242 令嬢達のお茶会の攻防 1
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なんなんですのよ、この雰囲気は!?
お茶会の会場は静まり返っていて、モーペリエン侯爵家の派閥の取り巻きの三人は俯いて黙りこくってしまっているだなんて。
まるで、この場の支配者が、ゼンボルグ公爵令嬢みたいじゃありませんの!
ゼンボルグ公爵令嬢をキッと睨むと、涼しい顔のまま、わたくしのことを歯牙にもかけない態度だなんて、田舎娘の癖になんて不遜な!
わたくしは、栄えあるモーペリエン侯爵令嬢ジャクリーヌ・ラ・ド・モーペリエンですのに!
だいたい、なんなんですのよそのドレスは!
流行を押さえた上で、斬新で大人びたデザインだなんて、この王都でも見たことありませんわ!
しかも、どれだけ芋臭いみっともない子が来るかと思えば。
こんな、すごくすごくすごく綺麗で可愛い……!
挨拶の時も、礼儀作法も洗練されていて、気品に溢れて美しいだなんて……!
たかが田舎娘の癖に生意気な!
こうなったら、レオナード殿下に相応しいのはわたくしだと、絶対に認めさせてやりますわ!
◆
ジャクリーヌ様から、敵愾心を含んだすごい視線を叩き付けられているわね。
私、今のところレオナード殿下と結婚するつもりないんだけど……。
この様子だと、多分、言っても聞いて貰えないでしょうね……。
改めてそれぞれ自己紹介をして、それからお茶会が始まる。
「ジャクリーヌ様のドレス、今日も素敵ですわ」
「流行の最先端を押さえた華やかなデザイン。さすがはジャクリーヌ様」
「ペンダントの大粒のダイヤも、さすがモーペリエン侯爵家ならですね」
「ふふっ、それほどでもありますわ」
気を取り直したのか、取り巻き令嬢達が早速私を無視してジャクリーヌ様を褒めそやす。
ジャクリーヌ様がドヤ顔でチラッと私を見ては勝ち誇った。
うん、なんだか可愛いわ。
「それにしても、ゼンボルグ公爵令嬢のドレスは……その……そ、そう、地味ね!」
「そ、そうね! 可愛らしさや華やかさが足りないったら」
「王都の流行を理解していないなんて、やっぱりゼンボルグ公爵領は田舎ね」
なるほど、シックで大人びた雰囲気を取り入れたのを、無理矢理地味と言い換えたのね。
そして、流行そのままではなく、そうアレンジしたのを、流行から外れているとこじつけた、と。
「流行をただ無闇矢鱈と追いかけてそのままドレスに着られてしまうより、自身に似合う着こなしに昇華することが肝要では?」
ん……あら、この紅茶、なかなか美味しいわね。
さすがにレオナード殿下に出して貰った、王家の直轄地で栽培している王家専用の茶葉に比べたら格が落ちてしまうのは仕方ないけど。
でも、この程度なら、ゼンボルグ公爵領の茶葉の方が美味しいわね。
分けて貰う程ではないわ。
「くっ……」
「なんなのよ、澄まし顔しちゃって」
「難しいことを言えば偉いってものじゃないわよ」
私が全然堪えていないから、取り巻き三人はなんだか悔しそうね?
もちろん、余裕をかました演技だけどね。
ジャクリーヌ様までなんだか悔しそうにしたと思ったら、ふふんと気を取り直したように笑みを浮かべて、テーブル中央に置かれているクッキーを私に勧めてきた。
「ゼンボルグ様、よろしければこちらのクッキーもいかがかしら? はるばるヴァンブルグ帝国から取り寄せましたのよ」
「まあ、ヴァンブルグ帝国から!」
今、驚いた声を上げたのは、私じゃなくて、取り巻き令嬢の一人ね?
