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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第三部 切り開くはアグリカ大陸への直通航路

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278 交渉の方法

 だけど、本人が戻って来ていない以上、話を聞くことは出来ない。

 ネットやスマホがあれば、一瞬なのにね。


 迎えの船を出して戻って来て貰うにしても、往復およそ三週間。

 フィゲーラ侯爵領のセプ島までの伝令と、こちらに来て貰う旅程を考えれば、どんなに早くても一カ月以上先の話になってしまう。


 こうなると、本気で通信機が欲しくなるわ。

 だけど……どうやって電波を作って、飛ばして、受信して、それを音声に変換すればいいのか、さっぱり分からない。

 そもそも、千キロ以上も離れた水平線の彼方に電波を届けるなんて、通信衛星でも打ち上げないと無理なのでは?


 ともあれ、取っ掛かりすら掴めていない通信機については、一旦脇に置いておくとして。

 今は、彼らフェノキア人との交易をどうするか、ね。


 前世のアゾレス諸島に相当する諸島……名前がないと不便ね。

 前世と今世の世界の名詞の違いを考えると、仮にアゾレク諸島とでも呼べばいいかしら?


 その仮称アゾレク諸島が生まれた過程を考察するなら、プレートが東西に分かれた結果、海底火山が噴火して出来ただけで、神様がどうこうと言う話にはならない。

 でも、そんな地球科学(地学)の学説を、この世界ではまだ研究されていないのよね……。


 だって、観測機器なんてないんだもの。

 地層の年代測定なんて無理な話だし。


 だから、全ては神様のご意思。

 彼らを説得するには、彼らが納得する理由が必要になる。

 それも宗教的に納得出来る何かが。


「お父様……一体どうすれば?」

「難しい問題だね。第一、情報が足りなすぎる」


 確かに、この報告書だけでは、彼らの宗教観は不明だわ。

 文面に記されているのは単に、島の火山を『神の住まう山』と呼び、信仰対象にしている、赤い宝石と火属性の魔石を神様の加護が得られるお守りにしている、と言うことだけ。


「彼らフェノキア人を納得させる理屈を考えるとすれば……例えば、私達が信奉する神の位階が上で、彼らが信奉する神は位階が下か、従属神であると位置づけ納得させる。その上で、上位神が信奉される私達の領地へ、供物として差し出させる、と言うものが考えられるね」

「それは……彼らが納得するでしょうか?」

「上手く話を持って行かないと、反発を招いて宗教戦争になる可能性が高いだろうね」

「ですよね……」


 かなり危うい説得方法の気がする。

 もっと平和的な方法はないかしら。


「他には、そうだな……例えば、最初の交易では、彼らに求めるのは毛皮や果物、魚介類などに留めておく。そしてこちらが出すのは、穀物などの食料と、生活に必要な魔道具にする」

「食料は分かりますけど、魔道具をですか?」


 アグリカ大陸の国々との交易では、大きな市場を見込めるし、あちらも王侯貴族が統治しているから、力のある統治者に売り込むのは大きな意味がある。


 対して、仮称アゾレク諸島との交易では、それほど大きな市場は見込めない。

 だって、全体で数万人程度の経済力および市場規模しかないのだから。

 権力者の数だって非常に少ないはず。


 となると、すぐに需要が頭打ちになってしまい、魔道具が交易品として成り立つのは最初だけ。

 それ以前に、かなり高価な品であることを考えると、果たしてどれだけの人が買えることか。


 私達の領地でだって、平民が手を出すには高価過ぎる品なんだし。


「市場規模は、この際考慮しない。魔道具に魔石が使われていること、その魔石が『神の住まう山』の近くの鉱山から産出することを、彼らに理解させることが目的だからね。つまり、魔石と魔道具は、我々人間の生活を便利にするための神からの贈物であり、恩恵であり、積極的に広めるべき物であると納得させればいい」

「えっと……つまり、例えばコンロなど火属性の魔石は彼らの神様からも与えられるし、私達の崇める他の神様からも与えられている、と? それで心理的なハードルを下げるわけですか?」

「その通りだ。さらに、水筒、ランプ、空調機、冷蔵庫、冷凍庫などなど、他の属性も私達の崇める神から与えられた物を持ち込んでいるとすれば、魔石を積極的に活用しても神は怒らないと理解するだろう」


 なるほど……それならかなり心理的なハードルは下がりそう。


「さらに言えば、一度魔道具のある便利な生活を知ってしまえば、彼らはもう元の生活には戻れなくなる。交渉はこちらが圧倒的に優位に立てるだろう」


 さすがお父様。

 為政者の、ちょっと悪い笑顔だわ。


 でも、このくらいの駆け引きが出来ないと、貴族社会では食い物にされてしまうのよね……。

 本当に貴族社会って怖いわ。


「でも、本当に彼らはそれで納得して、魔石を採掘して輸出してくれるでしょうか?」

「彼らが納得するかどうかじゃない。彼らが納得して自発的に動くように話を持って行くんだよ」


 そこは交渉の腕次第、と言うことね。


「ただ、さっきも言った通り、現状ではまだ情報が足りていない。詳細な報告を待つ必要がある」

「そうでしたね。まだファーストコンタクトを済ませたばかりでした」


 魔石が入手先が増えるかもって、ちょっと気が逸ってしまったみたい。

 お互いをよく知るために交流を深めるのは、これからなんだから。



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― 新着の感想 ―
[良い点] もし魔法を使う民族や魔道具を作る民族がフェノキア人と共に渡航していたら、きっと文明も多少は発展していたんでしょうけど、残念なことにそうではなさそう?文明レベルを上げることを始めないといけな…
[一言] 日本でも近年(2000年代以前)までは家庭科は女性、技術は男性って分けて授業していたから、ラジオ作製の授業を受けた女性って少ないのですよね。 工業高校の電子技術科なら発信機の構造も習うけど、…
[一言] GS美神という漫画だと、ある国の人々は電化製品を使っているけどほんとは機械が信仰上ダメなので、世界観的に存在している霊的な力で道具が動いている「ことになっている」(姫君すら信じ切ってる)とい…
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