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僅かに芽吹いた恋心

「…どうしたら良いのか、僕には分かりません」

「ですから私達はもう、なんの関係も」

「そうではない!」


多少なりとも声を荒げたアルベールに、アロナは瞬きを繰り返す。彼はすぐにバツの悪そうな顔をして、視線を下に向けた。


「あなたを引き止めるにはどうすればいいのか、良い案が浮かばないのです」

「私を、引き止める?」

「どうしても、そうしたいと思ってしまう」


齢三十も近い男がこんな意味不明な発言をして、自分はなんと情けないのだろうとアルベールは落ち込む。


これまで仕事上の取引であればいくらでも優位にことを進めてきたというのに、目の前の令嬢に関してはそういった思考が浮かばない。


もとよりこれが仕事であったならば、とっくの昔に手を引いている。だから余計に、どうしたらいいのか分からない。


「あなたより十以上も歳が上だというのに、情けないですね」

「い、いえ。そうは思いませんが…」


(なぜ?としか言えないわ)


アロナの頭の中は疑問符でいっぱいだったが、アルベールの考えをなんとか読み取ろうと、それを払いのける。


同情か、あるいは保険か。ルタが完全に力を取り戻すまで、もう少し様子見として側に置いておきたいということ。


きっとこれが正解だろうと、アロナはほとんど確信する。


「ルタ様の件に関しては責任をもって最後まで勤めさせていただきますし、決して口外はしないという念書も書きます」

「…そういうことではありません」


(あら、違ったかしら)


「もしも私の身を案じてくださっているのであれば、ご心配には及びません。女子修道院に身を置こうかと考えていますので」

「そっ、それはだめだ!」

「え?」


アロナは思わず、頓狂な声を出してしまう。アルベールは整った眉をふにゃりとへの字に曲げた。


「だ、だから…その…」

「申し訳ありません、ロファンソン様。私には意図を汲み取ることができません」

「…そうか。確かにそうですね」


初めて見る彼の姿に、アロナはどうしたらいいのか困ってしまう。アルベールは俯いたまま、視線だけをアロナに向けた。


その滑らかな白い頬には、濃い赤みが差している。


「女子修道院には、行かないでください」

「あ、あの」

「僕はもっと、あなたという人が知りたい」


嘘偽りのない本心。アルベールは、アロナ・フルバートという令嬢を、もっと深く知りたいと思ってしまった。


そこに、利害などは含まれていない。


「あなたの言う通り、契約結婚の話は白紙に戻しましょう」

「ロファンソン様」

「そして改めて、正式に婚約を申し込みたい」

「せっ、正式な婚約…?」


普段冷静なアロナの、取り乱した声。不謹慎ながら、そんな姿を見られたことが嬉しいと、アルベールは無意識のうちにそう思った。


「な、なぜですか」

「はっきりとした理由は、自分自身にも分かりません。けれど、あなたとこれきり会えなくなるのは嫌だ」

「い、嫌って…」

「どうか僕に、チャンスをくれませんか?」


決して長い付き合いではないが、彼がこの類の嘘をつくような人ではないと分かっている。そもそも騙したところで利点はないのだし、そんなことは意味がない。


(万が一。万が一だけれど…)


純粋な好意から提案してくれているのだとするのならば、とても心苦しいと思う。


(だって私は…)


もう二度と、恋に落ちることはないのだから。

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