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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第一部 目指すは大海原の向こう

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48 シャット伯爵令息ジョルジュは思う 2

 可愛い……。


 可愛い。


 可愛い!


 可愛い可愛い可愛い!!


 こんな可愛い子、見たことがない!!


「お招き戴きありがとうございます、シャット伯爵、伯爵夫人」


 笑顔もすごく可愛い!

 カーテシーも綺麗で、大人の貴婦人みたいにすごく立派だ!


「マリエットローズ様は、息子に会うのは初めてでしたな」


 父上に背中を軽く叩かれて、はっと我に返る。


「は、初めてお目にかかります。シャット伯爵家長男、ジョルジュ・ラポルトです」


 噛んだ!?


 恥ずかしい!!

 まさかこの僕が女の子相手に緊張するなんて!


 これまでも、いろんな下級貴族のご令嬢達や、同じ伯爵や、上の侯爵家のご令嬢達と会ったことあるけど、みんな綺麗だったり可愛かったりしたけど、緊張して失敗したことなんて一度もなかったのに!


「初めまして、ゼンボルグ公爵家長女、マリエットローズ・ジエンドです」


 その柔らかく優しい微笑みに、ドキンと心臓が跳ねて、かあっと顔が、身体中が熱くなる。


 天使だ……。


 聖女様だ……。


 誰だよ悪い魔女なんて言った奴!


「マリエットローズ様とは年も近い、是非仲良くしてやって下さい」


 父上の言葉に、さらに顔中が熱くなって、息が詰まる。


 だって爵位が下の男爵や子爵がご令嬢を僕に紹介するとき、いつもみんな『うちの娘と是非仲良くして下さい』って言うんだ。

 その仲良くの意味は『みんなジョルジュ様に気に入られて、ご結婚したいと思っているからです』ってアンヌが言ってた。


 つまり父上は……!


「はい、こちらこそぜひ」


 マリエットローズ様がそう微笑んだのを見て、頭に血が上ってクラクラして、煩いくらいドキドキと心臓が跳ねる。


 僕はもう七歳。

 マリエットローズ様は五歳。

 伯爵令息と公爵令嬢の立場を考えれば、そろそろ婚約者がいたっておかしくない。


 ど、どうしよう……まさか父上がそんな風に考えてたなんて。

 それならそうと、最初から言ってくれてれば良かったのに!


「ジョルジュ様は、帆船はお好きですか?」

「は、はい」

「すてきですよね、帆船」

「は、はい」

「私、きょうみを持つようになったのは最近ですが、今日を楽しみにしていたんです」

「は、はい」


 駄目だ、マリエットローズ様が可愛すぎて、話が頭に入ってこない!


 気付いたら、港に移動していた。


「お~ふ~ね~!」


 船を見て、万歳しながらマリエットローズ様がはしゃぐ。

 こうしてると普通の女の子みたいだ。


 でも、僕は段々と、マリエットローズ様って何か変だって思うようになってきた。


 だって。

 船が大好きではしゃいでるのは分かるのに、勝手に船を見に行ったりしないで、ちゃんと公爵夫人の許可を貰ってから、駆け出したりせずにお付きメイドと手を繋いで、大人しくいい子にして、興味津々の顔で船を見てる。


 出航してからも、テンション高くはしゃいでるけど、勝手に動き回ったりしないで、きちんといい子にしてる。


 最初は、『船が好きなんてご令嬢、変わってるな』ってくらいだったけど。


「危ない!」

「ありがとうございます、ジョルジュ様」


 マリエットローズ様が倒れそうになったのを助けたときとか、何故かその後、我に返るとすごく時間が経ってたりする不思議な出来事が何度も起こったりしたけど。


「ジョルジュ様、船の旅は楽しいですね」


 そう話しかけられたから、意を決して聞いてみたんだ。


「マリエットローズ様は女の子なのに、そんなに船が好きなんですか?」


 って。


「はい。好きと言うと、ちょっとごへい(語弊)があるかも知れないですけど、とても興味深いですね」

「ご、ごへ……?」


 なんだか、五歳の女の子と話してるとは思えないくらい、難しい返事をされた。

 それから続いた会話で、僕はマリエットローズ様を変だと感じた理由が少しだけ分かった。


「海って、広いですよね?」

「へ? あ、ああ、そうですね」

「どこまでも続いていますよね」

「そうですね」

「このままこの船で一年、二年と旅をしても、まだまだ終わりが見えないくらい、広いんですよ」

「そんなに……ですか?」

「はい。そんなに遠いところまで行けて、そんなに遠いところから、見たことがない色の髪や肌をした人、珍しい食べ物、珍しい動物などを、乗せて運んでこられるんです」


 そう言いながら、海の向こうを見つめる目が、なんだか全然子供っぽくなくて。


「それは……すごいですね。そんなこと、考えたこともなかった」


 頭がいいっていっぱい褒めてくれる家庭教師からは、そんなこと一度も教わったことなくて、本当に考えたこともなかったんだ。


「港が大きくなれば、そういう船が、もっとたくさんやってくるようになりますよ」

「そうなんですか?」

「はい。そして、珍しい物をたくさん運んで来てくれて、いっぱい見られるようになるんです。きっとシャット伯爵領は栄えると思います」

「えっと……そうなんですか?」

「はい、きっと」


 確信したように頷いたマリエットローズ様が、まるで大人の人みたいに見えた。


 僕を真っ直ぐ見てるけど、僕じゃない、もっとどこか遠くを見てるようで、その顔は五歳の女の子のはずなのに、もっと大人の女の人と話してるみたいで……。

 父上が心酔してる理由は、こんなところにあるのかなって、ふと思った。


 そう思うと、なんだか不思議な気分で、僕もその光景を見てみたくなったんだ。


「マリエットローズ様に言われて、僕も少し船が身近に感じられるようになって、興味が出てきました」


 だから、素直に、自然と、そんな言葉が出てきた。


「そう、それは良かったわ」


 その微笑みを見た瞬間、はっと我に返ったら、またすごく時間が経ってたけど。


 ……もしかして魔法?

 マリエットローズ様は、本当に魔女じゃないよね?



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― 新着の感想 ―
[良い点] >マリエットローズ様は、本当に魔女じゃないよね あの性格で男知ってるように見えないし魔法使いだったかもしれない……
[一言] 子供の頃に感じた大人の女性感への憧れは、大人になった時、どう映るのだらう なんて思ってしまった
[一言] うわ、下級貴族に対する親のセリフと上級貴族に対するセリフを同一視してるぞ 年を負うごとに拗らせて行くのか
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