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顔が見られて嬉しい

今のアロナには、身を寄せる場所がない。図々しいと思いながらも、考えがまとまるまでほんの少しの間ここにお世話になろうと決めた。


アロナは部屋を出ると、アルベールの姿を探してきょろきょろと視線を彷徨わせる。


(アストフォビアの城ほどではないにしろ、このお屋敷もとても広いわ)


きちんと管理と手入れがされていると、一眼で分かる。フルバート家のような権力を誇示するためだけの装飾品ではなく、上質で味のあるものがセンス良く配置されていて、どこか落ち着く雰囲気が漂っている。


「いいかアルベール。プレゼントは欠かすなよ。思いは言葉にしないと伝わらないが、伝わったからと言って満足してはダメだ」

「だから、分かっていますって…」


その時、奥にある一室から出てくるアルベールの姿が目に止まる。彼はげんなりとした様子で、その隣には身なりの整った紳士が立っていた。


談笑しているような雰囲気に、邪魔をしてしまうのではとアロナが思うよりも早く、アルベールは彼女に気が付いた。


「フルバート嬢」


彼はすぐさまアロナに駆け寄ると、その頬を見て悲しげに瞳を揺らす。


「体調はいかがです?起きあがっても平気なのですか?」

「あ、はい。あの」

「お腹は空いていませんか?今すぐクロッケンを呼んで…ああ、それとも先に入浴の準備を」


矢継ぎ早に詰め寄るアルベールにアロナがあわあわと困惑していると、先ほどの紳士が制するように二人の間にすっと手を出した。


「おい待てまてアルベール。レディが困っているじゃないか」

「え、あ……」


ぱち、と目が合ったのでアロナは控えめに会釈する。瞬間、アルベールの顔が真っ赤に染まった。それはもう、誰が見ても一目瞭然である。


「あ、あの。ロファンソン様」


アロナが話しかけるが、アルベールは掌で顔を覆うようにしながら、ふいとそっぽを向いてしまう。そんな彼を押しのけるようにして、紳士がアロナの前に立った。


「初めまして。私はアルベールの母方の叔父、エツィオ・ロードマンと申します。以後、お見知りおきを」

「初めまして。私はフルバート公爵家長女、アロナ・フルバートと申します。ロファンソン様には大変お世話になっております」


アルベールの様子に気を取られていたアロナは、慌ててカーテシーをしてみせる。思えばこんな風に貴族令嬢としての振る舞いをするのも、久しぶりだ。


アストフォビアでは未知の体験ばかりだったがとても充実した日々だったと、アロナはふと思い出した。


「ええ、それはもうお噂はかねがね」

「は、はあ…」


エツィオはアロナの手を取り、にこにこしながらそう言う。彼女はますます、どうしたらいいのか分からなくなった。


(噂とはなにかしら)


様子からして、ルーファスに関することではなさそうだが…などと考えていると、アルベールは強引にエツィオを引き剥がした。


「許可なく触れるのはやめてください叔父上!」

「そんなに怒るなよアルベール。私は大切な甥を慮ってだな…」

「余計な気遣いは結構です!」


頬も耳も、なんなら首元まで赤く染まったままだが、まるで人嫌いの野生動物のようにエツィオに威嚇しているアルベールを見て、アロナは何度も目を瞬かせた。


(こんなロファンソン卿は初めてだわ)


エツィオに気を許している証拠なのだろうとも思うが、自分を見て顔を赤くしたのかと考えると、どうしようもなくそわそわしてしまうのだった。

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