302 復旧作業を劇的に進める画期的な道具と魔道具 1
専門部署との会議は、迅速かつ滞りなく終わった。
訓練船団が支援物資と使節団を乗せて出発した時点で、新たに支援すべき人達と接触するだろう可能性が、すでにもう彼らの念頭にはあったみたい。
様々な事態を想定した対策プランがすでに幾つも立てられていて、すぐに調達に動けるよう準備が整っていたのには驚いたわ。
それは、派遣する兵達についても同じ。
まさに『こんなこともあろうかと』とばかりに、信頼出来る人材をリストアップして、部隊編成案が完成していたのよ。
さすがにそこはお父様の決裁がないと動かせないから、編成案のみだったけど。
だけど、すでにお父様は確認済みで、万が一の時は、私の決裁で即日辞令が出されて兵達が集められ、部隊運用の訓練に入ってくれることになっていたの。
本音では、お父様も専門部署の人達も、私に兵を動かす決裁をさせたくなかったみたいだけど。
でも、武力衝突はまだ起きない。
自分達が暮らす拠点開発と抑止力、災害復興のための派遣だもの。
まだ躊躇い悩む段階じゃないわ。
おかげで、状況に即した修正を加えるだけで、すぐに物資と人材の手配に動けたのは大助かりよ。
さすが、お父様が選抜したエリート達だけあるわ。
ただ、畑と森の復旧作業についてはさすがに彼らも想定外で、有効な対策を準備出来ていなかったのは仕方ないところだけど。
だって、島全体を覆い尽くす程の規模で畑や森が火山灰に埋もれるなんて状況、まずお目にかからないから、対策マニュアルも知識の蓄積もほとんどないでしょうからね。
しかも、人力でどうにかしないといけないわけだし。
だから、私の考えた道具と魔道具での対策には大いに驚かれてしまったわ。
ともあれ、すんなり方針が固まってくれたおかげで、私達はすぐ次の行動に移れた。
会議が終わったその足で、エマとアラベル、フルールには話せる範囲で軽く説明して、準備を整え、離れのお屋敷へ。
いつもの会議室に開発チームとアドバイザーのオーバン先生を含めた十人全員に集まって貰った。
もちろん、エマとアラベルも一緒にね。
「急な招集に応じてくれてありがとうございます。では、早速ですが会議を始めます」
前置きはなしで、仮称アゾレク諸島へ向かった訓練船団が急遽予定を変更して戻って来たこと、そして届けられた報告書の内容について一通り説明をする。
緊急の会議だったから、みんな何か問題が起きたとは思ってくれていたみたい。
途中驚きの声が上がりこそすれ、質問などは控えて最後まで集中して聞いてくれた。
「つまりマリエットローズ君は、その事態を魔道具でどうにかしようと言うわけじゃな」
「さすがオーバン先生、話が早いです」
開発チームのみんなも予想していたようだけど、さすがにどよめく。
「お嬢様、島を覆い尽くような火山灰の岩をどうにか出来る魔道具ですか?」
「何をどうすればいいのか、さっぱり見当も付かないんですが……」
「しかも、畑の作物の育ちをよく出来る魔道具なんてあったら、歴史に残る大発明ですよ?」
「え? もしかしてお嬢様……」
驚きと共に、やけに真剣で期待した眼差しが集まってくるけど。
「いえ、さすがに私も、直接作物の育ちをよくする魔道具なんて無理――」
――あれ?
コスト面の問題で企業の撤退が相次いだけど、水耕栽培プラントを作って、それぞれの作物に適した紫外線を照射する工場を作れば、病気や虫の被害に悩まされることなく、農薬も必要なく、安全でよく育った作物を栽培出来るんじゃ……。
そんな番組を、テレビで見た気がする。
「マリエットローズ君……まさか!?」
「お嬢様、本当ですか!?」
オーバン先生とクロードさんの驚愕の声に、はっと飛んでいた思考から戻る。
「――いえいえ、まさか。投資と施設の規模が大きすぎる上に、栽培に適した作物の選定や栽培環境の研究などが、恐らく何十年単位で必要で、さらにコスト面に問題を抱えているので、今回の問題解決には間に合わない上、さすがにちょっと現実的じゃないです」
それ専門の研究開発チームを発足して、最先端の知識を持っているスタッフを多数集めないと、さすがに、ね。
だから慌てて笑って誤魔化しつつ、無理だって説明をする。
「「「「「……」」」」」
なのにみんな、唖然、呆然。
「アイデアの取っ掛かりがあるだけでも、とんでもない話じゃぞ?」
「ああ、まったくだ。うちのお嬢様の頭の中は一体どうなっているのやら……」
オーバン先生とクロードさんが心の声を代弁してくれたとばかりに、みんながうんうんと頷く。
「いえ、だから……」
「さすがお嬢様です。今は無理でも、将来的には可能性がある話なんですよね?」
「投資と施設の規模も、ゼンボルグ公爵家の財力があれば可能なのでは?」
エマとアラベルまで、そんなに目を輝かせて私を見ないで!
