188 職業訓練学校とは 2
2023/06/14
06/08に 182 貧民街での炊き出し を投稿した後、
06/09に 184 町歩きもお仕事です を投稿してしまい、
06/12に 187 職業訓練学校とは 1 を投稿するまで、183を飛ばしていることに気付きませんでした。
06/13は 183 貧民達へのお仕事 を位置を調整して投稿しています。
まだ読まれていない方は、合わせてそちらもお読み下さい。
大変申し訳ありませんでした。
「しかし、それだと授業料も高いのでは? 何より、仕事をしなくては、授業料どころか生活もままならないでしょう」
現在の徒弟制では、弟子入りしたら住み込みで、食事その他、生活は師匠が保障するようになっているものね。
学校に通っていたらお金を稼げなくて生活出来ないと、そう疑問に思っても当然だ。
「授業料は無料です」
「無料!?」
「はい、無料です」
重ねて、無料を強調する。
平民と貧民を分け隔てなく受け入れると言いながら、授業料が必要となると結局貧民にはハードルが高いままで、貧民に門戸を開いた意味がなくなってしまうもの。
これにはさすがにお父様にも難色を示されたけど。
大反対する財政を預かる役人諸共説き伏せて、押し切ってやったわ。
「そして在学中は基本的に給付金が支払われるので、生活には困らないはずです。さすがに資格を審査して、無制限にとはいきませんが」
やる気もないのに、給付金目当てに何年も通うなんてことが出来ないようにね。
「給付金!? 授業料を払うどころか、逆に学びながら給料が貰えると!?」
「その通りです」
さすが役人だっただけに、信じられないって愕然とした顔をしているわね。
教えを請う方が謝礼を支払うならともかく、経営側がお金をあげて学ばせてあげるなんて、パトロンともまた違うし、にわかには信じがたいのも無理はないけど。
「それに毎日朝から晩まで希望する授業があるわけではないでしょうから、空き時間に仕事をすることも可能です」
勤め先さえオーケーを出せば、仕事を抜けたり休んだりして通い、別の技術と知識を学んでもいい。
その新しい技術と知識を元に転職するのも、今の職に生かすのも、本人次第だ。
「それは……随分と思い切ったことを。それでは、その学校の運営費は公費を?」
「はい。多くは税で賄います」
それと、ブルーローズ商会で売る魔道具の特許で儲けた、私の私財でね。
だから、この職業訓練学校の計画は、私が中心で動いているの。
ちなみに、利権になって生徒の獲得などで面倒が起きそうだから、商会や組合からの寄附は断ったわ。
「収益がなければ、公費を注ぎ込んだ分だけ財政に大きな負担がかかるのでは?」
「最初はそうなると思います。ですが、職人が増え経済が活性化すれば、税収が上がります。職人が増えれば増えるほど、財政の負担は減っていきます」
希望的観測ではあるけど、多分間違いない。
そして、魔道具師が増えて魔道具がよりたくさん売れれば、注ぎ込んだ私の私財も恐らく回収できるはずよ。
一般人にも売るようになれば、何十倍にもなって返ってくるはずだわ。
謂わば、投資ね。
「しかし、職人が増えても仕事それ自体が増えるわけではない。むしろ仕事の奪い合いになって潰れる店や工房が出て、逆に税収が下がってしまうのでは?」
「確かに、仕事の数には限りがありますから、現状のままではそうなるでしょうね。でも大丈夫です。仕事は確実に増えて、経済は活性化します」
「その根拠を伺っても?」
「なぜなら、今回の職業訓練学校は、ゼンボルグ公爵家が進めるもっと大きな事業計画の一環だからです」
大型船が完成してアグリカ大陸との交易が始まれば、これまでなかった品や高価な品が、山のように、しかもより安価に入ってくるようになる。
新大陸へ到達出来れば、なおさらね。
だから経済が活性化するのは確実。
そしてそれに伴い人の移動もあるだろうから、各方面で仕事がさらに増えるはず。
恐らく、人材も人手も足りなくなるくらいに。
それなのに、それを扱える職人が足りていないではお話にならないわ。
「その事業計画については機密のため説明を差し控えますが、計画の進捗は順調で、恐らく数年もあれば、ゼンボルグ公爵領は大きく様変わりすることと思います」
さすが元役人だっただけあって、なかなか鋭く突っ込んだ質問がきたわね。
だけどその全てにちゃんと答えたわよ。
「…………」
ジスランさんは目を閉じて黙って考え込む。
話は理解はした。
だけど、建設予定地の住民に、今の家を捨て転居させるだけの価値があるのか。
悩んでいるのは、そんなところかしら。
これはもう一押しした方が良さそうね。
「これはゼンボルグ公爵家が進める、領地活性化の事業の一環ですが、慈善事業の側面もあります」
「……慈善事業ですか?」
ジスランさんが閉じていた目を開いて、私を見つめてくる。
「職業訓練学校を建設出来るだけの広い土地は、領都にはもうありません。また、経済の活性化を迎えた時に、平民も貧民も、自分に出来る仕事がないと、遊ばせておく余裕もありません」
だから授業料を無料にしてでも、手に職を付けさせ経済を回す一員にさせたいの。
ましてや、施し頼りの者を大勢抱え込んだままでは、大きな飛躍は望めないわ。
「ただ炊き出しをするだけではその場限りです。だから、この子達に未来の選択肢をあげたいじゃないですか。少なくとも、自力で掴み取りに行けるチャンスを。そのための、貧民街の再開発なんです」
ジスランさんが子供達を見る。
子供達は話が難しすぎたのか、すでに退屈して、私達の邪魔にならないようコソコソと話をしていた。
「未来の選択肢……自力で掴み取りに行けるチャンス……ですか」
ジスランさんは子供達を見ながら噛みしめるように呟くと、私に目を向けた。
「分かりました。この老いぼれで良ければ、この子達のためにも協力しましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
やったわ!
これで、計画をスムーズに前に進められるわ!
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