195 女児のお友達の作り方
ただ、お茶会を開くと決めたはいいものの……。
「七歳児をご招待して持て成すって、普通にどうすれば?」
私が前世で七歳だった頃……。
もう漠然としか覚えていないけど、精神的にかなり子供だったと思う。
いや、七歳なんだから、子供で当然なんだけど。
そんな前世の日本と比べて、この世界の子供は精神年齢が高めだと思う。
例えば、レオナード殿下とか、ジョルジュ君とか、ジャン達とか。
ジャン達のリーダー達も、ジャン達の食い扶持を稼いでいて偉かったわよね。
「出来ればマリーと同い年のご令嬢がベストだが」
「この際ですもの、一つや二つ違っても構わないわ」
「そうだな。マリーと仲良くしてくれるのなら、多少の年の違いは些末な問題だ」
「ええ。ただ、下に離れすぎてはマリーが大変だと思うの」
「確かに。上に離れている分は少々離れていても平気か」
招待する子供達は年が近く、家格が釣り合う家からお父様とお母様がリストアップしてくれるみたいだから、そこはもうお任せするしかない。
だって私が選ぼうにも、家同士の繋がりが、表向きはともかく裏の事情はまだよく知らないから、誰を呼んで誰を呼ばないのが適切なのか分からないし。
要は、ご学友と言えばいいのかしら?
私の立場上、性格の好き嫌いや相性だけでなく、どうしても政治的な思惑は付いてきてしまうわよね。
ほら、あれよ、世が世なら王女様だったはずの公爵令嬢のお友達が貧乏な男爵令嬢だと、上の爵位のご令嬢達から嫉妬されて苛められる問題が発生したり。
私がうちにご招待するのはいいとして、逆に相手が私を招待するのに、公爵令嬢のレベルに合わせた歓待をしようと思ったら、貧乏だとそれだけで家が傾くほどの散財になったり。
身を守れるだけの権力、財力、武力、影響力がないと、敵対する貴族から脅されてスパイさせられたり、私を誘拐や陥れる陰謀に利用されたり。
容易にはそういうことが起きない家の子を選ばないといけない。
それも、本人の資質や能力だけでなく、家族や親戚筋に至るまで調べて。
怪しい借金や女性問題なんて、付け入るのに最たるものだもの。
でないと、私の事情に巻き込んで、お友達やその家に却って迷惑を掛けてしまう。
だからこれはお高くとまって、『身分が低い者とはお付き合いしませんの』と蔑んで言っているわけではないの。
お友達くらい、気が合う子を自由に選びたいものだけど……。
「貴族家に生まれた以上、しがらみからは逃れられないのね……」
ついポツリと零してしまった言葉に、アラベルが大きく頷く。
「公爵令嬢であり、派閥の領袖のご令嬢であるお嬢様の場合、さらに将来の側近候補や、細かな派閥のパワーバランスも考える必要がありますね」
「うわぁ……面倒ね」
げんなりする私に気遣ってか、エマが紅茶を淹れてくれる。
せっかくだから、その紅茶を一口飲んで、一息吐く。
「旦那様と奥様が張り切っておられるので、全てお任せして、お嬢様は気が合うお友達を作ることに専念されて良いのでは?」
「うん、それはそうなんだけど……私も何かした方が良くない?」
だって、当然だけど子供達だけで来るわけじゃない。
母親も一緒の、保護者同伴になる。
もちろん母親グループは別の席で、子供達は子供達だけでお茶会をするんだけど。
じゃあ母親達が子供達と全く無関係かと言えば、全然そうじゃない。
そう、母親目線で、他の家の子供達が自分の子供と付き合うのに相応しいかどうか、品定めする場になるのよ。
「だって私の主催者ぶりが、今後の私とのお付き合いはもちろん、ゼンボルグ公爵家とのお付き合いにも影響することになるわけでしょう?」
派閥の貴族家への私のお披露目も兼ねている以上、私へ向けられる母親達の視線は、より一層厳しいものになるに決まっているわ。
だとしたら、のんきにただの子供のように振る舞って、お友達が出来て嬉しいと喜んでおしまいでは、到底お眼鏡に適うとは思えないもの。
「旦那様と奥様は、お嬢様にお友達が出来て年相応に楽しまれることが一番で、それで十分に満足されると思いますけど」
「うん、私もそう思う。思うけど、ね」
お父様、お母様、エマの言う通り、七歳の子供らしく、まだそこまで考えなくていいのかも知れない。
でも私は中身も立場も、普通の七歳児じゃないもの。
「二人の娘として、公爵令嬢として、相応しい振る舞いをしないと」
悪い印象を持たれないことは最低限。
「母親達も満足させて、『今後一層ゼンボルグ公爵家とは懇意にした方がいい』、母親達はお母様と、子供達は私と、『仲良くしないと損をする』。出来れば、そこまで思わせたいわ」
「お嬢様ったら……」
「でも、それでこそお嬢様らしい」
エマが困ったように溜息を吐いて、アラベルが苦笑する。
じゃあ、そのためにはどうすればいいのか。
と言うところで、話がループしてしまう。
『七歳児をご招待して持て成すって、普通にどうすれば?』
頭の痛い問題だわ。
「子供達はもちろん、母親達にもアピール出来る何かがあるとベストよね……」
まず、子供達を喜ばせることが第一。
自分の子供が喜んで嫌な気分になる母親は、そうはいないはず。
それを何にするかなんだけど……。
「一番分かりやすいのは、お菓子ではないでしょうか? 珍しくて美味しいお菓子なら、子供も大人も楽しめて、話題として盛り上がるでしょうし」
「それよ!」
思わず立ち上がって、エマを指さす。
「ナイスアイデアだわ!」
「では、父に連絡して、外国の珍しいお菓子でも取り寄せますか?」
外国の珍しいお菓子ともなれば、権力と財力の象徴よね。
「ありがとうエマ。でも無用よ。私に考えがあるの」
この世界は乙女ゲームそっくりの世界なのに、ネット小説で見たそんな風な世界とは全然違って、とにかくお菓子の種類が少ない。
だって、チョコ、バニラ、生クリーム、アイス、あんこがないから。
こんなにもスイーツに恵まれていない乙女ゲームの世界って、他にないんじゃないかしら。
でも、だからこそ新大陸へ一番乗りする価値があるし、スイーツを開発する余地がある。
お茶会で見たこともない甘いお菓子が出てきたら、子供達はもちろん、母親達もきっと大喜びするに決まっているわ。
絶対、お話や仲良くなる切っ掛けになると思う。
これは早速、色々調べて検討しないと。
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