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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第一部 目指すは大海原の向こう

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46 船遊びを終えて

 シャルリードからはそれほど離れず、周辺をぐるっと回って港へ戻って来たのは、太陽が水平線にかかり、今にも沈もうとしていた頃だった。

 船上で眺める、エメラルドグリーンの海を茜色に染め上げるその光景はとても綺麗で、みんな息を呑んでその光景を眺め続けた。


 船遊びの締めくくりにとても素敵な光景を見られて、きっとそれを狙って戻って来ただろう船長さんには、その粋な計らいにとても感謝だ。


「皆様、足下に気を付けて下船して下さい」

「わわっ!?」


 タラップを降りて桟橋に降りると、桟橋(地面)が大きく揺れていて思わずフラフラとしてしまう。

 もちろん、桟橋が揺れているんじゃなくて、船の揺れに慣れた三半規管がそう錯覚しているだけだけど。


「あら? あらら?」


 それはお母様も同じで、お父様にひしっとしがみついている。


「お、お嬢様、地面が揺れていますよ!?」


 エマもフラフラしながらビックリしている。


「ははは。皆様、地面が揺れているわけではなく、船の揺れに身体が慣れた後だと、陸に上がったら何故かそうなってしまうんです。大丈夫、すぐ元に戻りますよ」


 船長さんが笑ってそう教えてくれる。

 さすがに何故そんなことが起きるのかまでは知らないみたいね。

 中世は教会のせいで医学が発達していなかったから。


 三半規管が平衡感覚を取り戻し、ようやく真っ直ぐ立てるようになって紳士淑女としての体裁を保てるようになった頃、お父様達と船長さんが挨拶を交わす。


「世話になった船長。とても有意義な船旅だった」

「わたしも、初めて船に乗ったから、初めてのことばかりでとても楽しかったわ。リシャール()がとても頼りになるところも見られたし」


 お母様はほんのり頬を染めてお父様を見て、お父様も微笑んで見つめ合う。

 さすが美男美女の公爵と公爵夫人、夕日に照らされた海と帆船をバックに、とても絵になるわ。


 うん、夫婦仲が良好で、娘としては大満足です。


「お嬢様も楽しんで戴けましたか?」

「はい。とても興味深く、ゆういぎなお話も聞かせていただいて、楽しい船旅でした。船長さんのお話は、きっと生かしてみせますね」

「そ、それはどうも……ご丁寧に?」


 やっぱり最後まで半信半疑みたい。

 それも仕方ないけど。


 それから一晩お世話になるため、シャット伯爵の別邸へと向かう。


「ジョルジュ様はいかがでしたか?」


 船の上では少し交流が持てたからその勢いを借りて、歩調を合わせて隣に並んで聞いてみる。


「そ、そうですね、僕も知らないことがたくさんあって、興味深かったです」

「ふふ、そうですよね? とても興味深かったです。頭では知っていたつもりでしたけど、実際に見て、聞いて、体験することで、ただの知識ではなく、生きた経験になると思いませんか?」

「生きた経験……」


 さすがに七歳にはちょっと感覚的に難しかったかな?

 でも、何かしら感じ取れたことがあるみたい。


「なんとなく分かります。剣は危ないって分かっていても、自分で振って、怪我をしたりさせたりして、本当に危ないんだって分かるみたいな感じのこと、ですよね?」

「そう、それです! それが生きた経験です」

「マリエットローズ様が最初に言っていた通り、船は遠い海の果てまで行って、珍しい物をいっぱい乗せてくるんだなって思ったら、なんだか格好良くて。でも、あんなに揺れて、海に落ちそうになるのが怖いものだとは思ってもいなかったから。今日はいっぱい色々な発見がありました。これもマリエットローズ様のおかげです」


 いっぱい喋ってくれて、すごく嬉しい!

 これは、大分仲良くなれたんじゃない?


「ジョルジュ様はいずれ伯爵家を継ぐ方ですから、今の内にいっぱい色々なものを見て、聞いて、生きた経験をすれば、きっと立派な領主様になれますよ」


 そうすれば、人見知りを直す切っ掛けになるかも知れないし。


 人見知りのジョルジュ君が共感してくれて、なんだか嬉しくてにっこりと微笑む。

 途端に固まって、足を止めてしまったけど。


 やっぱりこんな短い時間では、完全に人見知りの対象から外れてくれないみたいね。

 今日はこれからお屋敷で、ちょっとした晩餐会を開いてくれるらしいから、そこでもう少し話をして私に慣れて欲しいわ。


「マリー」

「はい、お父様」


 呼ばれてお父様とお母様と一緒に並ぶ。


「実際に船に乗って船長から話を聞いて、マリーが何を思い付いたのか、聞かせてくれるかい?」

「はい、お父様。ですが、ここではちょっと……家に帰ってからでもいいですか? 準備したい物があるので」


 こんなことならもっと早く覚悟を決めて、プレゼン用の資料を準備しておくんだった。


「ふむ、随分と大がかりなことを考えたみたいだね。分かった。では後日、マリーの準備が整ったら声をかけてくれ。時間を取ろう」

「はい、よろしくお願いします」


 お父様との話が終わったらお母様がすかさず私の隣に立って、手を繋いでくれる。


「マリーは本当にすごいわ。自慢の娘よ」

「ありがとうございます、お母様」


 照れる。

 でも嬉しい。


 それから屋敷に戻って晩餐会で、明けて翌日、お父様は忙しい身なので、朝からすぐに出立して家へ帰ることに。


 早朝から慌ただしかったのに、シャット伯爵一家と使用人が総出で見送ってくれた。


 その時。


「僕はもっと色々な経験をして、立派な男になってみせます」


 なんだか重大な決意を固めたらしい男の子の顔で、最後にジョルジュ君がそう言って見送ってくれる。

 よく分からないけど、きっといい変化なのよね。


「では、次にジョルジュ様にお会いする時が楽しみですね」


 激励するように微笑むと、やっぱり固まられてしまったけど。


 うん、頑張れジョルジュ君。

 人見知りを克服してくれる時を、楽しみにしているから。


 後ろから、エマとアラベルの残念そうな溜息が聞こえてきた気がするけど、きっと気のせい。

 だって溜息を吐かれるようなこと、何もしていないもの。



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[気になる点] >中世は教会のせいで医学が発達していなかったから そういや今後長期航海目指すようなら、医学や栄養学とか発展させないと不味いのでは?ビタミン確保のためにライム載せようとか、サバイバル的…
[良い点] 頑張れジョルジュ君。固まっている場合ではないですぞ! とは言えこの先マリーに弟妹が出来ない限り望みは薄いでしょうか。 それでも将来は共にゼンボルグを盛り立てていける頼もしい味方に育ってくれ…
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