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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第三部 切り開くはアグリカ大陸への直通航路

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287 拠点開発の資材と支援物資の準備 2

「確かに。計画も第二段階に入ったからね。それで、この件で、他に考えていることや懸念点はあるかな?」

「拠点開発を隠す目眩ましではありますが、やるからには本腰を入れて港を拡充して欲しいです。まだ数が少ない大型船ばかりに注目が集まるのは危険だと思うので」

「各地で経済力の底上げをすることで、他領、他国の目を就航した大型船以外にも向けさせ、調査、工作などの人員と労力を分散させて、その対応を遅らせるわけだね?」


 さすがお父様。

 警戒していないわけがないわよね。


「はい。ゆくゆくは、造船技術がある他の港町でも大型船を建造させたいですから」


 仮に四十メートルや八十メートルの大型船が無理でも、従来の帆船にも組み込める技術はある。

 例えば、木鉄交造船にするとか、蝶番で船体の中央に舵を付けるとか、船首や船体そのものをスリムにするとか、船底を銅製被覆(ひふく)するとか、横帆と縦帆を合わせて使うとか。

 なんなら、小型のウォータージェット推進器の導入も検討していい。

 それだけでも、かなり違ってくるはずよ。


 現状、計画は順調に推移しているけど、まだまだ予断は許さない。

 もし大型船を奪われたり壊されたりして失ったら、一時的とはいえ計画がストップしてしまう。

 そうなった場合、新たな大型船を建造して就航させるまでに、さらにどれほどの邪魔が入ることか。


 でも、大型船を建造出来る大型ドックが分散して多数あれば、そのリスクを大きく減らせる。

 各地の港の拡充は、そのための備えね。


「ただし、根本的なところで大型船の建造そのものを潰されてしまったら、詰みです」


 それは、下手なちょっかいより、よっぽど深刻で厄介だ。


「非常に愚かな真似ですけど、王国議会や国際会議において、四十メートル以上の大型船の建造を軍備増強と結びつけて禁止する法案や条約を通されたら、完全に計画は終了してしまいます」

「そうだね。しかもそれを無視したら、ゼンボルグ公爵領への武力行使の口実に使われてしまう」


 そう、戦争の大義名分を与えてしまうのよ。

 まさに最悪の事態だわ。


 お父様の口ぶりからも、そこを一番警戒していたことが分かる。


「だから、交易で確実に成果を上げるまでは、そんな愚行に走らないよう裏で働きかけをしながら、他領、他国の目を分散させ、攻撃の的を絞らせないようにして、時間を稼ぎたいんです」


 大型船による直通航路での交易は、莫大な利益を上げられる。

 それが分かれば、他領、他国は大型船の建造を禁止するより、自分達も建造して、他より儲けようとするはずよ。


 特に、オルレアーナ王国の東の交易の玄関口で造船技術に自信を持つプロヴェース公爵や、何かと私達を目の敵にしてくる賢雅会のエセールーズ侯爵、同じく南部沿岸に領地を持つマルゼー侯爵なんかは、真っ先に大型船の建造を始めるんじゃないかしら。

 ヴァンブルグ帝国だって、軍事面も込みで、絶対に大型船の建造に動くわ。


 それが出来ない国や貴族は、なおさら禁止しようと躍起になるかも知れないけど。

 多少なりと利益を出せた貴族や国は、もはやそれに賛成することはないでしょうね。


 船の性能差を考えれば追随を許さないんだから、むしろ多少利益を出してくれた方が好都合だわ。

 だから、そのための時間稼ぎの策が必要なの。


「加えて港拡充の動きは、内陸の領地にも波及させたいです。いずれ領内全体で内陸水運の整備をするために」

「そうだね、いずれ必要だ。しかし残念ながら、今はまだ新しい流通網も広げている最中で、その効果はようやく出始めたばかりだ。そもそも、荷馬車用の冷蔵庫、冷凍庫が十分な数、商人達に行き渡っていない。だから、どの領地も河川や河港の整備はほぼ手つかずで、その計画すら立てていないだろう」


 河川は複数の領地を跨ぐから、どうしても水利権が発生する。

 おかげで、一貴族家だけでそうそう気軽に手を付けられないのよね。

 いくら経済が上向きになっていると言っても、まだ水利権の調整と言う面倒に着手したいと思うほどじゃないはずだもの。


 でも。


「むしろ好都合です」


 そう、だからこそ、今すぐ動く意味がある。


「河川の浚渫(しゅんせつ)や運河の開通なども視野に入れて、事前に準備を済ませておきましょう。いざ各貴族家の協力を取り付ける時に、ゼンボルグ公爵家(私達)が本気であることを示せます」

