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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第三部 切り開くはアグリカ大陸への直通航路

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261 訓練船団、外洋航海訓練へ出港

◆◆◆



 練習船三隻で構成される、訓練船団。

 その提督であるバルトロメオ・ガルバンは、領都ゼンバールでの会議の後、船長、副船長達と共にフィゲーラ侯爵領へと移動。

 その足で真っ直ぐ、西の沖合にある無人島のセプ島へと渡っていた。


「初めてこの島へやってきてからまだ一年と経たんと言うのに、意外と、帰ってきたと言う気がするものだな」

「それだけ密度が濃く、充実した日々を過ごしている証左でしょう」

「違いない」


 バルトロメオ達は目を細めて島を眺め、笑いながら港へと上陸する。


 本土沿岸からでは水平線の向こうに隠れて見えず、地元の漁師達も近づくことがないセプ島。

 そこには、その島の名を付けられた真新しい港、セプ港があった。


 しかし、急遽、密かに建設されたセプ港の存在を知る者は少ない。

 なぜなら、現在建造中の大型船が就航してアグリカ大陸との交易が始まるまでの間、練習船の存在を隠し通すことが目的の港だからである。


 なので、練習船が引き渡されて以降、バルトロメオ達を始め船員達は全員、このセプ港を基地として訓練と生活をしていた。


「お帰りなさいませ、提督」

「うむ。留守中、変わりはなかったか?」

「はい。特に問題はありませんでした」

「それは重畳(ちょうじょう)。ついでに必要な物資も運んで来たから、荷揚げをしておいてくれ」

「はっ!」


 出迎えた留守居役に指示を出すと、留守居役は船員達を見繕って、食料その他、物資を振り分け、船から倉庫へと運び込んでいく。


 セプ港は真新しい港ながら、事務棟と倉庫、宿舎、そして大型船三隻分の大きな浮き桟橋以外の設備は、十分に整備されていない。

 それは、大型船が就航してアグリカ大陸との交易が始まれば、練習船も大型船も本土で現在整備中の港に堂々と停泊するようになるからである。


 つまり、セプ港の役目とはそこまで。

 その後は、放棄される予定だ。


 それが自分達と重なるのか、バルトロメオ達は思いの外、セプ港に思い入れを持っていた。


 そんな老骨が哀愁と共に思い入れるような、設備不十分の不便な港での訓練と生活を強いられているのだが、船団の船員達はおろか港を管理する職員達まで、全員不満よりも熱意が高く、キビキビと働いていた。


 それは、前代未聞の大型船に関わり働けること。

 さらに、その働きが将来のゼンボルグ公爵領を大きく発展させるであろうこと。

 それらの理由が非常に大きい。


 同時に、貧民や孤児達にとっては、自身の評価と給金に繋がること。

 何より、同じ境遇の貧民や孤児達が、マリエットローズに掬い上げて貰えるチャンスを与えられること。

 それらが大きなモチベーションとなっていた。


 船員と職員達がそうして懸命に働いている光景に、年甲斐もなく胸を熱くさせながら、バルトロメオ達は停泊している三隻の練習船を眺めた。


 それらは世界で初めて魔道具を推進器として搭載した、ショートクリッパー型魔道帆船だ。

 建造されたのがそれぞれ三つの領地の異なる船大工達の手による物のため、細部で多少の違いはあるが、三隻とも同型船である。


 練習船一番船、未来への架け橋ブリッジ・トゥ・ザ・フューチャー号。


 練習船二番船、英雄達の行進マーチ・オブ・ザ・ヒーローズ号。


 練習船三番船、勝利の栄冠クラウニング・オブ・ビクトリー号。


 これらの船名は、マリエットローズによって名付けられた。


 慣習では、船名は女性の名前や、象徴的な物の名前などを付けられることが多い。

 海軍の船も、女性の名前ばかりが付けられていた。

 なので、このような船名は非常に珍しい。


 しかし、これらの名前からは、マリエットローズが抱くこれらの船と『ゼンボルグ公爵領世界の中心計画』に懸ける情熱、バルトロメオを始めとする船員達の働きと成功への期待、そして関わる者達が皆希望と誇りを持てるように、それらの想いが込められていることが伝わってくるものだった。


 だからこそ、老いてなおバルトロメオ達退役軍人は背筋を伸ばし、今一度誇りを胸に、この大役に臨むことが出来るのである。


 それは当然、貧民や孤児であっても変わらない。

 船員達も港の職員達も、老いも若いも、男も女も、その託された使命を胸に、全員が一丸となって働き、訓練を行っていた。


 それが、バルトロメオ達には眩しかった。


「いかんな。年を取ると感傷的になりやすくなってしまって」

「ははは、それは我らもです」

「実際、彼らはよく働いてくれている」

「この一連の外洋での練習航海が無事成功に終われば、計画の達成に片手が届くのですからな」

「期待もひとしおと言うものでしょう」

「うむ。まさにその通りだ。それでは諸君、私達も急ぎ出港準備を進めよう」

「「「「「「はっ!」」」」」」


 敬礼して散開する船長、副船長達を見送り、バルトロメオもまた、自身がすべき仕事をこなすために歩き出した。


 これより五日後、マリエットローズから託された、六分儀、星表、月行表、そして経度を計算する新しい数式を携えた測量技師達が合流して、準備が万端整う。

 そしてさらに三日後、遂に訓練船団は遥か西の海、未知の海域へと出港したのだった。



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