305 お父様とお母様の帰宅
「ただいまマリー。元気にしていたかい?」
「マリー、ただいま。大変だったでしょう? 無理はしていないようで安心したわ」
「お帰りなさい、パパ、ママ。私も二人の無事な姿を見られて安心しました」
春と呼ぶにはまだ少し早い、ある肌寒い日。
お父様とお母様が王都から無事帰ってきてくれた。
かつて私が王都へ行ったときは、貴族に雇われた者達の襲撃があったから、今回ももしかしたらと心配していたけど。
こうして何事もなく無事な姿を見られて、本当に安心したわ。
その気持ちを込めて、順番にギュッと抱き付くと、二人ともギュッと抱き締めてくれる。
それだけで、お父様とお母様から、すごく心配してくれていたのが伝わってきた。
度々報告書を送っていたとはいえ、内容が内容だけにね。
だから、いつもと変わらないにっこり笑顔を見せてあげる。
少しでも安心してくれるように。
「立派に留守を守ってくれたようだね」
「マリーがどんどん大人になってしまって、嬉しいやら寂しいやら。でも、やっぱり嬉しいわ」
二人が交互に頭を撫でてくれて、それだけでもう、いつもの日常が戻ってきたんだなって、ほっこりすると同時に、すごく安心出来た。
やっぱり、ちょっぴり心細かったみたい。
「エルちゃんも、いい子でお留守番が出来ましたよ。早く顔を見せてあげて下さい」
「ええ、そうね」
「ああ、そうしよう」
お父様とお母様は旅装を着替えてお風呂で旅の汚れを落として、それからエルヴェの子供部屋に顔を出す。
「まーま♪ ぱーぱ♪」
二人に気付いたエルヴェが、それはもう満面の笑みで、よちよち歩いて久しぶりのお母様に抱き付いた。
「ただいまエルちゃん♪」
「キャッキャッ♪」
お母様が抱き上げて頬にキスをすると、エルヴェはもう大はしゃぎだ。
「エルヴェ、いい子でお留守番していたかな?」
「ん! えぅちゃん、あいちゅぅ~てぇたよ♪」
次にお父様が受け取って頬擦りすると、『うん、エルちゃんお留守番してたよ』かしら、お父様の腕の中でハイテンションでお話をする。
二人と会うのは久しぶりだから、すごく嬉しそう。
それから家族四人でリビングに場所を移したんだけど。
廊下を歩いている間中、エルヴェのお喋りが止まらなかったくらいよ。
よっぽど嬉しかったのね。
そうして、リビングに腰を落ち着けて、ゆったりお茶を飲みながら、まずは私から留守中の様子を二人に話して聞かせた。
頻繁に手紙を出していたけど、やっぱり直接話すと書き切れなかった報告することがいっぱいあって、私の話だけでも随分と長くなってしまったわ。
「そうか。まだ難しい局面を迎える前で幸いだった。普段とは違い、重い責任を背負っての留守居役、本当によく頑張ってくれた」
お父様が微笑んで頭を撫でてくれる。
「偉いわ、マリー」
お母様も、私を抱き締めて頬にキスをしてくれた。
「えへへ♪ 二人の娘として当然です♪」
照れる。
でも嬉しい♪
ちなみに、難しい話が長すぎて退屈だったのか、エルヴェははしゃぎ過ぎもあって、今は電池が切れたみたいにお母様のお膝の上でお昼寝中だ。
私の話ばかりでなく、王都の様子、それから魔石の買い付けや新特許法などの諸々も気になるところだけど。
とっておきの報告をしないとね。
「お父様、お母様、朗報です。遂に本番の大型船が完成しました!」
「おお! そうか、遂に完成したか!」
「まあ♪」
この報告には、さすがのお父様もお母様も声を弾ませる。
「まだ艤装が残っているが、いよいよアグリカ大陸が見えてきたな」
「ええ、とても楽しみだわ♪」
うんうん、そうよね、すっごく楽しみよね♪
私も、待ちきれないくらい楽しみだもの♪
「お父様とお母様のお帰りを待って、それから各地で進水式を行う予定になっています。王都との往復ですごく疲れているでしょうけど……」
「いや、そういう話であれば、のんびりはしていられないな。すぐに予定を組もう。セバスチャン」
「こちら、進水式の日取りと旅程となっております」
さすがセバスチャン。
スマートに懐から予定表を取り出てお父様に手渡す。
こうなると見越して、すでに用意していたのね。
きっと、状況に合わせたいくつものプランを懐に忍ばせてあったに違いないわ。
「ああ、これでいい。マリアは疲れは平気かい?」
「ええ、平気よ。せっかくマリーが造ってくれた本番の船なんだもの。是非、見に行かなくてはね」
微笑んでくれるお母様に、私も抑えきれず笑みが零れる。
しばらくゆっくり休んで欲しい気持ちもあるけど、一日でも早く、是非一緒に見に行きたいから。
「では、このように各地に通達してくれ」
「畏まりました」
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