「いずれ、海沿いの領地ばかりと不満も出てくるだろう。だから、今から内陸でも河川や河港の整備を意識させておいて、いざその時が来たら、すぐに計画を示して動かすわけだね?」

「はい」


「しかも、下手な計画を立てられて、各地を繋ぐ利便性に欠け、さらに利権で揉められるより、こちらで事前に準備した計画に沿って整備をして貰う方がよほどいい。さらに言えば、運河を作るなら、それこそ各地の測量は必須だ。そこでマリーが考案した新しい測量技術が生きてくるわけだね」

「その通りです」


 さすがお父様、私が考えることなんて、どれもこれもとっくに考慮済みね。

 それに気付けるかどうか。

 すごく試されて、育てられている気がするわ。


 各地の測量は、最新の測量技術を持つゼンボルグ公爵家(うち)が主導で行う必要がある。

 そこで下手に口出しされるのを避けるためにも、全ては一つの大きな計画なのだと、理解して貰った方がいい。


「だから、まず海沿いの領地からです」


 本当なら、全てを一気に進めたいところだけど。

 現状、どうしても段階を踏まないといけないから。


「マリーの意図はよく分かった。視野を広く持って、他領、他国の動き、特に法的根拠を作っての妨害の可能性にまでちゃんと気付けていたのは良かった。領内の内陸の貴族の動きにも目を配り、将来のことも十分に考えられている。後ほど改めて時間を取って、詳細を検討してみよう」

「はい、ありがとうございますお父様」

「ただ、拠点開発の資材の確保は最優先だ。これは先に動かしておこう。その事業計画が開始されるまで待つわけにはいかないからね」


 よく出来ました。

 そう褒めるように、優しく頭を撫でてくれる。


 照れる。

 でも嬉しい。


 拠点開発の資材確保とお父様からの宿題については、これでよしね。


「では次に支援物資についてだが、大麦、小麦などの穀物をメインに、日持ちのする野菜や果物など、しばらくはかなりの量が必要になるだろう」

「特産品として増産して貰っていて良かったですね。こういう事態に使うことを想定してのものではなかったですけど」


 本当なら、経済を活性化させ、食料の値を下げ、領内の人口増加に繋がってくれればと思っていたのよ。

 だから、もし仮称アゾレク諸島の人達がゼンボルグ公爵領に属してくれれば、その甲斐があったと言えるわ。

 でも、さすがにそれは望みすぎよね。


「報告書と指示書のやり取りもそうだが、いずれ人員と資材の追加や入れ替えもある。訓練船団には何度も往復して貰うことになるだろう。ただ、日持ちしない葉野菜や肉類など、行きは冷蔵、冷凍して運んでも、現地で長期保存は難しそうだが」

「それなら、個人用や業務用ではなく、荷馬車用の冷蔵庫と冷凍庫を現地へ運び込んではどうですか? 当面はそれで対処して、いずれ専用の倉庫を建てると言うことで」

「なるほど、それらの強みを生かしたいいアイデアだ。魔石確保の布石にもなる」


 魔石の利便性と、問題なく使用している実例を示して、仮称アゾレク諸島で産出する火属性の魔石の採掘における宗教的なハードルを下げる。

 お父様のアイデアに沿う、一石二鳥の策よね。


 生活に密着した廉価版の魔道具も当然だけど、こういうもっと大きな視点で使っているところを見せるのも効果的だと思うわ。


「では、当面はそれで対応しよう。では次に――」


 その後も、次々と案件を処理していく。

 そうして、各地へ伝令を走らせ、人を移動させ、物資を集め、輸送してと、担当者達に最優先で対処して貰っていった。


 これらは、本来なら何カ月も掛かってしまうもの。

 それを、たった二カ月足らずで準備を整えてしまったのだから、本当に選抜された担当者達は優秀だったわ。


 そうして、秋も終わり、そろそろ冬を迎える頃。

 拠点開発の物資と人材、フェノキア人のための食料などの支援物資、そして使節団を乗せて、遂に訓練船団が仮称アゾレク諸島へ向けて出港した。



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― 新着の感想 ―
疑問ですが、大型船の建造どころか保有できる船の質量(隻数や総重量数)に制限かけられたら不味いはずでは?軍拡が絡むなら尚の事ここは突かれてくると思えるのですが、その対策はどうするつもりなんでしょ。という…
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