39 シャット伯爵からのお誘い
予定通り、更新再開します。
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第三十九話から始まる四十話+αのざっくり文庫本一冊程度を、毎日投稿する予定です。
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港と街道のインフラ整備は各地でおおよそ順調に進んでいる。
大型ドックでは、遂に大型船の試作型の建造が始まった。
孤児達の教育もスタートして、船員確保の目処も立った。
浮き輪とライフジャケットの販売も順調そのもの。
最初こそ伸び悩んでいたけど、ある時期を境に右肩上がりに販売数を増やして領内の漁師と海軍に広まり、救命用具として受け入れられつつある。
お父様と一緒に法整備も進めていて、近々浮き輪の常備、ライフジャケットの着用、大型船における定員以上が乗れる数の救命ボートの配備が、それぞれ義務化される予定だ。
これらが社会に受け入れられて浸透していったら、いずれ遭難者を捜索するための救命艇の開発や救命艇基地の建設、ゼンボルグ公爵領立救命艇協会の設立も視野に入れたいところね。
「スタートを切ったものばかりだけど、ここまでは順調ね」
「はい、お嬢様」
私もご機嫌だけど、エマもニコニコご機嫌だ。
浮き輪とライフジャケットのおかげで命拾いしたとの感謝の言葉が、エマの実家のサンテール商会に寄せられているらしいの。
サンテール商会長から直接、エマも一緒にその報告を聞いたから、最近エマの機嫌はとてもいい。
釣られて私までニコニコ笑顔になってしまうわ。
「あと他に必要な物と言えば……」
航海術を助ける道具。
操船を助ける道具。
船員の生活を向上させる道具。
といったところかしらね。
操船を助ける道具と船員の生活を向上させる道具は、魔道具で作ろうと思っているから、今しばらく魔道具製作のお勉強を進めてからじゃないと手が付けられない。
つまり、次に手を付けるべきは航海術を助ける道具になる。
アイデアだってしっかりあるわ。
それも必須中の必須の、ね。
ただ、本当にそれを作るべきか、ちょっと悩んでいるの。
だって、かなり専門的な知識が必要で、港を整備して大きなお船を作りましょう、と言うのとは発想のレベルが違いすぎるから。
さすがにたった五歳の子供がそれを言い出すのはやり過ぎじゃないかなって。
でも、私がそれを言い出してもおかしくないくらい成長してからとなると、開発のスタートを切るのが遅すぎて、陰謀阻止のタイムリミットに間に合わない可能性が高い。
でもさすがに……。
そんな風に二の足を踏んでいる毎日なのよ。
どうしたものかしら。
今日もそんなことをグルグル考えていると、部屋のドアがノックされた。
このノックの仕方、お父様だ。
エマが対応に出てくれて、二言、三言話すと、予想通りお父様が部屋に入ってきた。
「マリー、今、少し話をいいかな?」
「はい、パパ、大丈夫です」
本来、貴族は家族であっても、お互いの部屋を訪れるときは侍従や侍女を先触れに出して、相手に訪問する旨を伝えて許可を貰ってから、と言う手順を踏む。
でもうちは公爵家なのに、その辺りは大分フランクだ。
こうやって当たり前のようにお互いの部屋を直接訪ねることもある。
もっともそういうときは、大事な話がある時が多い。
だからきっと今回も何か大事な話があるんだろう。
こういう、気が急くと手順を飛ばしちゃうところは、血筋なんじゃないかしら。
決して、私の性格だけの問題じゃないと思うのよね。
「隣にいいかな?」
「はい、もちろんです」
お父様が私の横に腰掛けて、エマが紅茶を淹れてくれる。
紅茶は本来、かなり後の時代にならないと登場しないんだけど、さすが乙女ゲームの世界だけあって普通にあるのよね。
なのにスイーツだけはない。
こういうところは、いつも中途半端に思うわ。
紅茶に口を付けた後、お父様が話を切り出してくる。
「実はシャット伯爵からマリーを招待したいと言う話が来ていてね」
「招待ですか? 先日、船員育成学校の開校式のために行ったばかりですよね?」
「うん、そうなんだけどね」
先日と言っても、もう半年近く前のことだけど。
この時代はまだ交通機関が発達していないから移動にすごく時間が掛かるんで、半年やそこらならお久しぶりにもならない、つい先日のこと扱いなのよ。
「マリーはこれだけ帆船に関わっているのに、肝心の船に乗ったことがない。うちの公爵家は内陸にあって、私用の船は持っていないからね。おかげで、港の整備の視察の時も開校式の時も眺めるだけだった。そこでシャット伯爵家が所有する帆船を出すから、マリーを一度乗せてあげたいと話があったんだ」
「帆船!」
港の整備の視察の時がそのチャンスだったんだけど、まさか女の子の私がそこまで帆船に食いつくとは思ってもいなかったみたいで、お父様もシャット伯爵もクルージングのための準備を全くしていなかったそうなの。
その後の開校式の時は、開校を急いだ分だけ諸々日程が厳しくて、準備がとても忙しかったし、さらに各地の学校の開校式も回らないといけなかったから、のんびり船遊びをする時間が取れなかったのよ。
前世では、お酒を飲んだ父と兄が必ず絡んできて帆船絡みの話をするから、うんざりして興味なんて全くなかったけど。
ここまで色々関わったんだもの、俄然興味が湧いてきても不思議はないわよね。
一度くらい実物に乗ってみたいわ。
思わず目を輝かせてしまった私に、お父様が優しく微笑んだ。
「では、招待にあずかろうか」
「はい!」
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