか。異性と同じ部屋にいて、なにもしないっていうのは、ほぼあり得ないことだ」


「名付けて、牧雄の脳をぶっ壊そう作戦」

「待て、結局、僕の役割ってなんだ」


「肝心の牧雄がちゃんと目撃してなかったら、無意味でしょ。目撃したことを確認しないと、作戦の効果があったか分からず安心できない。だから、飯塚くんは牧雄を尾行して、二人を見ていたかを確認してほしい」


「なんで僕がそんな」

「いや、ちょっと」


 不平を言う飯塚くんを遮り、時田くんが前に乗り出す。


「俺が、日野の家に行って? 泊まるぅ?」

「え、中学生じゃあるまいし、大丈夫だよね?」ヒガシは平然としている。

「そういう問題じゃなくてさ。それに、泊まる必要はあるの?」


「あるよ。万が一でも、牧雄が逆上して、鈴奈の寝込みを襲う可能性があるんだから」

「た、確かにそうだけど」

「下心あるわけじゃないよ。これは鈴奈の身を守るための、致し方ない手段だよ」

「いやぁ、でも……」


 嘘だ。ヒガシは下心ありだ。時田くん、言い負かされるな、と心の中でエールを送る。いや、わたし的には、このままヒガシの作戦に乗っかった方がいいのか?


「まあ、確かに……?」


 あ、負けた。


「うん、決定!」


 ヒガシの一声、鶴の一声よりも力がありそうなそれによって、「牧雄の脳をぶっ壊そう作戦」の決行が決まってしまった。わたしたちは互いに目を合わせて、しかしどんな顔をしたらよいか分からず、困惑しきりだった。



「おい、僕の意思はないのかよ」


 おそらく一番の被害者である飯塚くんが、悲痛な叫びを上げていた。


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