196 招待するご令嬢選び
私が食べたいスイーツは色々と思い浮かぶ。
でも、作れない物が圧倒的に多い。
例えばシュークリームもプリンも、カスタードに使うバニラエッセンスがないから思い描いた風味が出せないし、カカオがないからチョコもない。
生クリームもなければあんこもない。
保冷箱はあっても冷凍庫がなかったからアイスもない。
その手のお菓子は全滅だ。
それに貴族が夜会やお茶会で出す料理やお菓子って、例えば招待客の領地の特産品を使って、あなたの領地とはこんな風に取引して懇意にしていますよってアピールする場でもあるみたいなのよね。
つまり、出来れば招待する女の子の領地の特産品をスイーツに使いたい。
となると、作るスイーツは招待する女の子次第になるわけね。
「だとすると……」
これまで『ゼンボルグ公爵領世界の中心計画』の一環で、既存の特産品の増産や新しい特産品の提案など、各領地に指示を出してきた。
その中でもスイーツ作りに向いている品を厳選する必要がある。
それも、お母様は伯爵家以上と言っていたから、伯爵領以上に限定して。
そして出来ればそのスイーツを広めることで、それら特産品の需要を喚起して、その領地の交易の後押しをしたい。
そんな一石二鳥のスイーツが必要だ。
それらの情報を思い出しながら、条件に合う既存にない新しいスイーツでどんな物が作れるかを吟味する。
「……幾つか候補は絞れたわね」
長々と考え込んだおかげで、幾つか候補は出た。
「材料を取り寄せる必要もあるし、試作もしないといけないし、決定するにはお茶会の開催時期も含めて、早めに招待する女の子を決めて貰わないと」
と言うわけで、お父様とお母様の方を振り向く。
すると、指示された報告書を持って来たのか、いつの間にかセバスチャンも加わって、四人でああでもないこうでもないと、候補のリスト作りが白熱していた。
取りあえず、現状どうなっているか確認が必要ね。
「パパ、ママ、ご招待する女の子は決まりましたか?」
「ああ、取りあえずの候補は決まった」
「後はこの子達の中から、誰にするかを決めるだけね」
お父様の手元にある、書き留められたリストを見る。
十数人の名前が順不同で並んでいるわね。
さすがに初めてのお茶会で、この人数の子供達を相手に上手くやれる自信はないわ。
大勢いたら、友達を作るよりも保護者目線でお世話するのに気を取られてしまいそうだもの。
「この中から何人ご招待するんですか?」
「最初だから、三人くらいが丁度いいと思うわ」
「三人ですか。それならなんとか」
相手にする人数もそうだけど、スイーツに使う特産品の数が増えすぎても大変だから、そのくらいが丁度よさそう。
名前を見て、その領地の特産品を思い出して、さっき考えた候補のスイーツが作れるかを照らし合わせる。
うん、組み合わせ次第でいけそう。
逆に、ばらけたら作れないわ。
「パパ、ママ、私が選んでもいいですか?」
「マリーが? それは構わないが」
「誰か気になる子でもいるの?」
二人とも不思議そうな顔をする。
当然よね。
だって全然知らない子達ばかりなのに、何を基準に選ぶのかって。
「いいこと考えたんです。だからこの子と、この子と、この子がいいです」
私が指さしたのは――
リチィレーン侯爵家長女、クリスティーヌ・アントワーヌ、七歳。
シャルラー伯爵家次女、ソフィア・エルメス、六歳。
ブランローク伯爵家三女、ミシュリーヌ・ジョベール、六歳。
――この三人だ。
「どうでしょう?」
私が確認すると、お父様、お母様、セバスチャン、フルールが真剣な顔で吟味を始める。
「リチィレーン侯爵家でしたら、ここは一つ――」
「シャルラー伯爵家は、北西部の派閥での今後の展開を考えると、より懇意にしておくのも――」
「ブランローク伯爵家はマリーの指導を頼んでいるエドガールのこともあるし、悪い選択では――」
大人四人で様々な方面から検討して、どうやら結論が出たらしい。
「せっかくマリーが選んだ相手だ。この子達でいいだろう」
「ええ。マリーの名前で招待状を送りましょうね」
「はい、ありがとうございます」
お父様とお母様の許可が出たからこれで決まりね。
「それで、マリーが考えた『いいこと』って何かしら?」
「歓迎するために、その三人の領地から取り寄せて欲しい物があるんです。冷蔵庫を載せた馬車なら問題なく運んで来られます」
何を運んで来て欲しいか、それを説明する。
「それは構わないが、それをどうするんだい?」
食材と言う以外共通項を見出せなかったらしい。
お父様とお母様が不思議そうにするから、自信たっぷりに胸を張る。
「その材料で、まったく新しいスイーツを作ります」
「「「「まったく新しいスイーツ!?」」」」
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