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浮上しない

作者: Wkumo

 黄昏時には魔のものが現れるという。

 そんなことを考えながら、黄昏時に歩いている。買い物に行くためだ。

 昼間は危険な暑さなので、こんな時間にしか外に出られない。

 わざわざ選んで黄昏時に歩いているというわけだ。

 

 何か面白いものがいないかきょろきょろしてみるが、何もいない。

 引きこもりの生活は退屈だ。毎日部屋に閉じこもって、寝るしかすることがない。刺激が少ない。

 だから、せめて魔のものぐらいは見ておきたい。誰に伝えるでもないが、そういうものを見ることができたらちょっとだけ嬉しいからだ。

 しかしながら俺は霊感と呼ばれるものを持ったためしがなく、おそらくゼロだった。

 魔のものは霊感がないと見えないのかと問われるとわからないが、たぶんそうだろう。

「はあ……」

 ため息を吐く。黄昏時でも暑い。危険な暑さだ。やっぱり夜にすればよかった。

 そんなことを考えていると、

「あ……」

 電柱のそばに「何か」を見た。

 群青色の小さな三角形がくるくると回っている。

 なるほど、これが魔のものか。

 ……本当にそうか?

 俺は三角形を注視する。

 こういうところから出てくる魔のものもいるが、これが「魔のもの」と断定するにはまだ早いだろう。

 まずは触れるかどうか確認してみよう。

 そう思って近付くと、近付いたぶんだけ三角形は離れてゆく。

 ははーん。

 これ、幻覚だな?

 なんだ、つまらない。結局俺に霊感はなく、三角形は魔のものなんてファンタジーなものじゃなかった。

 そう思って先に進む。スーパーに着くまでまだあと少しある。

 人通りはない。黄昏時は中途半端な時間なのだ。

 三角形は相変わらず俺の視界の隅でぐるぐる回っている。

 邪魔だなあ。消えてくれないかな。こんなものがあったら車が見えないじゃないか。

 俺は三角形を手で払おうとするが、消えない。

 まあ当然か。幻覚だしな。

 一人で頷いてみるが、ただの怪しい人になっただけだった。幸運なのは人通りがないこと。誰かが見ていたら俺は完全に怪しい人だ。通報されてしまう。

 いやそこまではいかないかもしれないが。

 まあまあ、いいんだそんなことは。

 魔のもの探しも飽きてきたし、さっさと買い物を終わらせて部屋に帰ろう。

 俺は足を速める。

 景色の流れるスピードが速くなる。

 信号のない横断歩道を渡って、しばらく行くとスーパーだ。

 黄昏時にスーパーの明かりがうっすらと浮かんでいる。

 三角形のぐるぐるがそれと合わさって、スーパーが何やら幻想的に見える。

 幻想的なスーパー。

 需要あるのか、そんなものは?

 

 俺はスーパーに入る。

 ここにも人がいなかった。

 かごを取り、野菜売り場で安めの野菜をいくつか見繕って、牛乳をかごに入れて、レジに向かう。

 セルフレジなので、店員さんはいない。

 バーコードを読み取って代金を払うと、俺はスーパーを出た。

 三角形のぐるぐるが視界に占める率はどんどん高くなる。

 邪魔だな。

 でも、払うこともできない。

 幻覚だからだ。

 肩にかけた袋を持ち直す。そうしないとどんどんずれてくるからだ。

 何が?

 袋が。

 三角形はぎらぎらと輝いている。

 さっさと帰って寝よう。ご飯は明日でいいや。

 重い身体を引きずるようにして、部屋に帰る。

 鍵を開けて、買い物袋を床に置いて、部屋に入って鍵を占める。

 何のことはない。いつものルーティンだ。

 違うのは、視界で群青色の三角形がぐるぐる回っていることだけ。

 パーティクルって言うんだっけ、こういうの?

 まあそんなことはどうでもいい。

 俺は買ってきたものを冷蔵庫に入れ、寝る準備をしてベッドに転がった。

 目を閉じると、三角形はますます鮮明になる。

 仮にこれが幻覚じゃなくて何かに取りつかれた結果だとしても、別に良い。

 朝になって俺が死んでいても、別に良い。

 退屈で苦しい人生が終わるだけだからだ。

 魔のものに会おうとしたのもそんな理由からだった。

 三角形は何の救いも示さず、ただぐるぐると回っている。

 どうせそんなものだ。世界を変える魔法なんてない。

 俺はこの部屋の片隅でひっそりと行方不明になるだけ。家族もいないから、行方不明者リストに載ることもない。

 つまらない人生だった。

 そうして三角形は俺を飲み込んだが、走馬灯も何もなく、俺の意識は浮上しなかった。

 それで終わり。

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