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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第一部 目指すは大海原の向こう
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15 大型船のプラン

「しかし、喜ぶのはまだ早いな」


 ひとしきり私を抱き締めて感動していたお父様なのに、急に我に返ったように私から身体を離した。


「大型船を開発すると言っても容易なことじゃない。ましてや大西海の荒波を越えていける大型船ともなると、王族はおろかどの国も保有していない船だ。一筋縄ではいかないだろう」


 普通に考えれば、相当な難題のはず。

 でも、私にはアイデアがある。


「それならこういうのはどうでしょう?」


 お父様の脚の間でまた反対側を向いて、執務机に向き直る。

 そして羽ペンを握って……。


「えっと……」

「何か書きたいんだね? これに書くといい」


 お父様がまっさらな羊皮紙を机の上に置いてくれる。

 私はそれに向かって羽ペンを一心不乱に走らせた。


「ふぅ……できました」


 そこに描かれているのは一隻の帆船。

 帆船……のつもり。


「これは……帆船だね?」


 さすがお父様、ちゃんと分かってくれた!


「ぱぱ、だいすき!」


 抱き付いてほっぺにチューしちゃう!

 お父様、デレデレだ。


「おおきくて、ほそくて、ながいおふねにします」


 前世の現代風のすらりと細長い帆船……のつもり。


 この世界の帆船は、まだ絵でしか知らないけど、全て木造で、やや太めのずんぐりとした感じの船ばかり。

 すらりとスタイリッシュな帆船はない。


 もっと言うと、小型船がほとんどで、前世の世界で言うところの、三角帆で風上へ向かうのが得意なキャラベル船や、大海を越える輸送量が増えたキャラック船に相当する帆船がまだ存在しない。

 おかげで、どの帆船も沿岸付近を航路にして、大西海の荒波を越えられないでいると言うわけね。


 ちなみに、コロンブスのサンタ・マリア号がそのキャラック船で、その僚艦二隻がキャラベル船。

 だから、まだそれらに相当する帆船がないと言うことは、先んじて開発すれば新大陸へ一番乗りできる可能性が高いと言うこと。


 私が描いたのはさらに後の時代に開発された帆船で、軍艦のガレオン船どころじゃない、さらにうんと後、クリッパーと呼ばれる快速帆船だ。


 どのくらい快速かと言うと、現在の帆船が平均三から五ノットくらいとすると、快速帆船は平均十五から十七ノットくらい。さらに最速で二十ノット以上出せるから、その速度は段違い。

 実際に、クリッパー登場前の帆船で輸送するのに一年半から二年近くかかる航海が、四ヶ月程度に短縮されるくらいの速度が出せたそうだから、勝負にもならないわよね。


 デザインは私の好きなカティサークをそのまま描いてみた。


 今の時代の帆船がずんぐりとしていて、マストが一本や二本が主流なのに対して、カティサークのような快速帆船は、速度を出すために細長い船体と、三本マストでシップと呼ばれる種類の帆装(ほそう)が特徴だ。

 三本マストに四角形の横帆がいっぱい張られていて、船首に三角形の縦帆があって、帆船って言われて真っ先にイメージするだろう、代表的な形をしている。


 ちなみに、カッター、ブリガンテイン、スクーナー、ジーベックも、シップと同じ、何本マストで、どの位置にマストが立っていて、どんな形の帆をどのマストに張っているかと言う、帆装の呼び名ね。


 帆船の抱える問題は、マストと帆が増えるとそれを操作する船員が大勢必要になるから、人件費が高くなること。

 だけどカティサークの時代の帆船は、帆を張るロープの編み方や索具が工夫されていたり、マストが木製じゃなくて鉄製で木製より軽くて丈夫だったり、さらにウインチを搭載したりと、操船が楽になるように工夫されている。


 そういう色々な発達した技術が使われているから、完成したらオーパーツの塊みたいな快速帆船になるでしょうね。

 だって十九世紀の船なんだから、五百年は時代を先取りよ。


 そんな快速帆船だけど、それでも蒸気船には勝てなかった。

 そこで、魔道具を推進器にして搭載すれば――機帆船とも言えそうだけど――さらに速度が出せるようになる。

 帆船の弱点である無風状態でも航行出来るようになるのも強みね。


 だからカティサークのような大型の快速帆船を建造出来れば、他領、他国の追随を許さないのは確実よ。


 ちなみに、なんで私がそんなに帆船に詳しいかと言うと……前世の父と兄の影響ね。


 父の趣味はボトルシップを作ること。

 兄はそんな父に影響されて、帆船のプラモデルを作るのが趣味だった。

 それで、当時大学生だった兄と父が晩酌で酔っ払うと必ず、当時高校生だった私を間に挟んで、帆船の魅力について語り出すのが我が家のいつもの風景だった。


 帆船に全く興味がない女子高生相手に延々と、帆船の種類、構造、歴史、羅針盤と六分儀の発明の素晴らしさ、索具の構造、丈夫なロープの編み方、操船方法などなど、熱く、それはもう熱く語ってくれたのよ。


 もうね、当時は二人が鬱陶しくて鬱陶しくて。

 いい加減にしてって、私がキレるところまでがワンセットだったわ。


 こんなことになるなら、もっと真剣に聞いておけば良かったな……。

 今更言っても仕方がないけど。


 そんな前世については語れないけど、快速帆船の構造、利点についてお父様に語る。

 さらに鉄の肋材(ろくざい)に木の外板を貼り付けた木鉄船体にすることで、巨木が手に入らなくても、大型船を建造できるようになる。

 しかも頑丈になって、荒波の外洋での運用も安心だ。


「……」


 あ……お父様、付いてこられてない……。


「マリー……」

「は、はい……」

「どこでこんな知識を得たんだい?」

「え~……あ~……」


 どう答えていいか分からなくて、目が泳ぐ。


「ご、ごほんでよみました?」


 自分で言ってて突っ込みたくなるけど、何故疑問形!?

 言い切ってしまえばいいのに!


 いやでも、後でその本を参考にして建造したいって言われても困るわね……。


「船舶の本を読んで、色々と思い付いたんだね?」

「そ、そう! そんなかんじです!」


 ナイスお父様!

 そういうことにして!

 これ以上突っ込まないで!


「ああ……私の娘が天才過ぎる……」


 また天を仰いで……これはどういう感情?


「……私には分からないことが多すぎるが、マリーには完成形が見えていると言うことなんだね? せっかくのマリーの発案なんだ、形に出来るか検討してみよう」

「はい! ありがとうございます、おとうさま!」

「パパと呼びなさい」

「はい、ぱぱ!」


 やった!

 これで大きく一歩前進ね!



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― 新着の感想 ―
[良い点] >十九世紀の船なんだから、五百年は時代を先取りよ 大航海時代飛び越して近代目指してて草。 [気になる点] >帆船に全く興味がない女子高生相手に 嘘だゾ、興味津々だゾ。でなけりゃ態々特定…
[良い点] ザ·大航海的な内容でよきかなっ! [一言] 大航海オンラインやってた頃思い出しますわぁ~。
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