176 終わっていなかったことを告げる贈物
「失礼します。お嬢様宛にお荷物が届きました」
王宮に招待されたことと報告が一段落付いて、お茶を飲んでまったりしていたら、エマと、やたら高価そうな横長の木箱を二人掛かりで抱えたメイド達が入ってきた。
「私宛?」
「はい。こちらメッセージカードです」
一体どこの誰から、なんの理由で?
エマは答えながら、私宛のメッセージカードをお父様へと手渡す。
お父様のチェックが先と言うことね。
メイド達が木箱を私の前に置いて蓋を開けると、中には色取り取りの布が何枚も入っていた。
「まあ素敵!」
お母様が目を輝かせる。
私も驚いてしまった。
これでも公爵令嬢を何年もやってきたから、教養の一環として、多少なら物の善し悪しが分かるようになってきたつもりだ。
その私から見て、多分これ、一目見て分かるくらいとても高価な品だと思う。
「……この布、もしかして……」
お母様が布に触れて確かめると、どうやらこの布がどういった物なのか分かったみたい。
「ふむ、これはマリーへの贈物だね」
「私への贈物、ですか?」
メッセージカードを確認し終えたお父様が、私にメッセージカードを差し出す。
受け取って確認してみれば、そこには恐らく男性の代筆だろう力強い筆致で、私宛であること、先日楽しい一時を過ごしたお礼とお近づきの印に贈物をしたこと、そして差出人の名前が書いてあった。
「皇子殿下……!?」
驚きに思わず声を上げてしまう。
「あら、やっぱり。ヴァンブルグ帝国製よね、この布は」
お母様は布の質感からすぐに察したらしいけど。
だって、あの時の様子から、ハインリヒ殿下から贈物を貰うなんて思いもしなかったわよ。
しかも、あのオレ様系のハインリヒ殿下がこんな気遣いを出来るとは思えない。
つまり、ルートヴィヒ殿下かダニエラ殿下の差し金と言うこと。
そのことは、お父様もお母様も、すぐに理解したのね。
「どうやらヴァンブルグ皇家はマリーに目を付けたと言うことだな」
「そうね。騒ぎを起こして大使館を追い出された形だから、当日や翌日は避けたのでしょうけど。日を開けて、王宮に呼ばれた当日、それも帰ってきたタイミングを見計らって届けるだなんて、オルレアーナ王家を牽制する意味もあるのでしょうね」
「うわぁ……」
評価してくれるのはありがたいけど、王家とは別の意味で、あのルートヴィヒ殿下とダニエラ殿下が義父、義母になるのは、ちょっと遠慮したいわ。
これ、どう対処したらいいの?
頭を悩ませていたら、今度は別のメイド達が入ってきた。
「失礼します。あの……またお嬢様宛にお荷物が届きました」
「へ?」
また?
メイドが私の前に置いたのは、綺麗な布で包んでリボンで結んだ、手の平サイズの巾着のような贈物。
それと、生花の花束だった。
メッセージカードはまたしてもお父様へ。
「この冬に生花の花束だなんて、なかなか素敵な贈物ね。そちらの包みは何かしら?」
私よりお母様の方が興味津々で、私の手元を覗き込んでくる。
リボンを解いて布を開くと、中にはガラスの小瓶が。
その中身は……。
「茶葉? ……紅茶!?」
まさか!?
お父様を振り返ると、複雑そうな苦笑を浮かべて、メッセージカードを差し出してくる。
受け取って確認してみれば、女性の代筆らしい流麗な筆致で、私宛であること、本日のお礼と不快な思いをさせたお詫びに私が気に入った紅茶の茶葉を贈ること、そして差出人にレオナード殿下の名前が書いてあった。
「あらあら、マリーの話を聞いて、悪くない雰囲気だったのでしょうねとは思っていたけど、殿下としては満更ではなかったと言うことかしら?」
「王家の目はこれでなくなったと思っていたが、まだ辛うじて残っていたようだな」
「ええっ!?」
そんな好感を持たれるようなことはしていないはずよ?
途中、厳しい顔で侍従を叱責して、レオナード殿下の恥になると指摘したし、後半は弟可愛いの話しかしていなかったし。
いえ、これはあれね。
文面通り、お礼とお詫び以上の意味はないと見たわ。
「二つの大国の王子と皇子を虜に……さすがお嬢様です」
「エマ!? それ、絶対に違うからね!?」
そんな感動した目で見られても、誤解でしかないからね!?
「それでマリー、どうする?」
「そうね。マリーはどうしたいのかしら?」
お父様は複雑そうな顔だけど、お母様はちょっと面白がっているでしょう!?
「どうもこうも……今はどちらとも、そこまで考えられません」
「そうか。では型通りの返礼だけをして、この件はしばらく保留にしておこう」
「それならマリー、殿下にゼンボルグ公爵領への招待状を出すのなら、バランスを取って皇子殿下にも招待状を出さないと。ヴァンブルグ皇家にはオルレアーナ王家を選んだと思われてしまうわね」
それは確かに。
「もっとも、外遊のスケジュールがある以上、招待してもゼンボルグ公爵領へ来ることはないだろうが」
「王家の許可も出ないでしょうから、丁度いいわね」
それも確かに。
「でもそれだと、両家を天秤にかけているように見えませんか?」
「あら、いいじゃない。選ぶのはマリーよ? 王家でも皇家でもないわ」
「うわぁ……」
お母様、いい笑顔……。
「王子と皇子がお嬢様の愛を求めて競い合う……まるで恋物語のようで素敵です」
「うっとりしないでエマ!」
それじゃあ本当に私、幼い男の子を手玉に取って弄ぶ悪女みたいじゃない!
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