表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この恋、甘くも苦くも。  作者: リュナ
7/9

6話目

日付は変わって水曜日。


今日は月曜日に買った材料を使ってクッキーを実際に作る日。


午前中の授業の時間はうわの空で、先生の話なんか入ってこなかった。


時計ばっか見てたし。


早く放課後にならないかな…



午前12時51分。


昼休み。


屋上で莉子とお弁当を食べていた。


私はサンドイッチ片手に遮光板で太陽を眺めていた。


「今日どうしちゃったの?」


「え?」


私は莉子の方を見た。


莉子は箸を動かす手を止めてこちらをじっと見ている。


「ボーとしてるなと思ったら、何回も時計ちらちらみたり、ニヤニヤしてるし。」


「私ニヤニヤしてた?」


「してたよー。なんかキモかった。」


「えーうそー」


そんな周りの人が見てわかるくらいひどかったのだろうか。


「なんかいいことあった?」


「いや部活が楽しみなだけ。」


「うちの部活気に入ってもらえた?桃花に声かけてよかったわー。」


莉子は笑った。


「今日クッキー作るからね。エプロンちゃんと持ってきた?」


「もちろん。」


私は頷いた。


やっと放課後になった。


「今日はおととい買った材料でクッキーを作ってみたいと思います。」


早苗ちゃんが仕切った。


声がよく通るし、みんなをまとめるのに向いてるな。


部員を3グループに分けて作業を行った。


まず、オーブンを170℃で予熱する。


次に材料の計量。


薄力粉120gに砂糖40g、バター60gと卵を一つ。


粉物はふるいにかけて、少しレンジで温めてバターを溶かし、卵をボウルに割り入れた。


そして材料をボウルの中で混ぜていく。


生地を綿棒で均一に薄く広げて、型抜きを行う。


私はハートの型を使った。


大体30個ほどできただろうか。


鉄板にクッキングシートを敷いて、型抜きした生地を乗せた。


オーブンで20分ほど焼けば完成だ。


焼けるまでの間、洗い物など片付けした。


10分経過したくらいで早苗ちゃんが、


「いい匂いがしてきたね。」


と言った。


「そうだね。」


と相槌を打ったけれど、


私には分からなかった。



10分後、オーブンがチーンと鳴った。


私達はオーブンを開けた。


ほんのり焦げ目がついたクッキーが並んでいた。


「「美味しそう」」


みんなが声を揃えて言った。


成功したみたいだ。


莉子が手袋をはめて、オーブンからクッキーの乗った鉄板を出した。


「早速食べてみよう。」


私は言った。


なぜだろう。


物凄く食べたい。


みんなで試食した。


私はクッキーを一枚つまみ上げた。


そして、口に運ぶ。


噛んだ瞬間は硬いと思った。


けど、しっとりしている。




おいしい。



また一枚クッキーをつまみ上げた。



おいしい。




「桃花先輩?」


美優ちゃんがびっくりしたようにこちらを見ている。


どうかしたのか。


他の子も。


少し顔が強張っている。


三崎くんが静かな声で言った。



「先輩…






どうして泣いてるんですか?」


「え?」


気付けば私の目からは涙がこぼれていた。



「みんなで作ったクッキーが涙が出るくらい美味すぎて。」


「嬉し泣き?ちょっとびっくりしたー」


莉子が言った。


三崎くんが私の頬に流れた涙をぬぐった。


「ほら、泣かないで。」


なぜ泣いたか、自分でも分からなかった。


家に帰ってきた。


いつものように店の扉を開け、お母さんがいる厨房へと向かった。


「おかえり。」


お母さんは私の方を振り返って言った。


お母さんはお皿を洗っている。


「ただいま。」


私は近くに置いてある椅子に座った。


そして、今日あった出来事を話し始めた。


「あのね、今日は部活でクッキーを作ったの。お母さんの分もちゃんと持ち帰ってきたから、後で食べてね。」


「ありがとう。」


お母さんは皿に付いた泡を洗い流した。


「このクッキーねすごくおいしいの、私、味わかんないのに。」


「うん。」


「部活のみんなも優しいし」


「うん。」


「部活の時間が楽しみで楽しみで仕方がないの。」


皿がカチャリと甲高い音を立てた。


「お母さんねずっと心配だったの。


中学であんなことがあってから、それ以降、


いつもあんた人の顔見ないで、下向いて、イヤホンもずっとつけてるし。


もう一生誰にも心開けないんじゃないかって思ってた。


よかったよ。本当に。楽しそうでよかった。」


お母さんは言った。


私に背を向けて皿を洗っているから、よく見えないけど、お母さんの目元から小さな雫が落ちたような気がした。


私は黙った。


しばらく蛇口から水が流れる音と、スポンジと食器が擦れる音だけが厨房に響いた。


沈黙を破ったのはお母さんだ。


「そろそろ夕飯食べる?」


「食べる。」


お母さんはオーブンから何かを取り出した。


グラタンだ。


ホワイトソースの上に乗ったチーズがきつね色の焼き目が付いていて美味しそうだ。


「いただきます。」


私はスプーンで掬って一口食べた。


熱い。


この食感。


具材はマカロニとシーフードだ。


「美味しい?」


お母さんはいつも同じ質問をする。


私は違う答えを出した。


「美味しい。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