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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第一部 目指すは大海原の向こう

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34 サンテール会長との商談

 船員育成学校の事業が始動したから、後はみんなの頑張り次第。

 そっちで私が手伝えることは何もないからね。


 事実、父と兄から聞かされた知識があるだけで、帆船どころか公園のボートにすら乗ったことがないんだから。


 だからそれ以外のところでフォローしていきたいと思う。

 実は、最初にシャルリードに視察に行って、停泊している帆船や小さなボートみたいな漁船を見たとき、すごく気になったことが一つあったから。


「エマ」

「はいお嬢様、今度はどうなさいました?」


 今度はって……。

 うん、五歳児らしくないことをいつも言い出している自覚はあるけど。


「エマのお父様の商会は、コルクもあつかっていたわよね」

「はい、品質の良いコルクを仕入れられるように、植林や栽培にも力を入れていると聞いたことがあります」


 そう、実はエマって、大商会のお嬢様なのよ。

 エマの実家の商会はゼンボルグ公爵家の御用商人の一つで、お父様が出資して後ろ盾に付いているの。


 後ろ盾と言うのは、例えば、他の貴族が無茶な注文や言いがかりを付けてきたり代金を踏み倒そうとしたり、他の商会との利権争いで物理的な妨害行為をされたり刃傷沙汰になったり、それで相手の後ろ盾の貴族が出てきたりした時、保護してトラブルを解決してあげると言うわけね。


 その代わり、商会は後ろ盾に付いてくれた貴族に毎年決まった額の上納金を支払って、さらに解決して貰ったトラブルの内容や解決のために使った経費に応じて謝礼を支払わないといけないけど。


 これも貴族の利権の一つね。


 上納金や謝礼と言うと、甘い汁を吸うヤクザな商売にも聞こえるけど、実際にやっていることは警備会社や用心棒だと思うわ。


 バックに貴族の○○家が付いている、家人や使用人がよく店に立ち寄って買い物をしている、となれば、ゴロツキや生半可な相手では手を出せないもの。

 なんなら『うちの商会に手を出すってことは、ゼンボルグ公爵家を敵に回すと言うことですよ? それでも事を構えますか?』って相手を牽制していいんだから。


 だから上納金は、そういう看板を掲げていいよって名前の使用料みたいなものだと思えば、貴族が一方的に搾取しているわけじゃない、持ちつ持たれつの関係と言うのが見えてくる。


 だって後ろ盾に付く貴族としては、優秀で信頼出来る商会を保護しておきたいのよ。

 余所の貴族や商会に潰されたら困るし、領地から逃げ出されても困る。

 そういったトラブルを防いで、領地経済を活性化する一助を担って貰うの。


 もちろん、一方的に搾取するだけの貴族や、貴族の名前を利用して横暴で犯罪まがいの商売をする商会、両者が組んで汚い商売で荒稼ぎしているところもあるみたいだけど。


 でも、お父様はそんなことはしない。

 ちゃんと信頼出来る商会を選んで、健全な商売をして貰っているから。

 だって世が世なら王家御用達の商会なんだもの、ちゃんとした商売をしてくれないとゼンボルグ公爵家の名に傷が付いてしまうわ。


 もっとも、何事にもグレーゾーンはあるわけで。


 こんな時代のこんな世界だから、利権争いで口には出せない手段が必要になる場合もあるみたい。

 非合法な商品を扱わない、非合法な手段で一般の人達に迷惑をかけない、くらいが健全のラインだって言うんだから、こういうところは常識のギャップが大きくて、まだまだ慣れないわ。


 でも、むしろそのくらいのやり手じゃないと、貴族とのお付き合いなんて無理なんじゃないかしら。


 そういうわけで、お父様とエマのお父様は健全でいい関係を築いていて、その縁でエマが私のお付きメイドとして紹介された経緯がある。


「お嬢様はコルクが欲しいのですか?」

「うん。ちょっと気になることと言うか、思い付いたことがあって」

「何に使うのか分かりませんが、父を呼びますか?」

「そうね……ちょくせつ話を聞いてもらった方が早いかも知れないわね」

「では、セバスチャンさんに伝えて、旦那様にご報告しておきます」

「うん、お願い」


 そういうわけで日を改めて、エマのお父様、サンテール商会の商会長、ガストン・サンテール会長がコルク素材の商品サンプル持参で屋敷まで来てくれた。


「ご無沙汰しております、マリエットローズ様。本日もご機嫌麗しく。少し見ない間にまた大きくなられて、立派なレディの品格が益々漂ってきておりますな」


 言うだけならタダ。

 本当にお上手よね。


「お久しぶりです、サンテール会長。おいそがしい中、とつぜん呼び出してしまってごめんなさい。来てくれてありがとう」

「いえいえとんでもありません。ゼンボルグ公爵家あっての私達でございますから」


 さすが商人、VIPの顧客には謙虚よね。


 でも、このサンテール会長も、ゼンボルグ公爵領の領民だけあって、まるで王家のように敬ってくれる。

 対して本当の王家には、男爵家程の敬意を払う価値も感じていないみたい。


 私がまだ子供だから誰も詳しくは教えてくれないけど、どうやら王都での商売で、ゼンボルグ公爵領の商会と言うだけで何度も煮え湯を飲まされているみたいだから、それも無理ないかも知れないわね。


 そんなサンテール会長は、エマのお父様だけあってまだ若い。

 ようやく三十歳になったばかりといったところ。


 先代、先々代の会長が早々に楽隠居してしまって、まだ二十代のうちに会長のお鉢が回ってきたらしいの。

 そのおかげで苦労が多いのか、エマそっくりのブルネットのふわふわのくせっ毛に、最近白髪がチラホラ交じって見えるのは、見て見ぬ振りをすべきよね。


 でも働き盛りの年齢で、すらりと背が高くガッシリした体付きで、表情も喋り方もエネルギッシュで、ゼンボルグ公爵領一番の大商会を切り盛りするだけの貫禄がある。

 瞳の色もエマと同じ淡く澄んだ水色だけど、顔つきはあんまりエマとは似ていない。

 エマはお母様似ね。


 本日は応接室で、お父様も同席しての商談になる。


 紅茶を淹れてくれる給仕係は、久しぶりの父娘の対面だからエマにお願いした。

 今は私主体の商談中だから、エマと特に何かを話したりしないけど、後で少し話をする時間を取ってあげようと思う。


「それで本日は、コルクをご所望と伺いましたが」

「はい。サンテール商会がコルクの取りあつかいに力を入れていると、エマに聞いたので」

「ええ、我が商会はゼンボルグ公爵領の特産品であるコルクの取り扱いに関して、一番の商会だとの自負があります。どのような品質のコルクでも、ご入り用なだけ揃えてみせましょう」

「ありがとう、心強いわ」


 サンテール会長がエマをチラリと見てよくやったとばかりに目で頷いて、エマが嬉しそうに微笑みを返す。


「それでマリエットローズ様、いかようなコルクを、いかほどご入り用でしょうか。ご用途をご説明戴ければ、適切な品をご紹介させて戴きます」

「量はまだぐたい的には分からないけど、できればたくさん欲しいわ。ようとは、ある商品を開発したいの」



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