320 大型交易船に乗船
ここからは私も初めてだ。
「わあ~!」
他の招待客達と一緒に、感嘆の声を上げてしまう。
広い、大きい、高い!
まるでカティサークに乗ったみたい!
もちろん、細部はやっぱり細々違う。
完全再現を目指したわけじゃないからね。
でも、カティサークをイメージして設計したから、外観はとてもよく似ている。
酔った父と兄に見せられたカティサークの写真のアングルを思い出して、その位置に立って見れば、ほぼそのままで、感動が湧き上がってくるわ。
当時、全く興味がなかったから仕方ないけど、造船すると決めてから、今更ながらイギリスに行って、復元されて展示されたカティサークに乗っておけば良かったって、そう思っていたのが少しは叶った気分よ。
全員が乗り込んで、特に招待客達が驚き見回し、ある程度堪能したところで、お父様が全員の注目を集める。
「皆気付いていると思うが、改めて説明しておこう。これらの船の造船に尽力してくれたのが、フィゲーラ侯爵家、シャット伯爵家、ビルバー子爵家だ」
招待客の視線が、お父様とフィゲーラ侯爵家、シャット伯爵家、ビルバー子爵家の人達に集まる。
「これらの家の領地が高い造船技術を持っていることは承知していると思う。しかし、その高い造船技術を以てしても実現していなかった、様々な先進的な工夫がこれらの船には凝らされている。例えばその一つが船体中央に取り付けられた舵だと言うことは、その目で見て理解したことと思う」
驚き、賞賛、嫉妬など、様々な視線がフィゲーラ侯爵家、シャット伯爵家、ビルバー子爵家の人達に向けられた。
でも、文句などは出てこない。
それは、今更の話だし、自分達の領地ではこれほどの船は造れないと、理解出来るからだと思う。
そもそも、そんな文句を言いそうなのが、ジュユース侯爵夫妻とリチィレーン侯爵夫妻くらいしかいないから。
「これらの船に、どれほどの技術が使われているのか、皆も興味があることだろう。それについては後ほど一つ一つ、じっくり解説しよう。その前に、何故このような大型船を建造したのか。それについて説明しておく」
そうしてお父様は新大陸のことは伏せて、『ゼンボルグ公爵領世界の中心計画』の概要、『アグリカ大陸への直通航路開拓計画』について説明していく。
まさか大西海を南下して、直接アグリカ大陸の国々と交易しようだなんて、招待客達は誰も想像すらしていなかったみたい。
お父様の説明が進むにつれて、より大きな驚きと納得、賞賛と期待が広がっていった。
一部、リチィレーン侯爵夫妻が激しく動揺して、ジュユース侯爵がお父様を憎々しげに睨み、ジュユース侯爵夫人が青い顔をして項垂れてしまったけど。
ジュユース侯爵とジュユース侯爵家については、不自然なくらい、お父様もお母様も周りの誰も、私には詳しく教えてくれないのだけど、断片情報から、おおよそのことは予想が付いている。
ジュユース侯爵家には、ゼンボルグ公爵家同様、かつてのゼンボルグ王家の血が流れている。
今では血は随分と遠くなってしまっているけど、世が世ならジュユース公爵家だった家ね。
そのため、徐々に衰退していくゼンボルグ公爵領を真に統治して発展させられるのはお父様じゃなく自分だって、ジュユース侯爵は考えているみたい。
一応、口先だけではなく、ジュユース侯爵領内で発展のため色々と施策をしているようよ。
残念ながら、思うほどの成果は上げられていないみたいだけど。
その上で、お父様とお母様に対して、さらには私に対しても、何か色々と言っているようで、両家はあまり関係が良くなくて、お付き合いは遠慮していたようなの。
先代のジュユース侯爵は親しみやすい方で、良好な関係だったらしいのに。
だってお母様が嫁いで来ているくらいだしね。
そう、実はジュユース侯爵は三十代半ばで、お母様とは十歳近く年が離れた実のお兄さんなの。
そして、ジュユース侯爵家には、少し歳が離れた私の従兄がいるのだけど……。
その辺り、色々あって、兄妹仲はよろしくないみたい。
私も、その従兄とは会ったことがないから、人となりは噂でしか知らないけどね。
一応、ジュユース侯爵の薫陶を受けている、とだけ。
だから今の関係は、今のジュユース侯爵になってからになる。
一丸となってゼンボルグ公爵領を発展させたいのに、そこはちょっと頭が痛い問題なのよね。
お家騒動に発展していないだけ、まだマシだけど。
だからお父様は、こうして大型船を見せつけて、計画を明かしたのかも知れない。
お父様は招待客達に説明しながら、特にジュユース侯爵夫妻に目を向けているから。
「特産品の増産や品質の向上、魔道具の開発、大型船の造船、新たな流通網、これらが全て、『ゼンボルグ公爵領世界の中心計画』の一環であることは、これで理解出来ただろう。そして大きな成果を期待出来ることも」
お父様が説明を終わらせて、招待客達をぐるりと見回す。
みんな、理解して納得してくれているみたい。
ジュユース侯爵夫妻だけは認めたくなさそうだけど。
「では、これら計画を立案し、大型船を設計し、さらには画期的な技術の数々を提案した、計画の要となる人物を紹介する」
そのお父様の言葉に、招待客全員が、それは一体誰なのか、どこにいるのかと、視線をあちこちに走らせる。
ただ、それらしい人物がいないから困惑気味だ。
その様子を楽しげに見ながら、お父様はお母様の隣に立つ私に近づくと、私の肩に手を置いた。
「その人物こそ、私達の娘、マリエットローズだ」
途端に、招待客全員の驚きの視線が私に集まった。
思わず怯みそうになったけど、ニコニコ笑顔を絶やさず、なんとか堪える。
だって、すごい目で見られているから。
特にジュユース侯爵夫妻とリチィレーン侯爵夫妻に。
ともかく、堂々と、笑顔で挨拶をする。
「改めて自己紹介させて戴きます。『ゼンボルグ公爵領世界の中心計画』を立案、大型船の設計、新技術の提唱、開発をしました、マリエットローズ・ジエンドです」
船上に驚きの声が響き渡った。
いつも読んで頂き、また評価、感想、いいねを頂きありがとうございます。
書籍第二巻、発売中です。
また、ドラゴンエイジのWeb媒体「ドラドラふらっと♭」にてコミカライズが決定しました。
是非、期待してお待ち下さい。
励みになりますので、よろしければブックマーク、評価、感想、いいねなど、よろしくお願いいたします。




