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この恋、甘くも苦くも。  作者: リュナ
5/9

4話目

そんな学校生活で唯一楽しみだったのは給食の時間だった。


みんなで準備して、同じものを美味しいと思える。


一番楽しい時間だった。


給食ってお母さんが作る料理とは違う美味しさがあったし、家ではあまり食べないものが出てきたりする。


お父さんも担任だったの先生の名前は忘れても給食で何が出てきたか、よく覚えてるって言ってたな…


だから、あんな形で忘れられなくなるとは思わなかった。




あの日も四時限目のチャイムが鳴ると、みんな給食の支度を始めた。


班ごと隣の席の人と向かい合うように机を移動させたり、台拭きで拭いたり、食事を盛り付けたり。


献立はミルクパン、鶏肉の照り焼き、野菜ソテーと、シチューだった。


いつもより洋風で豪華だった。


準備が終わると、学級委員が号令をかける。


「みなさん、手を合わせてください。

いただきます。」


「「いただきます。」」


とみんな後に続く。


まず私は牛乳を飲んで、野菜を食べた。


そして、パンをちぎって次にシチューを口に含んだ。


その瞬間、口の中に張り付くような感覚が広がった。


歯磨き粉みたいな味。


まずい。


私は思わず口元を手で抑えた。


みんなの前で吐き出す訳にはいかなかった。


私はシチューを飲み込んでしまった。


その瞬間、スプーンが床に落ちて金属音が鳴り響いた。


周りを見た。


シチューを食べて、むせたり顔をしかめたりしている人はいない。



同じ鍋からよそったシチューなのに、なぜ私の分だけ味がおかしいのか。


「ねぇ、ほんとに桃花ちゃんの給食にチョーク入れたのかな?」


「吐きそうにしてるし、ほんとなんじゃない?」


誰かが笑った。


数人。


後ろから。


前からも。


右。


左。


女子がほとんど。


男子の笑い声も少し混ざってた。


みんなが私のことを見ている。


私と目が合わないように、横目で。


嘲笑う人。


同情する人。


何が起きたかわからない人。


色々だけど、共通してみんな好奇の目で私を見ている。


今、思い出しても不愉快極まりない記憶。


あの時、全員の眼球潰してやればよかったなと心底思った。


落ちたスプーンを拾ってお盆の上に乗せた。


そして、私は静かに言った。



「なんでこんなことするの?





 

まいかちゃん。」




まいかちゃんは少し目を見開いて、驚いたような意外そうな顔をした。




「へぇ、気付いてたんだ。」


私は泣きながら、教室を飛び出した。


靴を履いて、校舎の外に出た。


何も考えずに、自分の家に向かっていた。


お母さんが働いている喫茶ポポロに。


店の入り口を勢い良く開けた。


お客さんは数人いて、全力疾走してきた中学生にびっくりしている。


「こんな時間にどうしたの?」


パートで働いている顔見知りのおばちゃんが声をかけてきた。


お母さんは店内にはおらず、厨房にいるらしかった。


「忘れ物したから、取りに…」


どうしよう。こう言ったらすぐ学校に戻らなきゃいけなくなる。


おばちゃんは私の異変に気付いたのかこう言った。


「お母さんには戻ってきたこと言わないから。自分の部屋に行って、今日は休みなさい。ほら、これ。」


おばちゃんはドーナツをくれた。


「ありがとう。」


私は、階段を上って3階の自分の部屋に向かった。


自分の部屋がやっぱり一番落ち着く。


時計の秒針の音だけが鳴り響いて、人の声がしないから。


ベットに寝転がると、天井の木目と目が合った。


しばらく睨み合って、途中で目を逸らした。


もう何も考えたくなかった。


そのまま私は眠りについた。




ドアが開く音がして、私は目が覚めた。


そして、急いで起き上がった。


着替えずにそのまま寝たので、制服にシワがついてしまった。


「学校から電話があったよ。無断で帰ったんだって?」


お母さんはベットに腰を掛けた。


「何かあったの?」


お母さんの声に安心して、私は泣いてしまった。


「まいかちゃんが私の給食にチョークを入れたの。」


「まいかちゃんが?」


お母さんはすぐ学校に電話をかけた。

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