65 王族が抱える問題 2
そういうわけで、ペンと羊皮紙を借りて、ささっと簡単なデザイン画を描いた。
「まあ!」
お母様が驚いて、益々顔が赤く染まっていく。
部屋の隅で控えていたお母様の侍女のフルールが、そわそわとこっちを気にしていたから、手招きしてデザイン画を見せた。
「これは……お嬢様、あまりにも大胆すぎませんか?」
フルールはお母様より三つ年上の、まだ二十五歳の若い女性だ。
結い上げてお団子にした青みがかった黒髪と、吊り目気味の藍色の瞳を持つ、うちの派閥のユーク子爵令嬢で、結婚してシャゼーリ男爵夫人になった、お母様の側近で親友でもある。
お母様とはまた違うタイプの美人で、眼鏡をかけたら『ざます』って言うのが似合いそうって思っているのは秘密。
私も小さい頃から可愛がられて、ある意味でもう一人のお母さんみたいな人ね。
だから私みたいな子供が考えるような物じゃないって、そう思っていそう。
ちょっとお堅いところがあるから、そのデザイン画に渋い顔をしている。
「どうせやるなら、このくらいインパクトがある方がいいと思うの」
フルールも、この下着を着て旦那さんに迫ってみたら?
なんて冗談は口にしない。
多分、いや間違いなく、子供がなんてことを言うんだって叱られる。
フルールにはその手の冗談が通じないから。
でも、フルールにはまだ子供がいないから、お母様共々、実験を手伝って貰おう。
「そういうわけだから、お母様もフルールも手伝ってね?」
「子供が気にする問題ではないと思うのだけど……マリーの狙い通り、もし本当にこれで王妃様がご懐妊されれば、政治的にも王国は安定して、その切っ掛けを作ったゼンボルグ公爵領への便宜もかなり期待出来るようになるわね」
「わたくしはもう、お嬢様が子供には思えなくなりました。ここまで政治的に気を回せるなんて、すでに貴族学院の高等部を卒業して成人されているご令嬢のようにしか思えません」
筆記試験の卒業資格だけは持っているけどね。
と言うわけで、二人を巻き込んで下着を作ることにした。
六歳にはまだ早いから、私の分は作らないけど。
それから二ヶ月掛かって、ようやくブラとショーツが完成した。
まず作ったのは、お母様とフルールの分。
貴族の肌着だから、布の品質、肌触り、色、デザイン、とにかく妥協できる物じゃなかったから大変だったけど、完成形が先にあるから、思ったほどは手間取らなかった。
何より、お母様お抱えのお針子さん達が、すごく優秀だったおかげね。
山のような試作品を作って、世が世なら王妃だったはずの公爵夫人であるお母様を満足させる一品を作り上げたんだから。
さすが、公爵夫人のお抱えだって、しみじみ思ったわ。
さらに私は改良したランプを、寝室用にと二人にプレゼントした。
私が開発した光量を変えられる機能に加えてもう一つ機能を追加した新作だ。
それは、デフォルトだと自然光のランプなんだけど、ボタンを押すとランプの光がなんとピンク色に変わると言う。
ベッド脇のナイトテーブルに置いた光量を落としたランプの明かりをピンク色に切り替えて、妻のネグリジェを脱がせたら……。
と言うわけね。
我ながら、六歳児が何を作っているんだろう……と我に返って真顔になりそうになったけど。
結果、大成功。
二人に試して貰った翌日から、お父様とお母様のイチャイチャ度合いがね、もうすごくてね。
どうだった、なんて聞く必要もないくらいだった。
それはフルールもね。
「娘が作った物で、こういうことを言うのも恥ずかしいけれど……効果は絶大だと思うわ。これは是非、陛下と王妃様に献上しましょう」
「はい、お母様、よろしくお願いします」
さすがに六歳の私が王妃殿下にエッチな下着とランプを献上するわけにもいかないし、お父様とお母様の二人で王都に出発して貰った。
片道およそ一ヶ月。
王都での国王陛下と王妃殿下との面会待ち、採寸して下着を作って、それからまた面会待ちして成果を確認して、便宜を図って貰えるよう約束を取り付けて。
その間に、魔道具の特許申請もして。
帰ってくるのは早くても三ヶ月後かな。
なんて思っていたら、予定より一週間も早く二人は帰ってきた。
「陛下も王妃様も、大変喜ばれていたわ。普通は面会を申し込んでから、公爵家でも数日や十日は待たされてもおかしくないのに、翌日急使が来て登城するように言われたときはビックリしたもの」
道理で、一週間も早く帰ってこられたわけだ。
「魔道具としても、その全く新しい技術に目を見張られていたよ。魔道具としてのランプも、魔法陣の文様や命令文を置き換える技術も、両方とも特許申請を無事に済ませられたから、便宜はかなり期待出来そうだ」
「良かった。頑張って作った甲斐がありました」
「本当にマリーは天才ね」
お母様が抱き締めてくれて、頬擦りして、キスしてくれる。
「でも、またああいう物を作る時は、次もちゃんと相談してからにしてね?」
「はい」
子供がああいう物をポンポン作るのはどうかと思うしね。
「せっかくだから、あの下着も売り出しましょうか。欲しがる貴族は多いと思うわ」
「そうだな」
お父様が咳払いして同意する。
何故咳払いが必要だったか、そこは突っ込むまい。
そうして、お父様の商会から売り出された下着は、爆発的に貴族達の間に広まって、飛ぶように売れていった。
これは貴族にベビーブームがくるかもね……。
ちなみに、フルール懐妊。
お母様も懐妊。
私に弟か妹が出来ることになった。
もうね、すごく楽しみ!
だって前世では兄妹は兄だけだったから。
しかもあんな帆船馬鹿の兄だったから、可愛い弟か妹が欲しかったのよ。
お父様とお母様が私を愛してくれたのと同じかそれ以上に、私も愛してあげようと思うわ。
さらに二人の懐妊から遅れること二ヶ月後、なんと王妃殿下懐妊の報せが届いて、王国中がお祝いムードで盛り上がった。
ふと気付く。
ゲームでは悪役令嬢マリエットローズも、王太子レオナードも一人っ子だったはず。
…………。
まあ、いいか。
おめでたいことだし、ね。
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