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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第二部 備えるは海洋貿易を見据えた内政と貴族政治
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179 ゼンボルグ公爵家の思惑

◆◆◆



「やはりマリーの考えは、王家に食い込み、内側からオルレアーナ王国を変えていく、と言うものではないようだ」

「あの子は、権力や地位への執着がないものね」


 リシャールとマリアンローズは、わずかな落胆と、それ以上に微笑ましい顔で、リビングを出て行った愛娘の背中を見送った。


 贈物の数々に、照れと困惑を見せたマリエットローズ。

 そのマリエットローズがエマとメイド達に贈物を自室へ運んで貰い不在になった隙に、本音を零す。


「マリーであれば、その方法に気付いていないはずがない。だから一応、焚き付けてみたのだがな」


 そのために、レオナードからの招待に応じる許可を出した。

 そして、馬車の中で、王家に食い込み改革をもたらす可能性を示唆した。

 今が最大の好機なのだと。


 しかし、マリエットローズはそれに乗らなかった。


「その方法で権力を握り影響力を持ち、栄華を極めることに、自身の幸せを見出せないのでしょうね」


 マリアンローズは、娘のその考えをよしとすべきか、貴族家の娘として問題とすべきか、決めかねる顔で苦笑する。


「ああ。幸か不幸か、レオナード殿下とハインリヒ殿下にとっては残念なことにな」


 リシャールは皮肉げな笑みを浮かべた。


 貴族家の令嬢は、極端に言えば政治のための道具だ。

 当主として、レオナードやハインリヒとの婚姻を命じ、従わせてもいい。


 これまで頑なにゼンボルグ公爵家との婚姻関係を避け続けていた王家と関係を持ち、ゼンボルグ公爵領を繁栄させる。

 もしくはヴァンブルグ帝国と挟撃し、王家や古参の貴族家と、立場を逆転させる。

 その絶好の機会なのだから。


 しかし愛娘の笑顔を思い起せば、そのような政略結婚の道具として扱う気にはなれなかった。


 だから、一度だけ試してみたのだ。

 オルレアーナ王家と古参の貴族達がゼンボルグ公爵領をどう扱っているのかを、実際にその目で見て肌で感じ、現実を知ることで、愛娘が何を感じ、何を考えるのかを。


「もっとも、結果は分かっていたが。実にマリーらしく、野心的になるどころか、うんざりしただけで終わってしまった」

「そうね。良くも悪くも、真っ直ぐな子だもの」


 令嬢として施した教育は、恐らく王家以上。

 本人の希望もあり、貴族の汚いやり口も惜しみなく教えている。


 それでも、それに染まることなく真っ直ぐ過ぎる愛娘だ。

 陰謀じみた政略結婚など、最も忌避する方法だろう。


 だからこそ、そこに心配がないわけではないが……。

 それ以上に、その好ましい気質に自然と笑みが零れた。


「オルレアーナ王国を乗っ取り裏から操る。これまでを考えれば、その方策に未練がないわけでも、まだその目を完全に潰すわけでもないが……」

「そうね。歴代の当主様達やご先祖様達の無念や苦悩を考えれば……」


 両親、祖父母、曾祖父母……当時のゼンボルグ王家と人々に思いを馳せれば、その方策こそが無念を晴らす一番の方法かも知れない。


 しかし、リシャールもマリアンローズも、ふっと力を抜いて笑う。


「でも、マリーと一緒にゼンボルグ公爵領を盛り上げて、海の向こうを目指す。その方が、心が沸き立つし楽しそうだわ」

「ああ。私もそう思う」


 他に方策がなければ、オルレアーナ王国の乗っ取りに邁進するしかない。

 しかし今や、それ以上に素晴らしい方策が示されているのだ。


 だから、もはやここまでと、心を決める。


 マリエットローズが生まれた時から可能性の一つとして考えていた策ではあった。

 しかし真の目的は、オルレアーナ王国を乗っ取って裏から操り積年の恨みを晴らすことではなく、ゼンボルグ公爵領の繁栄なのだ。

 手段と目的を見誤っては、愛娘に顔向け出来なくなってしまう。


「でなければ、いくら理に適っていて実利があるとはいえ、まだあれほどに幼い娘の言葉に乗って、領地経営を好きにさせるわけがない」

「ふふ、そうね。あまりにも大きな賭けだわ」


 しかし今、その賭に勝った、そう思っている。


 もし仮に新大陸がなかったとしても、アグリカ大陸との直通航路による交易だけでも、ゼンボルグ公爵領は大きく飛躍し豊かになることは確実。

 だから、さらにその先の夢を愛する娘と共に見ることは、心が荒む陰謀と政治劇を繰り返すより、遥かに魅力的だった。


 新大陸発見の報を聞いた時、果たしてマリエットローズはドヤ顔をするか、飛び上がって喜ぶか。

 その時の姿を想像すると、頬が緩んで締まらなくなる。


 難しい顔をして陰謀を巡らせるより、よほど楽しかった。


「ではあなた?」

「ああ。内部に食い込み、影響力を増す方針は変えない。しかし、王家や王国を乗っ取り操るためより、マリーと私達の夢を邪魔させないため。その方針へと舵を切ろう」

「せっかくマリーが殿下に(くさび)を打ち込んでくれたのだものね」

「ああ、レオナード殿下は聡明な方だ。王家の自浄作用に期待しよう」


「それともう一つ」

「分かっている。王家と皇家、両天秤に掛けている間に、他の候補の選定も進めよう」

「ええ、全てはマリーの幸せのために」

「ああ、マリーの幸せのために」



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[良い点] 錆びついた王国の内側に食い込んだところで、イスカンダル行きの宇宙戦艦にはならないもの。そんなものよりシャルキスタンの王の盲目すらも治す海の薔薇(マリアンローズ)をこそ、マリーは望んでしまう…
[一言] レオナード王子にそこまで見込むのはちょっと荷が勝ちすぎると思いますわ。 なんせ教育係と親があれだもんね。
[良い点] 一つの到達点。 この場面が見たかった。 おとん、おかん最高!! 大満足、良かったです。
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