286 拠点開発の資材と支援物資の準備 1
大変長らくお待たせしました、更新再開します。
286話から始まる四十話程度を、毎日投稿する予定です。
2025/04/04に書籍版第二巻発売です。
是非、よろしくお願いいたします。
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廉価版の魔道具開発は当面、開発チームにお任せして。
私は、私とお父様にしか出来ない仕事を最優先で進めていく。
「人事異動の書類はこれで全部ですか?」
「ああ。異動した者達の穴埋めの人員の手配も、その書類で全てだ」
目を通し終わった書類の束を、お父様に戻す。
仮称アゾレク諸島のフェノキア人と交渉して政治的判断を下せるレベルの教養と権限を持つ文官と通訳、拠点開発のための人員、その彼らの護衛、様々な部署でそれをサポートしてくれる担当者。
それら信頼出来る人達を選抜し、計画と事情をお父様が説明した後。
各部署に留まるサポート担当以外の全員に、人事異動の辞令が出されたの。
異動先は、なんとそれら関係者全員を集めた、新設された専門の部署。
もちろん、その部署の名称も表向きの仕事も、『アグリカ大陸への直通航路開拓計画』とは無関係、と言う体裁でね。
それら選抜から設立、人事異動まで、人事部のサポート担当を補佐に付けた上で全部お父様が進めたから、実は私はノータッチ。
だって、さすがにまだ八歳の私に人事権はないから。
それに、私の立場上、表立ってあちこち顔を出せないせいで、どの部署にどんな人材がいるのか全然知らないから選びようがないもの。
だから、どんな人達が集められたのか、今こうして書類で確認させて貰っていたと言うわけ。
でも、さすがはお父様。
選ばれていたのは、経歴、人物評、仕事の評価、そのどれもが高い人達ばかりだったわ。
「これで問題なく彼らを派遣できるようになりましたね」
「ああ。同時に、計画に関係する案件を各部署の担当者に集約、かつ短期間で効率的に進められるようになったから、非常に助かるよ」
「業務、大幅に増えちゃいましたからね」
お父様と二人して、溜息交じりに苦笑を漏らす。
有人島を発見したら交易を。
無人島を発見したら領有を。
それに必要な人材の派遣と資材を投入することは、最初から決まっていたことなんだけど……。
いざその事態になったら、やらなくてはいけないこと、決めなくてはいけないことが予想より遥かに多くて、負担が激増してしまったのよ。
これまでも、ただでさえ計画が漏れないようにと意図を隠して、別の名目で書類を作成したり人や物の手配をしたり、とにかく何から何まで時間と労力がすごく掛かっていたのに。
そこに加えてだから、なおさらね。
そこで、これを機に組織図を見直そうって、体制変更に踏み切ることにしたの。
おかげで、ここからはスピーディーに計画を進めていけるわ。
「では、新体制になったところで、拠点開発の資材確保についてだが」
「はい。木材は、貧民街の再開発で今後もかなりの数が必要です。なので、同時に拠点を作る分まで確保するのはかなり大変そうです」
でも優先度は、仮称アゾレク諸島に拠点を作る方が遥かに高い。
貧民街の再開発を多少遅らせてでも、早急に拠点を作る方が将来的に重要だ。
「結果、また少し、木材の価格が上がってしまうかも知れません」
「それは仕方がないだろう。テラセーラ島にも森があるとの話だが、現地へ行ってから調達では間に合わない」
「そうですね。もうじき冬になることですし」
伐採した木が乾燥して使えるようになるまで、半年から一年は掛かるから。
いずれそうするとしても、それまで拠点で野宿させるわけにはいかないわ。
「かといって、レンガや石材の輸送も、積載量の関係から現実的とは言えないですからね」
拠点の稼働が数年後を見据えてのものならまだしも、今すぐ必要だから、悠長に何十往復もしていられない。
ましてや、大事な訓練船団をそれに掛かりきりにさせるわけにはいかないわ。
「そうだな。レンガや石材は、拠点開発が一段落付いて、改築や拡張の必要性が出てからでいいだろう。それまでに、現地に建材に適した粘土や石材があるか、調査しておけばいい」
現地の火山灰を使ってローマンコンクリートを、そう考えもしたけど……。
詳細な製法が分からないのよね。
そもそも、火山灰の成分がローマンコンクリートに適しているかも不明だし、建材としての強度の確保や形成技術、風化による耐用年数などの研究が必要で、これも今すぐにとはいかない。
となると、やはり木材一択になる。
「木材は、需要が増え、各地で林業が盛んになっている今、大量に確保しやすいのが強みだ。多少なら、貧民街の再開発に紛れ込ませて誤魔化せもする。ただ、さすがに全ては無理だが」
そうね、買い付けた木材の輸送先が領都ではなく港町になるから、さすがに全ては誤魔化せない。
「それで、宿題にしていた、それら資材の動きを隠す方法は何か考えたかな?」
「はい。それを隠す事業として、やはり海沿いの領地に、海底の地形調査の指示を出したいです」
「マリーが進めたがっていた調査だね」
「はい。それに関連させて、フィゲーラ侯爵領、シャット伯爵領、ビルバー子爵領以外の港町でも、桟橋や倉庫、事務棟などの港湾施設を拡充させるんです」
桟橋が立派になったり数が増えたりすれば、小型船の停泊出来る数が増える。
加えて、交易品を管理出来る倉庫と事務棟が増えれば、交易が盛んになって賑わうのは確実よ。
もちろん、小さな漁村にそんな負担はかけられないから、ある程度の規模の港町が対象ね。
「ふむ。それら三つの領地で大規模な港の拡充をさせている話は知れ渡っているし、大型船の建造を誤魔化すために従来型の帆船も増産している。特産品の増産と新しい流通網のおかげで各地の経済が上向きになり、市場の期待も高まる中、領地を挙げて海運と交易に力を入れていくと、内々に、かつ正式に通達を出すわけか」
「はい。そこで諸島のフェノキア人、そしてアグリカ大陸との交易が始まれば、さらに有用になるのは間違いないですから、さらなる経済政策として推進しやすいです」
サンテール商会長やエドモンさん達によると、他にも、貧民街の再開発に使われる資材の特需による各地の経済効果の波及、加えて職業訓練学校開校後にやってくるだろう将来的な経済の活性化、それらに対する期待も高まっているそうよ。
アラベルも、各貴族家から調査に人が派遣されてきているって言っていたしね。
さらに、ブルーローズ商会の魔道具産業と、ジエンド商会のレストランなどの外食産業も、領内のみならず王都でも順調に成果を上げている。
つまり、現状、ゼンボルグ公爵家が行っている事業と、ゼンボルグ公爵家からの通達で行った事業は連動していて外れはない、そう思われているんだって。
「ここまで特産品の増産や街道整備の指示を出している上でのさらなる指示である以上、多少の反発もあるかも知れないが……領主に限らず、利に聡い商人達などはむしろ率先して動きそうだな」
そうなってくれると、とてもありがたいわ。
「それに、時期的にそろそろ大きく動いても大丈夫かと思ったので」
ここまでくれば、他領、他国が邪魔してきても、そう簡単には潰されないはず。
それをしようと思ったら、時間を掛けての十分な準備と根回しが必要よ。
その間に計画はさらに進んで、もっと潰しにくくなっているはずだわ。
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