303 復旧作業を劇的に進める画期的な道具と魔道具 2
「魔道具については分かりました。それでお嬢様、復旧作業を支援して効率化を図る道具と言うのは?」
「現状考えているのは五点。まず作業を行う道具として、シャベル、スコップ、猫車です」
「シャベル? スコップ? 猫車?」
シャベルとスコップ。
その形状やサイズは、前世において、地域や業界、人によってまちまちだった。
私も周りも、その辺り、結構適当でみんな違っていたしね。
なので、ここでは私基準で名称を採用させて貰おう。
先端が尖った三角形か平らで四角形かは問わず、大きくて両手で使う奴をシャベル。
先端が尖った三角形か平らで四角形かは問わず、小さくて片手で使う奴をスコップ。
こう名付けようと思う。
「エマ、アラベルお願い」
「「はい、お嬢様」」
エマとアラベルに、ホワイトボード代わりのコルクボードに、形状や用途を図解した紙を貼り付けて貰う。
「それで、小さい方は片手でこう使うとして。大きい方は、こう構えたり、この出っ張りに足をかけてこう――」
それから、貴族のお嬢様としては、はしたないと思うけど、シャベルとスコップの使い方を実演してみせた。
「いけませんお嬢様!」
「そうです、そういうことは事前に説明して下さればわたしがやります!」
案の定、はしたないってエマとアラベルに途中で止められてしまった。
でも、意図と用途は伝わったみたい。
「なるほど。それで削岩機で砕いた岩を運びやすく、また、鍬とは別に土を掘り返しやすくするわけですか」
「その通りです。そしてそれらを、猫車を使って運びます」
猫車は、これも工事現場でよく見る、所謂一輪車ね。
取っ手を持って持ち上げて、足場が悪くても細い板の上でも、すいすい運んでいける奴。
「猫車があれば、籠やザルに載せて抱えて運ばなくても、多少の足場の悪さなどものともせず、素早く大量に、かつ、少ない労力で運べるようになります」
「労力を軽減することが目的なら、強度と軽量化が問題じゃな」
「そうなんです。出来れば信頼出来て口が堅い鍛冶屋を巻き込んで、量産体制を整えるところまでこぎ着けたいです」
「確かに、これはどれも売れるじゃろうな」
「工事現場の作業が一変しそうだ」
「でも、すぐに真似されてしまいそうですね」
「だから、新特許法が施行されるまで内密にしてくれる鍛冶屋が望ましいです。新特許法施行後は、それらでどんどん商売して貰って構わないので」
「なるほど、それなら快く引き受けてくれる工房は見つかりそうだ」
急いで数を揃えたいから、依頼する工房はシャベル、スコップ、猫車と、それぞれ別にした方がいいかも知れないわね。
それに、大型船の建造でマストや肋材など頼んでいる鍛冶屋はそっちの作業で手一杯だし、ベルトラン工房の取引先で懐中時計のバネなどの部品を作っている鍛冶屋もそっちに注力して欲しいから、出来ればそことは別の工房で。
「お嬢様よろしいでしょうか」
「ええ、なあにアラベル?」
「僭越ながら、そのシャベル、スコップ、猫車は、騎士団にも欲しいです」
「ああ、どれも野営や野戦での陣地構築に大活躍しそうね」
「さすがお嬢様、その通りです」
「分かったわ。新特許法施行後、軍部にプレゼンして導入を検討してみましょう」
「ありがとうございます、我が侭を言って申し訳ありません」
「いいのよ、このくらい。いつもお世話になっている騎士団のためだもの。有用な道具の導入も、領主の仕事よ」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げて、アラベルは本当に生真面目ね。
そこがアラベルのいいところだけど。
「話がまとまったところで、残り二つの道具についてじゃが」
「はい、残りの二つは身を守るための道具として、ゴーグルとマスクです」
「ゴーグルとマスク? なぜそんな物が必要なんじゃ?」
「火山灰や削岩機で削って舞う粉で、健康被害が出る恐れがあるからです」
吸い込めば呼吸器の疾患を招く恐れがあるし、目に入れば眼球を傷つけて失明するかも知れない。
なぜなら火山灰は、草木が燃えた灰や長い年月をかけて削れて丸みを帯びた砂や埃とは違い、溶岩が急速に冷えて固まった鉱物で、鋭利に尖っているのよ。
それこそ、掃き掃除をしただけでフローリングの床が、ワイパーを動かしただけで車のフロントガラスが、傷だらけになってしまうくらいに。
「ゴーグルの前面はガラス製にして、周囲はすっぽり目の周りを覆い隠すように、出来るだけ顔にフィットさせたいです」
お父様に頼んでガラス工房を探して貰っていたことが、まさかこんな形で役に立つなんてね。
「マスクは出来るだけ目が詰まった布を使って、こちらも立体的に縫製して口元を覆うようフィットさせたいです」
防護マスクやガスマスクなんてないから、ただの布のマスクだけど、ないよりマシと思いたいわ。
ついでに言えば、作業は手袋を付けて、長袖長ズボンで。
火山灰が皮膚に付くと、炎症を起こすことがあるらしいから。
「ただ付けられさえすればいい、と言うわけではないのですね」
「はい。要求仕様は高いですが、分業して急いでなんとか仕上げて下さい。私も可能な限りアイデアを出します。それでは開発と手配をよろしくお願いします」
「「「「「はい!」」」」」
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