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悪役令嬢は大航海時代をご所望です  作者: 浦和篤樹
第一部 目指すは大海原の向こう
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102 造船無双 一目で分かるとんでもない工夫 船尾編

「そんじゃオレに付いてきてくれ。他の船にはねぇ、とんでもねぇ工夫の数々を見せてやるよ」


 『仕方ねぇ』なんて言いながら、その実、自慢したかったのか、率先して案内してくれる棟梁はちょっと可愛いかも。


 果たしてどんな仕上がりになっているのかワクワクしながら、みんなと一緒に付いて行く。


 向かう先は船尾だった。

 甲板に上がるでも、船首に向かうでもなく、真っ先に船尾を選んだ理由が、手に取るように分かってしまった。


「わあ!」

「ほほう、これはまたすごい」

「報告は受けていたが、本当に実現出来たのだな」

「だろう?」


 船に十分近づく前から、ジョルジュ君とシャット伯爵、そしてお父様がそれ(・・)を見て感嘆の声を上げる。

 三人のその反応に、棟梁は自慢げにニヤリと大きく笑みを浮かべた。


「一目で分かる、とんでもねぇ工夫だぜ」


 私達の会話を近くで聞いていた船大工達が、『どうよ!』『へへっ!』と言わんばかりに胸を張ったり、鼻の下を擦ったり、みんな得意げだ。


「みなさん、本当にすごいです!」


 思わず私が棟梁とその船大工達に声をかけると、嬉しそうに笑顔が零れた。


 発案したのは私。

 でも、アイデアを出して設計しただけ。

 それをちゃんと実現してくれた棟梁率いる船大工達には、感謝しかない。


「ええっと……お嬢様、何がすごいのでしょう?」

「ほらよく見てエマ、アラベルも。舵が船の中央に付いているでしょう?」

「それはそんなにすごいことなのですか?」


 どうやらエマとアラベルにはピンとこなかったみたいね。

 むしろ、それを知っていたジョルジュ君は、本当によくお勉強しているみたい。


「お嬢さん方は船に馴染みがねぇから分からねぇだろうが、こいつは本当にすげぇことなんだぜ?」


 どうやら自慢したくてたまらないらしい棟梁が、率先して説明してくれる。


「お嬢さん方、船の舳先(へさき)から真下を通って船尾のあの一番後ろの高い所まで、太くて立派な木材が、一本背骨のように通ってるだろう?」

「はい、ありますね」

「ああ、とても頑丈そうだ」

「そう、とても頑丈だ。あれは竜骨ってんだが、あれのおかげで船は大きく頑丈に造れるようになった上、竜骨に沿って水が流れてくれるおかげで、船が風下に流され難くなったんだ」


 だから、コグ船を含めて、今ある帆船のほとんどがこの竜骨を採用している。

 使われていないのは、作りが簡単な小舟や、荷運びに使われる平底の船などくらいじゃないかしら。


「良い工夫なのですね?」

「ああ。素晴らしい先人の知恵だ。だが、いいことばかりじゃなくてな。頑丈な竜骨が邪魔になって、それ以前のように舵を船体の中央に付けられなくなっちまったんだ」


 では現在、竜骨を採用した船の舵がどこに付いているかと言えば、右舷後方だ。

 ボートのオールのような舵櫂(ステアリングボード)右舷(スターボードサイド)に取り付けて、人が直接操舵している。

 そうやって右舷で舵取りをするから、岸や船に接舷するのは左舷(ポートサイド)でやるわけね。


 ちなみに、右舷をスターボードと呼ぶのは、ステアリングボードが変じてスターボードになったからみたい。


 それで前世では、『スターボード艇優先の原則』と言う国際条約があるのだけど、それには二隻の帆船が接近した場合、相手の船が左舷側に見える船は直進してよし、相手の船が右舷側に見える船が避けなさい、と言う衝突回避のルールが定められているの。

 この国際条約は、大航海時代、右舷に舵櫂が取り付けられていたことに由来するそうよ。


 今、それを思い出したから、これも法整備するよう、後でお父様に相談しないとね。


「それが、船体の中央に付けられるような工夫を初めてされたと言うわけか」

「だから皆様が驚いておられたのですね」

「おう、その通りだ」


 アラベルとエマが目を丸くして私を振り返る。

 その工夫の発案者が私だって疑っていない目で。


「それはどのような工夫なのですか?」

「実はとても簡単で、蝶番(ちょうつがい)を使っただけよ」

「蝶番って……あのドアなどに付けられている蝶番ですか?」


 たったそれだけのことでと言わんばかりに目を丸くする二人に頷く。


 そう、実はこの問題を解決したのは、なんと蝶番だったのよ。

 十四世紀に蝶番を採用したことで、舵を船体の中央に取り付け舵柄(かじえ)を使って舵を動かせるようになったの。

 ヨットの操船で、船尾で舵柄(取っ手のような棒)を左右に動かして舵を取っているでしょう? あれのことね。


「それで船内で舵柄を動かして、舵を取ると言うわけですか」


 アラベルが納得して舵と船内へ伸びる舵柄を見上げる。

 そんなアラベルに、棟梁はもったいぶってニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「お嬢さん、実はとんでもねぇ工夫ってのは、それだけじゃねぇんだな」


 そう、実はそれだけじゃないの。

 なぜなら、この舵柄を使っての操舵は、小型船ならいいのだけど、大型船では採用できないから。

 正しくは、不便で困るから、そのままでは採用できなくなってしまったのよ。

 そこで、それを解決する工夫が同時に採用されているの。


「ほう、その工夫とは?」

「そいつは、甲板に上がってからのお楽しみだ」


 棟梁ったら、なんだかお気に入りのオモチャを自慢する子供みたい。

 まるで晩酌で酔って帆船の話を始める前世の父と兄みたいな顔をしているわ。


「あの……その工夫も気になるけど、ここに、もっと気になることが」


 ジョルジュ君が、船体の、とある一点を指さしている。


 場所は、スクリューがあれば取り付けられているだろう位置。

 そこには、高さ五十センチ、幅一メートル程の、大きな穴が空いていた。



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