259 会議が終わって
途中、想定よりもかなり陰謀寄りの話が出たりしたものの、会議は無事に終わった。
お父様はまだ少し、フィゲーラ侯爵、シャット伯爵、ビルバー子爵の三人と話し合う事があるそうだから、私だけ先にお屋敷に戻ることに。
宮殿の入り口に回された馬車に乗り込む時には、一緒に解散になった提督と船長、副船長達が、綺麗に整列して見送ってくれたわ。
その見送りの間、感謝し過ぎなくらいにすごく感謝してくれながら。
何度も何度も重ねて言われるお礼の言葉に、気持ちは十分伝わったからそろそろ勘弁してと言いたくなったくらいよ。
でもそれは、多分想像出来ても、実際には何も知らないからに違いない。
海での遭難が、どれほどの恐怖なのかを。
だって海のど真ん中では、逃げ場もなければ、助けの期待も出来ないのだから。
「護衛が配置に就きました。お嬢様、いつでも出発出来ます」
「そう、じゃあお願いね」
「はい」
アラベルを始めとした護衛達に周囲を固められて、自宅の敷地内ながら短い帰宅の時間を馬車に揺られて過ごす。
「今日はアシスタントありがとう、エマ」
「どういたしましてお嬢様。このくらいのことでしたら、いつでも遠慮なくお申し付け下さい」
「うん、ありがとう」
やっぱりエマは頼りになるわ。
「でも今日の会議は宮殿で、それも偉い人が大勢集まっていて、緊張しなかった?」
普段なら、お父様の執務室へ持参する資料を用意するか、離れのお屋敷でオーバン先生達を前にお手伝いするくらいだから、今日みたいな公の会議でのアシスタントは初めてのことだ。
「その程度でいちいち動揺していては、公爵家のメイドは務まりません」
「さすがエマね」
「ましてや、お嬢様のお付きは務まりませんから」
「えぇ……」
まあ、ちょっぴり自覚がなきにしもあらずだから、反論出来ないけど。
それはともかく、エマに言った通り、今日の会議はいつもと違ったから、普段とは違う緊張と充実感があった。
お父様の執務室での書類仕事は、領地経営の仕事だけど、どこかまだお父様や家のお手伝い的な感覚がある。
魔道具の開発も、事業と言う側面はあるけど、ある意味で趣味や楽しみの一面があるし。
それと比べて、今日の会議はいかにも公務をこなしたと言う感じがあった。
もちろん、普段の仕事も各地の視察も、ちゃんとした公務だけどね。
でも、お屋敷の隣で、自宅の敷地内でのこととはいえ、こうして体裁を整え、アラベルを始めとした護衛の騎士達にしっかりと守られながら、政治の場である宮殿へと出向いたことで、より一層実感出来たと言うか、ようやく少しは自覚出来た気がする。
自分の立場は前世の気ままな平民のままではなく、もはや貴族で公爵令嬢なのだと。
立場と環境が人を作ると言うのは本当ね。
計画が進み、さらに年を重ねて少し大人に近づいたことで、今後、より多くの人と接し、王都のみならず他領へ、さらに他国へと出向く事が、きっと出てくる。
その時、私はゼンボルグ公爵家当主であるお父様の代理、そしてオルレアーナ王国貴族の代表と見なされるから、それを意識して振る舞わなくてはならない。
お父様とお母様が自覚を促すよう、今のうちから練習させるわけだわ。
「アラベル、他のみんなも、今日は護衛をありがとう」
お屋敷に戻り、玄関に横付けされた馬車から降りて、改めてみんなにお礼を言う。
「お嬢様をお守りすること、それがわたし達の仕事ですから」
「どうぞお嬢様の身の安全は、私達にお任せ下さい」
「遠慮せず、いつでもご用命を」
みんな誇らしそうにそう言ってくれて、嬉しいわ。
「ええ、頼らせて貰うわね」
そうお礼を言うと、みんなすごく嬉しそうにしてくれた。
本当にありがたいわ。
いつまでも、彼らの誇れるお嬢様でいないとね。
それから自室へ戻って、楽な普段着のドレスに着替えて一休み。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとうエマ」
エマが淹れてくれたお茶を飲んで一服する。
紅茶やハーブティーもいいけど、疲れたときに一服するならやっぱり緑茶よね。
そこはやっぱり元日本人だわ。
そうして、しばしまったりとした時間を過ごした後。
「さて、遂に練習船が外洋へ出るから、今後の動きについて考えないと」
「会議が終わったばかりなのに、もう次のお仕事についてですか? もう少しゆっくりされても罰は当たりませんよ?」
「性分、なのかしらねぇ?」
前世のブラック企業の社畜体質が抜けていないとは思いたくないわ。
「それに、計画が順調だから楽しいのよ」
今は楽しくお仕事が出来ている。
それだけでも、十分に贅沢だと思う。
だから休憩はおしまい。
さあ、お仕事に取りかかるわよ。
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