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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第二部 備えるは海洋貿易を見据えた内政と貴族政治
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177 レオナードの意識改革

◆◆



「マリエットローズ嬢……すごかったな……」


 マリエットローズ嬢を招待した今日の出来事を思い返すたび、感嘆の溜息が漏れる。


 初めて会ったのは、ヴァンブルグ帝国大使館でのパーティーで、想像以上に綺麗な子だったことに驚いた。


 魔道具を作れないらしいのは、少し残念だったけど。

 同年代の他の子達よりすごく話しやすくて、その時は少ししか話が出来なかったから、もっと話をしてみたいと思ったんだ。


 だから、今日はいっぱい話が出来て楽しかった。

 だって大人の魔道具師に聞くよりすごく分かりやすくて、ためになったから。

 マリエットローズ嬢が魔道具の勉強を続けたら、いつか魔道具を作れるようになるんじゃないかな。


 でも、本当に驚いたのはそこじゃない。


 僕も周りの人達から、頭がいい、天才だって褒められている。

 だけど、マリエットローズ嬢こそ本物の天才だと思った。


 家庭教師のセボレ子爵が言っていた、『たった五歳で、座学に関しては貴族学院高等部の卒業資格を取得してしまった』、『千年に一人いるかどうかの天才』と言う話は本当かも知れない。


 そして僕は、自分が少し恥ずかしくなった。


 そう感じた切っ掛けは、僕がヴァンブルグ帝国大使館のパーティーで、オルレアーナ王国が田舎だと馬鹿にされたことを話したことだ。


 マリエットローズ嬢は優しくて、僕を慰めてくれた。

 でも、マリエットローズ嬢こそ、僕以上に傷ついて悔しい思いをしてきたんだ。


 お爺様が何故あそこまで、ゼンボルグ公爵家を、ゼンボルグ公爵領を、貧乏だ田舎だと馬鹿にするのか分からない。

 他の人達もだ。


 特に侍従のブリアックの態度は、馬鹿にしていいから馬鹿にしている、馬鹿にするために馬鹿にする、そうとしか見えなかった。


 その話を切っ掛けにして始まった、マリエットローズ嬢とお爺様の意見の応酬。

 僕にはすぐに理解出来ないくらい難しい話や考えもあって、理解しようと頑張って考え込む必要があるものも多かった。


 でも、マリエットローズ嬢は僕と同い年で、お爺様と対等に話を出来るくらい、そんな難しいことを理解していた。

 自分の意見を述べられるくらい、自分の中に芯があったんだ。

 そして最後には、お爺様を言い負かしてしまった。


 信じられなかった。

 すごく格好良かった。


 でもそれだけじゃない。

 僕はマリエットローズ嬢が言っていることの方が、お爺様が言っていることより正しいって思ったんだ。


 しかも、ブリアックが失礼な態度を取った時は、凛とした気品溢れる姿で、無礼を厳しく叱責した。


 本当は僕がしなくちゃいけなかったことだと教えられて、なるほどと納得したし、そんなことも分かっていなかったことが恥ずかしかった。

 おかげで少し空気が重くなってしまったけど……。


 その後のマリエットローズ嬢の、弟が大好きだって話は、それまでとはまた別の意味ですごかった。


 それまでとはまるで別人みたいに、デレッとだらしない顔になって、弟が、弟が、弟がって、口を開けば弟の話ばかり。

 マリエットローズ嬢が、弟が大好きだってことは、感心を通り越して呆れるくらい伝わってきたよ。


 でも僕は、そこまで語れるほど、シャルルのことを知らない。

 会いに行ったこともない。


「……会いに行ってみようかな」


 そんなに可愛いのなら、一度ちゃんとシャルルのことを見てみるべきだよね。

 マリエットローズ嬢も、自分で考えて、行動して、確かめることが大事だって言ってたし。


 僕は早速、普段シャルルが世話をされている部屋へ行ってみる。


「まあ、これはこれはレオナード殿下。どうかなさいましたか?」


 シャルルのお世話係のメイドが、驚いたように迎えてくれる。


「うん、シャルルに会いに来たんだ。シャルル、いる?」

「はい、いらっしゃいますよ」


 メイドに案内されて奥の部屋へ行くと、ベビーベッドにシャルルが寝ていた。


「ちっちゃい……」


 初めてよく見たけど、本当に赤ちゃんってちっちゃい。

 顔も身体も、目も口も手も、どこもかしこも全部ちっちゃい。

 僕と同じ色の金髪で、瞳も同じ綺麗な海色だ。


 父上と母上、どっちに似ているかはよく分からないけど……。


「わぁ……本当にぷにぷにだ」


 ほっぺたを恐る恐る触ってみると、すべすべで柔らかくてずっと触っていたくなる。


「あぷぅ」


 何を言ったのか、何を言いたいのか分からない。

 分からないけど、シャルルがその小さな手で、僕の指を握った。


「ちっちゃい……」


 本当にちっちゃい。

 でも、少し熱いくらいに温かい。


「えっと……シャルル……僕、お兄ちゃん、だよ? 分かるかな?」

「んまぁ♪」


 何を言ったのか分からない、分からないけど……笑った!


 なんだろう、シャルルの楽しそうな顔を見ていたら、胸の奥の方が温かく、不思議な気持ちになっていく。


「あぅ、まうぅ♪」


 楽しそうにちっちゃな手で僕の指を握って笑う。

 何を言っているか分からないけど、僕に話しかけてくる。


「……可愛い……!」


 マリエットローズ嬢が言っていた気持ちが、少し分かった気がする。

 なんだか弟って、すごく可愛い!


「ねえ?」


 お世話係のメイドを振り返る。


「はい、どうかなさいましたか殿下?」

「またシャルルに会いに来ていいかな?」

「え? ええ、それはもちろん」


 これまで全然考えたこともなかったけど、またシャルルに会いに来よう。


「シャルル、また会いに来るね」

「あぅ、んまぁ♪」


 僕の言ったこと、分かったのかな?

 多分、分かってないよね。


 でも、それでもいいよ。

 だって僕はシャルルのお兄ちゃんなんだから。


 自分の部屋へ戻って、ソファーに座る。


「すごいなぁ、マリエットローズ嬢は……」


 改めて、感嘆の溜息が漏れる。


 ……また話をしたいな。


 その時は、ゼンボルグ嬢じゃなくて、名前のマリエットローズ嬢って呼びたい。

 それで僕のことも、レオナードって名前で呼んで欲しい。


「茶葉、喜んでくれたかな?」



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[良い点] うぶな王子を洗脳して、弟教に入団させてしまったなマリー。貢物まで貢がれたぞ。
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