218 思いを込めた手紙のやり取り
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初めてのお茶会からしばらく日が過ぎて。
私に三通の嬉しいお手紙が届いた。
「えへへ♪」
机に広げたそのお手紙を眺めていると、自然と頬が緩んでしまう。
差出人が誰かと言えば。
言わずもがな、クリスティーヌ様、ミシュリーヌ様、ソフィア様だ。
手紙の内容は、先日のお茶会に誘ったことへのお礼状ね。
だから当然、時候の挨拶に始まり、前置きの話題、そして本題のお礼と、差出人が子供とはいえ貴族の手紙らしく、形式通りの文面が記されているわ。
でも、形式通りだけじゃない。
とても楽しかった、私と友達になれて嬉しかった、スイーツ美味しかった、次のお茶会が今から楽しみ、早くまた会いたいね。
そんな気持ちが、いっぱいいっぱい綴られていた。
しかも三人とも直筆で。
「えへへ♪」
おかげで何度も取り出しては、繰り返し読んでしまうの。
私にとって、すっかり宝物よ。
思い起せば前世では、書くのも出すのも手間暇が掛かるし、届くのにも時間が掛かるから、手紙なんてほとんど書いたことがなかったわ。
だって、電話やビデオ通話、メッセージやメールを使った方が手軽で早いじゃない。
そもそも、友達とは会おうと思えばいつでも会えたんだもの。
でも、だからこそ。
この手紙ほど気持ちが込められたやり取りが、果たしてどれくらいあっただろうって思ってしまうの。
もちろん、電話やメッセージを否定するつもりはないし、お手軽だから気持ちが籠もらないなんてことも言うつもりはないわ。
伝える手段を問わず、感謝や久しぶりに会えて嬉しいって言葉は本物だし、その気持ちに嘘はないもの。
でもこの世界だと、遠距離の連絡手段は手紙しかない。
ましてや貴族だと、会いたいと思ってもそう簡単には会いに行けないのよ。
移動手段は徒歩か馬車。
しかも、まず何日も掛けて手紙をやり取りして先方の都合の確認をして、護衛を手配して、盗賊や災害や事故など道中の周辺情報を集めて、宿の手配をして、安全の確保をしてと、外出には制限や手間がいっぱいよ。
思い立ったら着の身着のまま即出発、とはいかないの。
だから、最も気軽な遠方とのやり取りは、手紙だけになってしまう。
その手紙だって、貴族ならまだしも届く確率が高いからいいけど。
一般の人達だと識字率が低くて連絡手段として使える人が限られている上、紛失や窃盗に遭って確実に届くかどうかも分からない。
だからこそ、気持ちを届ける貴重な機会の手紙には、一通一通、たくさんの想いを込めて綴るんじゃないかしら。
「えへへ♪」
この世界で出来た初めてのお友達からの手紙だから、余計にそう感じるのかも知れないけどね。
だから私もペンを取って、たくさんの可愛い便箋の中からこれぞと思う物を選んで、思いの丈をぶつけるように返事の手紙を綴っていく。
失敗したり、読み直して書き直したり。
何枚も何枚も便箋を無駄にしながら、納得いく最高の一枚を書き上げる。
そうしてドライヤーでインクを乾かして、お気に入りの香水を軽くしゅっと便箋に一吹き。
綺麗に折り畳んで封書を閉じて、封蝋を垂らし最後にゼンボルグ公爵家の印章を丁寧に押せば完成ね。
「出来た!」
直筆で書き上げたばかりの三通の手紙をまとめて翳すと、なんだか照れ臭いやら恥ずかしいやら嬉しいやら、頬が緩んでしまうわ。
手紙を出すのにこんなにドキドキするなんて、前世を通じても初めてよ。
「エマ、お願いね」
「はい、お嬢様」
ニコニコ笑顔のエマに手紙を手渡すと、大事そうに胸に抱いて、すぐに郵便物を扱う部署へ届けに行ってくれる。
そんなエマの心遣いが嬉しい。
同時に、ちょっとだけ照れ臭くもあるけどね。
「そうだ、後でジョルジュ君にも、久しぶりにいつもの近況報告の手紙を書こうかな」
それで、こんな風にお茶会をして三人とお友達になれたよって、教えてあげよう。
思えば、家族やエマやアラベルや、身近な人以外の誰かのことを、手紙に書いたことってなかった気がする。
手紙を読んだら、ジョルジュ君も私のお茶会に興味を持ってくれるかな?
私の場合、立場上、お茶会に男の子を招待すると、深読みする人や特別な意味を付けてしまう人が出てきて面倒が起きかねないから、そうそう気軽にご招待出来ないのよね。
だから手間が掛かってしまうけど、そう思われないようなメンバーを選んだり、根回しをしたりする必要があるのよ。
だからしばらくは、女の子だけをご招待する予定。
それで私のお茶会の主旨を周知すると言うわけね。
男の子のご招待は、その周知が済んで、誤解の余地がなくなってからになる。
女の子がいない家や、いずれ当主になるだろう男の子とも、顔を繋いで交流を持たないと駄目だから。
だからジョルジュ君にも、お仕事の一環も兼ねて、いつかご招待して新作スイーツを食べさせてあげたいわ。
「さて、休憩を兼ねたプライベートの時間はこれで終わり」
椅子から降りて、気合いを入れる。
これからは、午後のお仕事の時間だ。
タイミング良く、エマも手紙を届けて戻って来てくれたし。
「ねえエマ、お母様が今どこにいるか分かる?」
「いえ。ですが、この時間でしたら、私室かリビングではないでしょうか?」
「それなら、最近のお母様の行動パターンを考えると……私室かしら? 先触れ、お願い出来る?」
「はい、お嬢様」
エマに先触れとして行って貰って、在室の確認と訪ねる許可を貰ってから、エマと一緒にお母様の私室へと向かった。
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