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宇宙から来た男

「地球人を連れてこい」

 上司は、事務的に告げた。手には、彼のトレードマークとも呼べる、使い込まれたスケジュール帳があった。


「お前は、日本国の女担当だ。女を連れてこい。男担当は、他の女性社員に任せてある」

「何故、異性の社員が?」私は尋ねた。


「相手が地球人だからに決まっている。地球人を従わせるには、恋愛に発展させるのが効率的だからだ」

 上司はどうしてそんな当たり前のことを、と言いたげだ。


「恋愛か」馴染みがない。

「どんなやつでもいいよ、お前が気に入ったなら。俺たちの存在を知って、暴れ出したりしなけりゃ、それでいい」

「ただの実験材料だからか」

「そういうことだ」


 事務的な命令に、私は事務的に従う。実験の内容に関心はなかった。地球に訪れる前に、二年ほど言語の勉強を行う。


 地球で暮らすための肉体が用意され、偽りの身分が設定された。私は日本の大学生となった。

 大学生が選ばれたのは、目的とする女性の年齢が、大学生あたりだと丁度良いかららしい。高齢だと体力がなく、若すぎても実験の役に立たないと聞いた。


 私は地球で暮らし始め、日本の大学生然とした生活を送った。すでに二年が経過し、三年生にまで進級した。徐々に迫る卒業というものに、一抹の寂しさを抱く。ように、見せかけた。


 幸運というべきか、入学してすぐに一人の女性に狙いを定めることができた。上司にも「見つかったぞ」と報告を済ませ、私は安堵する。これであとは、適当に恋人関係にでもなって、我らの宇宙船に連れて行けばいい。


 過去の私は、そんな安直な考えでいた。


 浅薄な報告のせいで、自分の首が絞められていく実感がある。私はどうやら、地球人を侮っていたようだ。今、酷い後悔に襲われている。


「あいつに、近づかなければよかった」

 そんな後悔だ。



 入浴を終えて、服を着る。特に視力は悪くないが、黒縁の眼鏡をかける。さっきの男のように、裸眼は地球人に晒せない。

 透明のレンズだが、これでも私の瞳の気持ち悪さはいくらか軽減される。一般的な地球人の瞳と、構造的に違いはないはずだが。


 上司の見解によると、地球人のDNAが、他星の生命を拒絶しているからだという。生命の特徴は瞳に表われるから、こういったことが生じる、らしい。もしも我々が地球に攻め込んだら、地球人は闘うどころではなくなる、らしい。らしい、ばかりだ。


 銭湯から出ようとすると、アンケート用紙が目に入った。「利用したご感想をお聞かせください」と書かれていて、年齢や性別、どこの地域に住んでいるかを尋ねる欄があった。銭湯とはアンケート調査を実施するのか。少し興味が湧き、備え付けのペンを持った。


 ただ、偽りだらけの情報を書いて、はたして意味があるのか。地域など、「地球外」と書いたらふざけていると思われるだろうか。と悩んでから、正直に答える必要はなにもないと気がついた。下宿のある地域を記入した。


 利用した感想には「厄介な中年男性がいた」とだけ書いた。


説明回。

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