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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第一部 目指すは大海原の向こう
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107 造船無双 船員室とハンモック

 ワクワクしながら階段を降りた先は中甲板だ。


「船尾の突き当たりが船長室で、その手前が会議室だ。家具も内装もまだだから殺風景だが、船長室はそれなりに豪華に仕上げる予定だ」

「ほほう。さすが船のサイズが大きいと、船長室も広く取れるのだな」


 シャット伯爵が感心したように頷く。


 例えば船長の執務室兼寝室として考えると、当然それなりに手狭なんだけど、船内の個室として考えると、そこそこ広い空間を確保出来ているみたい。


 対して、会議室はちょっと狭そう。

 テーブルと椅子を入れたらさらに手狭になって、動き回るのも厳しそうだ。


 船尾方向にある部屋を簡単に見て回った後、今度は船首方向へと向かう。


「うわっ、廊下の真ん中に鉄の柱が……これ、もしかしてマスト?」


 ジョルジュ君が、廊下の真ん中にズドンと通っているマストを、物珍しそうにペタペタと触る。


「坊ちゃんは知らなかったみたいだな。何しろマストは太くて長くて重い。上甲板に載せただけじゃ倒れちまうから、船底から伸ばしてんだ」

「なるほど~!」


 正直、通路のど真ん中にマストがあるのは邪魔よね。

 部屋も通路も関係ない、例えば砲列甲板(ガンデッキ)だったら開放的で気にならないと思うけど。


「そんでこっちが客室だ。手前に貴族用の広くて豪華な部屋を二部屋。その向こうに使用人や護衛のための部屋を四部屋。こんな特殊な仕様の交易船に、本当にそんな客人を乗せることになるかは分からねぇがな」

「念のための備えだ。普段はまず使うことはないだろうが、いざという時にないでは困るからな」


 お父様の言う通り。

 機密が多いこの船に、誰か余所の人達を乗せることは、まずあり得ない。


 でも、例えば、交易相手のアグリカ大陸の国の大臣や貴族が、今後の交易についての話し合いや取り決めのためゼンボルグ公爵領に行きたいから乗船させろと言い出した時、使うことになるかも知れない。


 だって、普通に自国の船で従来の航路をのんびり数カ月から半年掛けて来てくださいでもいいけど、途中で寄港する他領、他国で取り込まれても困る。

 さらに、他領、他国との競争で時間を掛けられない時に、話し合いの結果の持ち帰りで何往復もする必要があったら、事が決まって動き出すまでに何年も掛かってしまうかも知れない。

 乗船を渋った結果手遅れになりましたではお話にならないもの。


 当然、国家の状況が全く未知の新大陸でも同じね。


 その場合、よほどじゃない限り、相手は大事なお客様になるわけだから、丁重にもてなしてご案内して貰わないと困るわ。

 それと同時に、見られたくない物、近づかれたくない場所へ勝手に動き回られないよう、見張ったり抑止したりする必要も出ると思う。

 だから、そういう客人相手の接客もある程度出来るように、練習船のこの船で練習しておいて貰う必要があるのよ。


 それに、逆にお父様やシャット伯爵が相手国へ行く可能性がある。

 私だって、今はまだ子供だけど、成人する頃には交易や外交のために相手国へ出向く必要が出てくるかも知れないわ。

 だから、備えあれば憂いなし、と言うわけね。


「なるほど、上の事情って奴か」


 棟梁は政治の話に首を突っ込む気はないらしく、客室の話はそこで切り上げる。


 一通り中甲板を見て回った後、棟梁の案内でさらに階段を降りて下甲板だ。

 船尾方向で、早速ジョルジュ君が目を輝かせた。


「もしかして、この長い棒とロープは……」

「ああ、その太くて丈夫な棒が舵柄で、ロープが上甲板の舵輪に繋がってるぞ」

「やっぱり!」


 動滑車を通る二本のロープのうち、片方は側面の壁に繋がって固定されていて、もう片方は別の滑車を経由して、舵輪へと繋がっている。

 そんな動滑車が二つ、舵柄を左右に引っ張れるように、舵柄の左右に繋がっていた。


 私も実物を見るのは初めてだからテンションが上がるわ。

 舵輪、グルグル回したくなっちゃう。


「確かに、ここまで甲板を降りてきたら、船長の指示は聞こえないですな」

「それを見越しての設計とは、さすがマリーだ」


 手放しで褒められると、ちょっと困っちゃうわね。


「ああ、まったく大したお嬢ちゃんだ。ただなぁ、こっからここまでが船員室になるんだが……」


 棟梁がお父様へ目を向けてわずかに思案した後、私に目を向け直した。


「船員室にはベッドは入れねぇ、ハンモックに寝かせるって話なんだが、それを決めたのもお嬢ちゃんか?」

「はい。使い勝手次第では壁も取っ払って、どこでも好きにハンモックを吊して寝られるようにしちゃって下さい」

「え? ベッドに寝かせてあげないんですか?」


 ジョルジュ君が驚いた顔で私を振り返った。

 シャット伯爵も、まさか私が船員にベッドを使わせないとは思わなかったのか、意味が分からないって顔になっている。


 逆に自慢げな顔をしているのは、先に理由を説明しておいたお父様だけね。


「従来の航路は沿岸付近なので、それほど波は高くならないですし、嵐で海が荒れたら付近の島陰や入り江に逃げ込めば十分です。でも外洋に出ると波が高くなりますし、嵐に遭うと逃げ隠れできる場所がありません」


 そこが、これまでの航海とは大きく違う箇所になる。


「なので、寝ているときに嵐に遭って、船が大きく揺れて段ベッドから転げ落ちたとか、ぶつかったとかで、怪我や死亡する可能性があるんです」

「あっ! それならハンモックだと大丈夫ですね!」

「はい、その通りです」


 十六世紀に、イギリス海軍がそういう理由でベッドをハンモックに変えたらしいわ。

 最悪、船倉の上の空きスペースにハンモックを吊して寝てもいいのだし。

 実際に、樽の上でのハンモック生活と言う状況もあっていたみたいだから。


 もっとも、いくら省スペースのためとはいえ、そこまでは言いたくないから、個室じゃなくて狭い相部屋だけど、ちゃんと部屋は用意しておいたのよ。



 いつも読んで戴き、また評価、感想、いいねを戴きありがとうございます。

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