318 遂に本番の大型船就航!
◆
「~~~~♪」
「お嬢様、今朝もご機嫌ですね」
私の髪をブラッシングしてくれているエマが、私の機嫌がいいのが嬉しいのか、ニコニコと聞いてくる。
「ええ、先日のお披露目を思い出したら、つい♪」
「またですか? でも、お嬢様のお気持ちも分かります。本当に大きくて、綺麗で、速くて、素敵な船でした」
そう、遂に、遂に、遂に!
本番の大型船改め、大型交易船の艤装が終わって、三隻とも正式にジエンド商会へ引き渡されたの!
それで、しばらく近海での訓練航海を行って、新しい船員達も含め、訓練船団の全員が操船に慣れたところで、満を持してお披露目が行われたのよ。
目を閉じれば、その時の様子が色鮮やかに甦ってくるわ。
――お披露目当日。
フィゲーラ侯爵領の西の沖にあるセプ島のセプ港へ、お披露目の参加者全員が従来の帆船で向かう。
「なんと……!」
「ただの無人島に、いつの間にこのような港が……」
港が見えてくると、それだけでお披露目に招待した貴族達が驚きの声を漏らした。
その様子に、つい楽しくて笑みが零れそうになる。
計画のための秘密基地にご招待、みたいなものだからね。
しかも、練習船の運用に間に合わせるための急拵えではあったけど、その後、整備や建て増しで拡張して、今ではそれなりの見栄えと規模の港になっている。
当初そこまでする予定ではなかったのだけどね。
利便性の向上はもちろん、ここで暮らしている事務員や船員達の生活環境の改善のためもあって、徐々に手を加えていったことで、間に合わせからちゃんとした港へと変わっていったの。
大型交易船がアグリカ大陸と往復するようになったら、もう隠しておくことは出来ない。
だからお役御免になるのだけど、こうなるとちょっともったいないわね。
引き続き、訓練施設として利用するのもありかも知れない。
でもその話はまた後日改めて考えるとして。
船がセプ港に到着して、全員下船する。
「閣下、我々に見せたい物と言うのは、さすがにこの港のことだけではないのですよね?」
一通り港を見回した後、招待客の一人、レセルブ伯爵がお父様に尋ねる。
レセルブ伯爵はアラベルのお父様だ。
私も何度かご挨拶したことがあるけど、アラベルのお父様らしく、生真面目過ぎるくらい、とても生真面目な方だったわ。
「ああ、もちろんだとも」
お父様が楽しげに悪戯っぽく笑うと、フィゲーラ侯爵家、シャット伯爵家、ビルバー子爵家の人達が、余裕の笑みや自信を見せる。
対して、それ以外の招待客達は期待、不安、訝しげと、様々な表情を見せた。
言うなればセプ島は、世界の西の果てと言われたゼンボルグ公爵領の果ても果て。
ここから先は何もなく、ただひたすら海が広がるだけ。
それなのに、こんな航路から外れた場所に港を作って、一体何に利用しようと言うのか。
そう考えるのが自然だものね。
本日、このお披露目に集まったのは、貴族だけで二十人以上と、かなりの人数だ。
まず、当然ながら、ゼンボルグ公爵家からはお父様とお母様と私、そしてエルヴェ。
さらに、領地で造船していたフィゲーラ侯爵家、シャット伯爵家、ビルバー子爵家。
当主夫妻、その嫡男夫妻まで、主要なメンバーが集まっているわ。
それからエマやアラベルを始め、各家のお世話係のメイドや護衛達。
当然、すでに事情を知っている各家でも口が堅く信頼が厚い人達ばかりね。
それに加えて、ジュユース侯爵家、リチィレーン侯爵家、シャルラー伯爵家、ブランローク伯爵家、レセルブ伯爵家と、派閥を持つ主要な貴族家を全て。
ただし、こちらは当主夫妻まで。
さらに各家のお世話係のメイドや護衛達には、本土の港に残って貰っている。
練習船の時のお披露目は関係者だけで秘密裏に行ったけど、今回は思い切って招待する貴族を増やすことにしたの。
「今回のお披露目は、各派閥のトップとなる貴族家も招待しようと思う」
そうお父様から提案された時は、正直驚いたわ。
「それだと、大型交易船の情報が漏れて広まってしまうのでは?」
そう私が危惧したのは当然よね。
でも、お父様にも思惑があったみたい。
「八十メートル級の帆船、しかもマストの先端が高さ五十メートルにもなる大型船が就航する以上、いつまでも隠しおおせるものではないよ。だったら、ゼンボルグ公爵派全体の結束も考えて、派閥を持つ貴族家のトップくらいには情報を開示しておいた方がいい」
そう言われたの。
確かに、いつまでものけ者にされていたら、気分は良くないものね。
「それにこれから各地の港町も整備させるのだから、事情を通しておく方が事を運び易くなる。もちろん、内陸水運についてもね」
言われてみれば、確かにそうねと思ったわ。
大型交易船が就航した以上、計画は次の段階に入る。
これほどの情報をゼンボルグ公爵派のトップであるお父様から直接聞くのと、人伝や噂で聞くのとでは、印象がかなり変わるでしょうし。
身内の貴族達に情報開示するのに、丁度いいタイミングかも知れない。
「ただし、開示するのは造船していたこと、使われている各種技術がマリーのアイデアであること、そして『アグリカ大陸への直通航路開拓計画』までだ。新大陸については、今しばらく伏せておく」
「分かりました。そこはお父様にお任せします」
と言うことで、ご招待と相成ったわけ。
「それで、こんな無人島くんだりまで連れて来て、何を見せて戴けるのかな?」
お父様に尋ねたブランローク伯爵の脇から一歩前へと出て、ジュユース侯爵が嫌味な口調でそうお父様に迫る。
ちょっと感じ悪いわね。
こんな島にこんな港があったことには驚いたけど、だからそれがどうした、どうせ大した物ではないのだろう。
そんな風に言いたげな顔だ。
怪しい動きをしていたリチィレーン侯爵家といい、このジュユース侯爵のお父様を軽んじる態度といい、悲しいけど、ゼンボルグ公爵派も一枚岩ではない。
だからこそ、派閥の結束をと言うお父様の考えだ。
そんなジュユース侯爵の態度に、お母様が普段は滅多に見せない怒りを含んだきつい眼差しで射貫くように睨む。
でも、ジュユース侯爵はお母様を完全に無視。
これまでろくにお付き合いがなかった――少なくとも、ジュユース侯爵家と私が積極的に接触することがないようにと配慮されてきたのが分かる態度だわ。
でもね、そんな態度を取っていられるのも今だけよ。
絶対に度肝を抜いてあげるんだから!
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