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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第三部 切り開くはアグリカ大陸への直通航路

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250/326

250 懐中時計に求められるスペック

 さらにもう少し打ち合わせをした後、カミロさんとセリオさんは帰っていった。

 それを見送った後、お父様が私の肩を抱いて、優しく頭を撫でてくる。


「船大工達といい彼らといい、マリーは職人をその気にさせる天才だね」

「お父様だって、お上手でしたよ?」


 私が切り出さずとも、量産体制についてだけじゃなく精度向上の話まで、すごく助かったもの。

 それも、焚き付ける形でなんてね。


 お父様は微笑んで頷くと、本題とばかりに懐中時計へ目を向けた。


「それでマリー、どうかな?」


 その意図は一つ。


「残念ですけど、全然精度が足りていません」

「そうか、やはり駄目か。目を見張るほどに画期的で、素晴らしい時計なのだが」

「はい。それはもう本当にすごい時計で、世界最高峰なのは間違いありません。短期間でこれほどの性能に仕上げたベルトラン工房の技術力には、舌を巻きます。感謝の言葉しかありません」

「しかし、要求仕様には届かなかった、か……」

「はい。普段使いするだけなら十分に高性能なんですけど、経度を計測するには、それこそ誤差は一秒以下でないと、ずれが大きくなり過ぎます」


 クロノメーターの誤差は一日で一秒以下。

 改良されたクロノメーターH-5は〇.三秒以下。


 でも、今すぐそこまでの性能を要求するのが無理なのは分かっているわ。

 何しろクロノメーターは、船の揺れ、温度や湿度による部品の膨張などの変化すら考慮に入れて、その影響を受けないように作られているんだから。


 そんなの、材質も構造もさっぱりよ。

 さすがの父と兄もその詳細までは知らなかったみたいだし。


 でも、精度が高い経度の測定方法に政府が賞金を出すくらい、当時、経度の正確な測定は重要だったの。

 大航海時代を迎え、大海を行き交う船が増えた分、遭難する船もまた増えていったから。


 簡単に言えば、経度を測定するには、基準点の時間を正確に刻み続ける時計と、現地の時間を刻んでいる時計とを比べて、どれだけ時差があるかを確認すればいい。

 その時差が、そのまま経度の角度になるから。


 でも、その基準点の時間を刻み続ける時計の精度が低く、日々ずれていけば、当然、測定された経度のずれも日ごとに大きくなっていってしまう。

 何カ月も航海するとなれば、積み重なったずれは膨大だ。


 そのずれが距離にしてどのくらいになるのかと言うと、赤道上だと経度がわずか一秒ずれるだけで約三十一メートル、たった一度でも約百十一.三キロメートルにもなる。

 時間でも、赤道の長さが約四万キロメートルだとすれば、わずか一秒ずれるだけで約四百六十三メートル、五分もずれたら約百三十九キロメートルだ。

 目印もない大海原の真っ只中で、目的地から百キロ以上も離れた場所で迷子だなんて、そんなの遭難しないわけがないわ。


 だからこそ、精度が高い測定方法が必須なのよ。


「しかし、これだけの時計を使わないのはもったいないな」

「すごくもったいないです。なので、多少の誤差は織り込み済みで、決められた時間に一日一回、針を五分調整して、誤魔化し誤魔化し使うしかないですね」


 それでも現在の、ロープが後方に流される大体の速度とおおよその移動時間から移動距離を計算して、大雑把にこのくらいの位置、なんて主観に左右される経度の測定方法より遥かにマシだわ。


「緯度が低くなるにつれて大きく、赤道ではそれほどのずれを生み出すと、周知徹底が必要だな」

「それに、本番の大型船のマストは五十メートル近い高さになりますから、かなり遠くまで見渡せます」


 海抜ゼロメートルの海岸に立つ大人の目の高さから水平線までの距離は、およそ四キロメートル強。

 五十メートルの高さからだと、ざっと二十六キロメートル強にもなる。


 仮に調整しながら使って、多少の誤差が出てしまったとしても、島や陸地程大きな物であれば、望遠鏡があれば十分に見付けられるはず。


 少なくとも、現在主流のコグ船や、後のキャラック船、キャラベル船、さらにはガレオン船と比べても見渡せる範囲は遥かに広いから、遭難する確率は大きく下げられるはずよ。


「やはり懐中時計の精度向上は非常に重要だ。改良と量産に良い返事が貰えるよう、新特許法成立も含め、積極的に支援すべきだな」

「はい。私も出来る事で、頑張って支援します」


 気合いを入れた私の頭を、お父様が微笑んで撫でてくれる。


 懐中時計は次善の策のつもりだったけど、ここまで想定以上の精度を出して貰えたんだもの。

 だからこそ余計に、より精度を高めて量産して欲しいわ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >海抜ゼロメートルの海岸に立つ大人の目の高さから水平線までの距離は、およそ四キロメートル強。 五十メートルの高さからだと、ざっと二十六キロメートル強にもなる 気球とか作れたら更に視界…
[一言] 書籍購入して最新話まで追いつきました! マリーお嬢様の行く末と、一大革命を起こすであろう愉快な企みを楽しみにお待ちしております!!
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