「ヴァンブルグ帝国より皇太子殿下ご夫妻と、皇子殿下がいらしていたでしょう? おもてなしするのに、ヴァンブルグ帝国の文化を知っておくことは必要ですもの」
「ジャクリーヌ様のお心遣い、きっと皇子殿下も感謝されていますわ!」
「殿下と皇子殿下も親しくされていらっしゃいましたし、王国の未来を担う令嬢として、世界に目を向ける感覚が必要だと思わなくて?」
「さすがジャクリーヌ様! わたし達とは視点が違いますわ!」
いちいち、取り巻き令嬢のお追従がもうね……。
よほど慣れているのね。
そのテンポの良さに、ちょっと笑ってしまいそう。
「せっかくですから、頂きますね」
一枚、手に取って食べてみる。
あら……すごい、贅沢にもスパイスとスライスアーモンドが一緒に入っているわね。
と言うことは、このクッキーは……。
『いかがカぁしら? ヴァンブルグ帝国のクッキーは? ゼンボルグ公爵りょーのようナ田舎には、たーべらレェないのデは、なくて?』
ジャクリーヌ様が勝ち誇って、ヴァンブルグ帝国語で話しかけてくる。
「さすがジャクリーヌ様!」
「ヴァンブルグ帝国語をこんなにも流暢に!」
「ジャクリーヌ様、素敵!」
イントネーションが所々おかしいし、助詞の使い方も間違っているけど、七歳にしてはかなり上手かも。
取り巻き令嬢のよいしょが面白くてつい半分聞き流してしまったけど、レオナード殿下の婚約者たろうと、ハインリヒ殿下とコミュニケーションが取れるように学んだのね。
そこは素直に感心するわ。
でも、ごめんなさい。
売られた喧嘩は買わないと、ね。
だってこのお茶会は、私を貶めるために開いたのでしょう?
当然、反撃されることを考えていなかったなんて、甘えたことは言わないわよね?
だから、私もヴァンブルグ帝国語で答える。
『こちらのクッキーは、シュペクラティウスですか。美味しいですよね、これ』
私がヴァンブルグ帝国語で答えたからか、お母様以外の母親達まで全員、目を見開いて私を見た。
ハインリヒ殿下と話しているわけじゃないから、聞き取れるようにゆっくりハッキリと話す。
『シュペクラティウスには、バタークッキー、スパイス入り、スライスアーモンド入りと三種類あるようですが、こちらは贅沢にもスパイスとスライスアーモンドが入っていますね。スパイスはもちろんですが、スライスアーモンド入りを取り寄せるなんて、モーペリエン様はお目が高いのですね。アーモンドはまだまだ知る人ぞ知る食材なのに』
木の型に入れたり、模様を彫ったローラーを押し付けて模様を付ける、前世のドイツではクリスマスの定番だったこのクッキー。
ヴァンブルグ帝国でも後にクリスマスの定番になるのかしらね?
ジャクリーヌ様は目を見開いて、口をパクパクさせるだけで言葉が出てこない。
「っ……!」
と思ったら、怖っ……!
ギンッと鋭い目で睨み付けてきて、思わず仰け反りそうになってしまったわ。
取り巻き令嬢達は黙り込んで、気まずそうにジャクリーヌ様の顔色を窺っている。
これで、第二ラウンドも私の勝利でいいわよね。
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今回も、少し補足説明を。
クリスマスが近いので、それ繋がりで。
作中の季節はクリスマスとは関係ありませんが。
シュペクラティウスについて。
ネットで調べたら、シュペクラティウス、スペクラチウスと、二種類の表記があり、発音はどちらが近いのか、分かりません。
バタークッキー、スパイス入り(シナモン、丁子、カルダモンなど)、スライスアーモンド入りと三種類あるようですが、二種類以上を組み合わせた物があるのかは知りません。
作中では、海外からのお取り寄せの品、贅沢品、と言う扱いで、敢えて二種類組み合わせてみました。
スパイス、アーモンドは、どちらも作中で使っていますしね。
中世ドイツでは修道院などで、木型に押し込んだり、木に模様を掘った物を押し付けて、宗教的な模様を付けていたようです。
語源はラテン語の「鏡」から。
その作り方から、そういう名前が付いたのかも知れません。
スペクラチウスと言う言葉には、サンタクロースのモデルになった聖人の「ニコラウス」と言う意味がある、と言う説があるとかないとか。
そこからクリスマス定番のお菓子になっていった……のかも知れませんね。
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