282 交易品候補の確認 3 魔石と宝石
「では、いよいよ最後、本命の品だ」
魔道具に嵌め込むには小さすぎる、小粒の宝石のような火属性の魔石。
お父様はそれをつまみ上げると、ためつすがめつ検める。
「カットの仕方を見るに、やはり宝石同様の扱いのようだね」
「魔石が魔道具に使われるようになってからまだ数百年ですからね。それを知らない彼らが宝石と混同しても仕方ないかと」
宝石と合わせて興味津々だけど骨には近づきたくないお母様、フルール、エマには、セバスチャンが幾つか選んで運び、見せてあげる。
「デザインは少し野暮ったいですね。これをそのまま身に着けるのは、いかがなものかと」
「そうね。でも、こちらの物とは違うコンセプトが垣間見えるわ。もう少し洗練させれば、これはこれでありじゃないかしら?」
フルールとお母様の品評に、エマもコクコクと頷いた。
そんな三人に、お父様が苦笑する。
「宝石はそれでいいが、魔石にそれは重要ではないけどね」
魔石は、どれだけ外観が宝石のように綺麗であっても宝石じゃない。
宝石の場合、その価値は、大きさ、カットの美しさ、色、インクルージョン、内部のヒビなど、見た目が全てだ。
それも、場所や時代、時の権力者が何を好んだかなどで流行が変わって、価値も変化する。
魔石の場合、その価値は、大きさ、そして内包するエネルギーの量が全てだ。
家電扱いの魔道具か、使用者を限定する魔道具か、魔道具兵器か、その使用目的や製品によってカットを変えるから、その価値や重要性が変わってくるものの、本質的な価値に変わりはない。
内包するエネルギーの量の多寡が重要で、高品質と低品質の違いが出てくるだけだ。
一応、エネルギーの量が多い高品質の魔石は内部の輝きが美しく、エネルギーの量が少ない低品質の魔石は内部が若干曇って輝きが鈍い、と言う違いはあるけどね。
そしてこの、仮称アゾレク諸島から持ち帰った魔石の品質だけど……。
「曇りもなく、輝きが綺麗ですね。十分に高品質だと思います」
それに、宝石代わりの小粒ばかりじゃなく、小型の魔石として使えるサイズの物もあるから、交易品としてかなり期待出来る。
問題は、埋蔵量と、何より採掘出来るかどうか、ね。
「入手先は絶対に増やしたいですから、是非とも交易を成功させましょう」
「もちろんだ」
決意を新たに、お父様と頷き合う。
それからお父様は、宝石の方を手にした。
赤と緑、どちらも色が薄く、赤い方はオレンジがかった物も多くあり、緑の方はどれも黄緑色だ。
「それで宝石の方だが、これはどう見てもルビーとエメラルドではないな」
「恐らくガーネットとペリドットね。品質としてはなかなか良さそうだわ。ただ、高品質と呼ぶには、少し足りない感じだけど」
お母様とフルール、エマの見立てではそうみたい。
ちなみに、私とお父様も同意見。
前世のハワイが同じく火山島で、ペリドットを産出するのは有名だ。
何しろハワイは、周囲より温度が高いマントルが上昇してきて地上に溶岩を溢れさせている、ホットスポットと呼ばれる場所だから。
ペリドットは橄欖石に含まれる鉱物の成分が結晶化した物で、橄欖石はマントルの大部分を占めるから、溶岩と一緒に地上に出てきているんでしょうね。
火山岩と一緒にペリドットの原石が降ってくる、なんて話もあるらしいし。
そして、大西洋中央海嶺にあるアゾレス諸島も同様にホットスポット上にある。
アゾレス諸島がペリドットやガーネットを産出すると言う話は知らないけど、少なくとも今世の仮称アゾレク諸島はそれらを産出するみたい。
残念ながら、魔石同様に高品質とはいかなかったけど。
さすがに、そこまで美味い話はそうそうない、と言うことね。
ちなみに、ルビーやサファイアなどのコランダムは、アフリカ造山運動とか、ヒマラヤ造山運動とか、そういう事が起きた場所で採掘されるらしいわ。
ソースは、地学部の女子高生達が主人公の四コマ漫画を切っ掛けに地学と宝石にハマった、前世の大学時代の友人ね。
「詳しくは宝石商に鑑定させてからだな」
「あなた、当然、出所は伏せてね?」
「もちろんだ」
当然よね。
魔石と宝石が産出される島が見つかったなんて広まったら、絶対に横槍が入るわ。
それも、奪い取るためなら戦争も辞さないような人達からのね。
その辺り、さすがお母様は冷静だ。
元々、お母様は宝石や宝飾品を買い漁ってまで着飾りたいタイプじゃない。
でも、ゼンボルグ公爵夫人として、貧乏だ田舎者だと言われないよう、立場に相応しい装いをしなくてはならないのよ。
それはもう、古参の貴族のご夫人達との、負けられない女の戦いレベルで。
おかげで、お母様の本物を見極める鑑定眼はかなりのもの。
だから私も、お母様から学ばせて貰っているわ。
「奥様、輸入が決まったら、派閥のご夫人やご令嬢に贈って協力して貰いましょう」
「ええ。わたしが身に着けるには少々物足りないものね」
お茶会や夜会で身に着けて、ゼンボルグ公爵領が輸入している宝石として宣伝し売り込むのが、お母様の公爵夫人としてのお仕事の一つ。
だけど、品質が低ければ逆に嘲りの対象になってしまうから、品質が高かった場合に限る。
だから今回の場合、派閥のご夫人とご令嬢にその役を任せる、と言うことね。
それでも十分に話題になって利益を上げられる、いい商材だ。
私も……いずれその手のお仕事もしないといけないのよね。
着飾るのは得意ではないから、ちょっと気が重いけど……お母様にお願いして、今からさり気ない見せ方やセールストークを練習しておいた方がいいかしら。
「確認はこれで十分だろう。後は、商人達に見せて、どこまで価値を見出せるかだ」
後は本職にお任せね。
ちなみに、小麦はパンに、大麦はビールに向いた品種で、品質はまあまあ。
野菜は品によって美味しかったり、いまいちだったりしたけど、豆と干物と果物はなかなか美味しかったから、豆と干物と果物の輸入はありだと思うわ。
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