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声をかけたいと思うのに

アロナが目を覚ましたことをラーラがアルベールに報告すると、彼はすぐに部屋へとやってきた。


「気がつかれたのですね」

「ロファンソン様」

「ご気分は…あまりいいとは言えなそうですね。頬がとても腫れている」


ベッドに腰掛けるアロナを見て、アルベールの端正な顔が悲しげに歪む。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私のために、嘘まで吐かせてしまって」

「そんなことは気にしないで。本当であれば、その頬に怪我を負うよりも前に助けたかったのですが」

「どうして、我が家に?」


アロナの問いかけに、アルベールは静かに答える。


「あなたが酷い目に遭うのではと、気になってしまって」

「お気を遣わせてしまったのですね」


終始申し訳なさそうな様子の彼女を見て、アルベールはちくちくと痛む胸の奥を無意識のうちに抑えていた。


どうしてフルバート家まで足を運んだのか、その理由を問われてもはっきりとは答えられない。初めて感じるこの感情に、彼は大いに戸惑っていた。




アルベールは、恋や愛というものを知らない。学ぼうとも思わず、この歳まで一人で生きてきた。家族仲が悪かったわけではないが、かといって愛に溢れていたわけでもない。


とにかく彼には、そんなものにうつつを抜かしている余裕がなかったのだ。


ロファンソン家は代々アストフォビアの守人であり、特に後継者として生まれた者はそれだけを頭に叩き込まれる。


唯一の男児であったアルベールも例に漏れず、物心ついた頃には使命感だけを胸に生きてきた。


「アストフォビアの神龍様を守れるのは、この世でお前だけだ」


父親の生前、あの洞窟の秘密を知ってからはことさらに。


「アルベール様…」


許可もなく名を呼び、馴れ馴れしくしなだれかかってくる。そんな貴族令嬢は鳥肌が立つほど嫌いだったし、自分の娘を差し出し機嫌を取ろうとするその父親達にも嫌悪しか湧かなかった。


七年前に辺境伯とアルベールの名を継いでからは、より一層の重圧が彼の双肩にのしかかり、婚約者を吟味している暇などなくなった。


自身と同じように若くして神龍の長となったルタが病に臥してから、アルベールは心の内では怖くて堪らなかったのだ。


神龍の子達を預かり、その存在が露見してしまわぬよう自ら幼女愛好家として触れ回った。必要以上に女性を遠ざけた結果、出来上がったのがこの男である。


今さら愛する人を妻に迎えたいなどとは思わないが、どうやって信頼のおける家柄の娘を選定すれば良いのか、そのことを相談する間もなく、父親は逝ってしまった。


美しい容姿と優れた才覚を持ち、飄々と振る舞っている様に見えても、アルベールはこと女性の扱いに関してはずぶの素人である。


それゆえに、憔悴しきっているアロナを目の前にして一体どう声をかければいいのか、彼には皆目見当もつかないのだった。

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