さすがに今のはちょっと口が滑っちゃっただけだから!
しかも、前世の現代日本でも一般流通するところまで実現していない上、一般人だった私にそっちの専門知識はないから!
「コホン! 今は即効性も確実性もない魔道具の話は脇に置いておいて、現実的な対処の話をしましょう」
「そうじゃな。その話はいずれ、落ち着いた時に改めて聞かせて貰うとするかのう」
「そうだな。何しろ、飢饉など食料問題を解決するかも知れない大発明だ。お嬢様、その時は詳しくお願いします」
うぅ……みんなして頷いて、この話、忘れてくれそうにないわね……。
と、ともかく、今は気を取り直して。
「今回私が考えた魔道具は一つです。ただ、材質、強度、安全性の確保など、研究と製作に時間が掛かると思います」
「一つに絞って、そこに注力するわけじゃな」
「はい。そして、その魔道具で、畑や草原、森を覆った火山灰の岩を取り除く作業を効率的に行えるようにします。同時に、その作業を支援して効率化を図る道具も何点か一緒に作ります」
「では、作物の育ちの悪さは?」
「作物の育成状況の改善は、それに適したとっておきの作業と、土壌改良の堆肥で対応します」
「「「「「おお……!」」」」」
今度は淀みなく、自信たっぷりに答えたからか、みんなの目の輝きが益々すごいことに……。
本当に、先達の知恵と工夫には頭が下がるわ。
「それでお嬢様、その魔道具とは?」
「はい、その魔道具は『削岩機』です」
工事現場で使われている、杭が高速で回転しながら前後にピストン運動をして、岩やブロック塀などに穴を空けて、割ったり砕いたりする、あの機械ね。
もちろん、先端から水を出して、削れた粉が舞い散らないようにする機能付きで。
「エマ、お願い」
「はい、お嬢様」
エマに頼んで、用意していた資料をみんなに配る。
「なるほど、魔道具で杭を打ち込み、ツルハシを振るう労力を軽減するんじゃな」
「これが複数あれば、広大な草原や森の復旧作業も現実味を帯びるはずです」
みんな頷くと、すぐに検討に入ってくれる。
「杭の強度と速度がかなり必要そうだな」
「その衝撃に耐えられる構造に加え、杭も本体も鉄製じゃないと駄目だろうが……」
「そうなると、かなりの重量になるだろう」
「手に持って使うのなら、落としたり手足にぶつけたりして怪我をしないよう、取り回しのしやすさも重要だ」
「材質、強度、安全性の確保……お嬢様が言った通り、これはかなりの試行錯誤が必要そうだな」
さすがね。
あっという間に問題点や懸念点に気付いてくれて、説明が省けて助かるわ。
「そのようなわけで、廉価版の魔道具の量産を頼んでいましたが、出来た分だけ送ることにして、一旦そちらは休止しようと思います。急ぎこちらに取り掛かって欲しいです」
「人命が掛かっている以上、優先度はこちらが高いですからね。分かりました」
クロードさんを始め、開発チームのみんなが快く頷いてくれる。
「原理はシンプルじゃが、なかなか難儀そうな魔道具じゃな。儂も久々に腕が鳴る」
「オーバンの魔道具兵器で蓄えた知識、当てにしているぞ」
「うむ、任せておけ」
魔道具兵器と言えば、大砲や拳銃ね。
衝撃に強い材質や構造に詳しそう。
さすがオーバン先生、頼りになるわ。
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